第21話 双子の神
「判った、判った。今のところ君たちを敵に回すつもりはないよ。アラオザルはこのままだ、何も起こらない。それでいいかい?」
内情の早瀬課長は対応が早い。元々その選択肢もあったのだろう。連れの本山も特に異議を言わないのが、その証拠だ。想定の範囲内なのだろう。
「理解していただけて幸いです。アラオザルにあなた達を呼び込んでしまったことは、長老には本当に申し訳ないことをしてしまったと思っているので、二度と足を踏み入れないと約束していただけると、もっと有難いのですが」
火野が畳掛ける。言質を取っておきたいのだ。
「そこまで約束しないと?」
「そうですね。お願いします」
火野は引かない。
「判った。約束する。但し条件が一つ」
「条件ですか。なんでしょう俺たちにできることなら」
「いや、君たちに、というよりはトウチョ=トウチョ人の長老にお願いしたいことがあるんだよ。多分君たちとも目的は同じだと思うんだが、違うかね?」
早瀬課長は「判っているんだぞ」という眼差しで見てくる。
「具体的に仰ってください」
「判るだろう。トウチョ=トウチョ人が崇拝する対象に会わせてほしい、ということだよ」
浩太が思っていたのも、その事だった。折角アラオザルまで来て長老と懇意になれたのだ、アラオザルをもっと下って行くとそこに封印されているロイガーとツァールに出会えるはずだった。
「それは俺たちの目的ではないですね」
やはり火野は認めない。本気で思っているかのような返答だ。本気で長老と話をしにきただけなのだろうか。
「本気かい?ここまで来てそのまま帰るつもりだと?」
「そうですよ。エ=ポウ長老のお話を聞けただけで十分です。あなたたちこそ旧支配者に会ってどうするつもりですか。その力の一端をどうにか手にすることが出来ないか、とか思って来られたのかも知れませんが、無理な話だと思いますよ」
確かにその眷属でも信者でも無い者に対して何らかの力を貸し与えることはあり得ないだろう。
「それはそうかも知れんが、私たちはここまで来て手ぶらでは帰れないんだよ。せめて一目でも実物を見てからでないと絶対に帰らない。そこは譲れない。もし邪魔するのなら殺してくれ、そうじゃなければ私たちは地下に向かう」
早瀬課長は真剣だった。確かに何も持ち帰らずトウチョ=トウチョ人の街アラオザルを後には出来ない。
「どうしても、ですか。でも長老の許しが出ない限り無理だと思いますよ」
それも当たり前の話だ。長老に無理強いをするのなら、そこは火野たちが許さない。長老か駄目だと言えばそれまでだ。
「長老に取り次いでくれないか。そうじゃなければ私たちはここから動かない」
駄々っ子の様に早瀬課長が言う。梃子でも動かないという気概が見える。火野と浩太がいれば力づくで外に出すことも可能だろう。がだ火野はそういう事もやりたくなかった。
「仕方ありませんね。では長老の判断を仰ぐことにしましょう。でも長老が駄目だと言うのであれば、そこで諦めてください。万が一許しが出たとしたら、俺たちもついて行きます。あなたたちの自由にさせる訳には行きません。そこは前もって理解しておいてください」
火野が折れた。浩太は元々そのつもりだったので長老次第ということは納得だった。浩太としても無理に、とは思ってはいなかったのだが、許しが出たらとも思っていたのだ。
火野と浩太は早瀬課長と本山を連れて長老の元に下って行くのだった。
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