第13話 アラオザル③
「昨日は確かにここに有った。」
誰に言うでもなく浩太がつぶやく。そこには元来た道と同じような森がずっと続いているだけだった。昨日はそこが確かに湖だった。もしかしたら森に見えているだけで実際には湖ということも、と思い浩太が徒歩で湖があった方向へ進んでみたが、そこは森だった。湖は無い。
「火野さん、どういうことなのでしょう。」
火野もその答えを持ち合わせてはいなかった。
「判らない。昨日は確かにここに湖があった。」
「何なの?二人で昨日夢でも見ていたんじゃないの?」
堪りかねて真知子が割り込む。二人を知っている真知子には、そんな筈か無いことは十分判っているのだが。
「火野さん、本当にこれはどうしたっていうんですか?」
瞳も黙ってはいられない。亮太は車から降りてきさえしなかった。
「俺にも判らないよ。この場所は間違いなく昨日来た場所だ。昨日はこの先に湖があって、その中心にアラオザルらしき島があったんだ。島まで行って、二人で入り口を確認して戻ったんだから、本当にあったんだよ。」
四人は暫らく周辺を捜索してみたが、やはり湖は影も形もなかった。
「折角見つけたと思ったのに、また一からか。」
火野が少し落ち込んだ口調で言うが誰もそれに応えなかった。
四人が車に戻ると車で寝ていたと思っていた桜井亮太が居ない。衛星携帯で呼んでみたが車に置いてしまってていた。
「亮太はどこに行ったんだ?」
その火野の問いにも応える者は無かった。
仕方なしに少し車で待っていると亮太が戻って来た。
「亮太、勝手にどこに行っていたんだ?」
「ごめん、何かが動いた気がして、それを追って行ってみたんだ。」
「単独行動は危険だといつも言っているだろう。」
「うん、判っているんだけど見失ってしまうと思って。」
「それでどうしたんだ?」
亮太が動くものを追っていくと火野たちが探しに行った方向とは逆の方に向かっていた。但し、方向からすると元来た道の筈なのだが、元来た道とは全く別の道のようだった。
しばらく行くと湖に出た。
「これが火野さんたちが言っていた湖か。ちゃんとあるじゃないか。」
しかし方向が全く逆だ。亮太は位置を確認して車に戻ったのだった。
「どういう事だろう。何かの結界のようなものか。これで誰もたどり着けない、ってことなのかな。」
「岡本君、何か心当たりがあるのか?」
「心当たりというか、それしか考えられない、ってことですかね。でもそれならなんで昨日はたどり着けたんでしょうか。」
「そういえば昨日は例の入り口には誰も居なかったじゃないか。本当はあの場所に見張りが居て誰も近づかないように結界も含めて見張っているんじゃないかな。」
「その辺りが正解かも知れませんね。向こうで何かあったのかも知れません。」
改めて五人で亮太が見つけた方向に行くと確かに湖があった。
「本当にあったのね。」
「なんだよ、信用していなかったのか。」
「だって、無かったんだもの。でも浩太だけならまだしも火野さんも同じことを言うから、少しは信用していたんだけど。」
「僕より火野さんを信用しているなんて、ちょっと傷ついた。」
「ちょっと、痴話げんかは後にして。さっさと行くわよ。」
五人は用意してきたボートで湖の中心の島に向かう。オールで漕いでいては時間が掛かって仕方ないので、火野と真知子が協力して推力を作った。
そして、五人はアラオザルと思われる島に上陸したのだった。
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