「美夕のばれんたいん」

前編「美夕の勇気」

『小野篁に冥府の行事、「ばれんたいん」の事を聞いていた美夕。

 気になった彼女は苦手な篁に勇気を出して聞きに行った。』


 2月のイベント用に書いた物です。

 本編十四話~十五話の間の話です。

 あくまでファンタジーなので、平安にバレンタイン等は無いと言うのは無しの方向でよろしくお願いします。

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 ある冬の日、美夕は、邸の客間に泊っている。小野おののたかむらに相談をしようと思った。

 しかし、美夕にとっていや、日本中の女人にとって篁は敵、かもしれない。

 好色で女好きな男。そんな男の部屋に行くことは、自殺行為そのものだったが。

 二日前に言っていた言葉が、どうしても気になったのだ。


「冥府にはな。とつくにでも珍しいチョコレートという甘い菓子があるんだ。

 それを如月きさらぎ (二月)に好きな男に贈ると両想いになれるという…

 その日を【ばれんたいんでい】と言うんだ。」

 美夕は、それがどうしても忘れられず。晴明にどうしても、渡したいと願っていた。



 美夕は客間の前まで来ると中に向かって恐る恐る、声をかけた。

「小野様、いらっしゃいますか? 美夕です。」

 しかし、中から声は返って来ずしんと静まり返っている。

「いないのかな?」美夕は思わずほっと胸をなでおろしたが。

 肝心なことを聞けないのでは、何もならない。

「帰ってきたらまた、来よう。」美夕はきびすを返そうとした。



 その時、すっと突然ふすまが開いた。何と、篁が姿を現した。

「……何の用だ? もしかして、オレに会いに来てくれたのか。」

 と篁はにやにやしている。

 とっさに美夕は、「違います。通りかかっただけです!」

 と閻魔大王の官吏である篁に嘘を吐いてしまった。



「ふ~ん。地獄の官吏のオレに嘘吐くんだ…お前、地獄に堕ちても良いの?」

 とにやっとまた、笑う。真っ青になった美夕は、心底恐怖と悔しさと情けなさでいっぱいになった。

「まあ、冗談はさておき。オレに用があるんだろ?聞いてやるから入れよ。」

 と美夕を招いた。彼女は、後ずさりしたが。



 篁は、「じれったいな。取って喰わねえから入れよ。」と微笑んだ。

「今はな…」と篁は、美夕に聞こえないような小声でつぶやいた。

 美夕は言葉のあやが取れずに。「えっ? 何と言いました?」と聞き返すと

 彼は、「いや、何でもねえ…」とクスリと笑った。

 美夕は警戒しながら部屋の中へと入った。



「で、何の用だ?」と篁が聞くと。美夕はもじもじしながら

「あの…この前の【ばれんたいんでい】とか言う日のことと。

 ちょこれいとの作り方を教えていただきたいのです。」と恥ずかしそうに言った。



 篁は茶を飲みながら「ああ、あれのことか…でも、ただじゃ教えてやらないよ。」と言った。そら来たと美夕は身構えた。

「何をお望みですか? 金子きんすなら私、少しなら持っています。」と言うと。

「金じゃねえよ…」と篁は、じりじりと美夕を壁に追い詰めて両手を壁について逃げられないようにした。

 篁の綺麗な顔が近づいてくる。



 美夕はビクッと身を震わせて目をぎゅっとつぶった。

 すると、篁は美夕の頬に口づけをした。

「今日はこれで勘弁してやる。」

「えっ…?」美夕は目を丸くして呆気にとられた。

「何だ、その拍子抜けしたような顔は?良いんだぜ、お前がその気ならこの先をしたって…」篁は悪役のような表情をしている。



「もうっ! 早く教えてくださいっ!!」

 彼女は、ぷうっと頬をふくらませて篁を睨んだ。

 余程怖かったのかその目尻には、涙が溜まって光っている。

「悪かったよ。教えてやるから泣くな…」と篁は少し困り顔で美夕の涙を指ですくった。


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 ◇今回の登場人物◇

 ・美夕

 陰陽師☆平安妖草紙のヒロイン。篁が苦手。

 前回に続き、番外編の主役になっています。


 ・小野篁

 閻魔大王の直属の地獄の官吏。

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 篁って本当に油断できませんね…

 でも、良い雰囲気でした。

 あれ?晴明は…もちろんこれから出てきます。

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