第十一話「父子の葛藤」
そして、息子の
「光栄! 事の一部始終は、式神を通して伝わった。
罪も無い鬼神の娘を利用し、晴明と美夕を襲わせたようだな!?
これまでも、命を狙っていたのだ。晴明に何をされても文句は言えまい?
なぜ、未だに兄弟子の晴明を
光栄、俺に申してみよ!!」と告げると、光栄は顔を歪め、唇を噛み締めて沈黙した。
しばらく沈黙が続き、やがて光栄はぽつりと、つぶやいた。
「父上が悪いんだ……父上が、晴明ばかり、大切にするから!!」
「なんだと」
光栄は、切なげな表情をすると、
「父上は、いつだってそうだ!
それだけじゃない、あの事も! あの事も!! あの事も!!!
数えたら切りが無いくらい、晴明に出番を盗られてきた!!」
「それはまだ、お前が半人前だから晴明に任せたのだ!」と保憲が言うと、
光栄は、うっと唸りながらも歯軋りをし。
「それに僕は、知っているんだ! 父上がいずれ、
保憲はうなずき「そうだ。お前には素質はあるがまだ、晴明に比べて未熟だ」
と、厳しい口調で言った。光栄はその父の言葉を聴き、放心状態になった。
「それにお前の心には、闇がある。
遅かれ早かれ闇に心飲まれ、鬼に支配される。
そんな人間に暦道のみならず天文道まで、継承させるわけにはいかぬ」
晴明の適任性は、これからお前の目で見ていくといい」と保憲が言うと、
光栄はぎりりと歯軋りし、ぶるぶると震えだした。晴明を指差し
「晴明! 晴明! 晴明! 父上は、この化け狐に騙されているのです!!
僕はこんな男を兄弟子とは、認めません!! 僕に、闇があるとしたら……
それは貴方と、晴明のせいだ!!!」わめきちらすと、暗がりの方へ走り去った。
「光栄! 待て!!」保憲は悲しそうな表情をすると、光栄を追いかけていった。
闇に消えていく。保憲と光栄を見送る晴明と、美夕。
「あの……追いかけなくて、宜しかったのですか?」と美夕が恐る恐る晴明に聞くと、晴明はくるりと、美夕の方を振り返り優しい紫の眼差しを向けた。
よかった、いつもの晴明様だと、ほっと胸を撫で下ろす美夕。
「私が追いかければ、あの親子の絆は、戻らない……
光栄の事は、保憲殿に任せよう。それよりも、この鬼神の娘を手当てする事が先決だ」
晴明は鬼神、
その光景に胸がチクリと痛む美夕しかし、
ここは安倍邸、白月は布団に寝かされ傷には、五兵の一族秘伝の霊薬が
たっぷりと塗られて胸には、包帯が巻かれた。
「へ~っ、この
なかなか、可愛い娘じゃないっ。それにしても俺が留守の間、そんな事があったなんて。光栄の奴、許せないな! それで、晴明ちゃん!
この娘、これからどうするの?」と晴明に問い掛けると、晴明はあごを撫で。
「ふむ、そうさな。この娘は、私が診た所、光栄により心に深い傷を負わされている。身体の傷は完治しても、心の傷は癒えるか……」
白月は痛む身体をやっと、起こし晴明にすがってきた。
驚く事なく素直に受け止める晴明。チクッ、また、美夕の胸は痛んだ。
白月は両手を合わし「晴明様、私は、
後生ですから、私をあなたの式神にしてくださいませ」
涙を流しながら、晴明に
「なんて、可哀相な娘だ。晴明ちゃん。晴明ちゃんの式神にしてあげたら?」
と言うと、晴明はうなずき「白月よ。そなたが望むなら、私の式神となるが良い」
と、手を差し伸べた。
「はいっ! 晴明様。よろしく、お願い致します」
と、白月は、晴明の前にひざまずき、嬉しそうに晴明の手を取った。
その日から鬼神、白月は晴明の式神となった。
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