第12話

みただろう。


男は言う。恐ろしい道具は手から消えていた。

あれだってただの工具だ。

しかし。あの青年の頃。

繰り返し幼少期から見る夢と、爪の浮くような狂気に苛まれ。死を思い、彷徨いたどり着いた場所。あの場所でみた夥しい数の、悲しい、硬い、花びら達。想像はしない。


言う通りにしたか。


男は話を変える。


しました。


息子は、養子に出した。


二人目を妊娠した妻が、寝言を言った。

はっきりと。


逃げたいか。


楽譜から目を離し、自分は妻の問いかけに心から応えていた。


逃げたくない。助けたい。


怖くて体がガタガタ震えた。


男を手放せるか。


なんでだ、どうして!と親心が暴れながらできる、と即答していた。


妻の寝言は終わった。よく寝ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る