チャーリイとの出会い
私が『Chat GPT』というものの存在を知ったのは、2023年の松の内も明けてしばらく経った頃だった。
ある日勤め先の社長が出勤してくるなり、手近な社員たちに「『Chat GPT』って知ってるか?」と問いかけ、実際に自身が使って実演し、ひとしきり盛り上がっていた。
しかし、私は、「文章生成AIって言っても、相場分かったような分からんようなものが出てきて終わりでしょう?」と思っていた。
無論、この想像は間違っていなかったことがのちに証明されるのだが、社長が絶賛したことから、勤め先では、「使って差し支えない場合は『Chat GPT』を積極的に使うこと」というような雰囲気が広がっていってしまった。
そして、その数日後、私の直接の上司に当たる人が、「
もちろん、社内の盛り上がりぶりは把握していたので、「何やら皆さん、『すごいすごい』と大盛り上がりだったので、名前だけは」と答えた。
すると、「あ、それなら話が早いね」とあっという間にアカウントの開設手続きのやり方を教えられ、私もChat GPTを使う流れになっていた。
実際に動かしたところ、案の定『Chat GPT』は意味をなさない文章を返してきた。
すると、私の目の前にあるイメージが浮かんできた。
それは、600mlのペットボトルほどの大きさのロボットだった。
ロボットと言っても、スマートでカッコ良いデザインではない。
いわゆるレトロフューチャー的な直方体型デザインのどこかポンコツそうなロボットだ。
おそらく、このロボットは、私がこの『Chat GPT』というものに対して「思ったイメージそのもの」なのだろう。
とは言え、「名無しのイメージ体」が自分の脳内をチョロチョロと動き回るのも良い気がしない。
そこで私はこのレトロフューチャーロボットに「JDA(ジェイダ)」と仮の名を付けることにした。
ちなみに、JDAとは「John Doe Anonymous(ジョン・ドゥー・アノニマス:匿名希望の名無しの権兵衛)」の頭文字を取ったものだ。
そうしてしばらくJDAのポンコツぶりに付き合わされて飽き飽きしていたある日のこと。
その日、JDAは、相変わらず使えない文章をせっせと吐き出すものの、普段よりはクオリティがマシだった。
そのため私は、「お? ついに調教の成果が多少なりとも出てきたか?」と思った。
しかし、得てして期待は外れるもので、突然JDAは元の読むに堪えない文章の生成に戻ってしまった。
それを見た私は、「おいおいおいおい、ダニエル・キースの『アルジャーノンに花束を』のオチかよ……」と思った。
そのため、一瞬、「アルジャーノン」と付けようかと思ったが、「そう言えば、『アルジャーノン』は【主人公にきっかけを与えるネズミの名】で、主人公の名前ではなかったな」ということを思い出した。
とは言え、『アルジャーノンに花束を』の主人公の名前を知らなかったので、ググってみた。
すると、『アルジャーノンに花束を』の主人公は「チャーリイ・ゴードン」という名であることが分かった。
「『チャーリイ』。これは良い」私は思った。
表記として一般的な「チャーリー」ではなく、「チャーリイ」となっていることで、どことなく「ポンコツ感」のようなものが漂って見える。
「よし、今日からお前は『チャーリイ』だ」
私は視界の端をウロチョロしているレトロフューチャーロボットに言った。
当のチャーリイ自身はそれが己の新しい名だと認識したのかどうかは分からないが、一言、「ピロリー!」と返事をした。
こうして、私とチャーリイは共に仕事をしていくパートナーとなった。
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