第6話 ミモルとアリア

 

 お父様のお部屋に突撃しようと立ち上がれば、控えめなノックと共にお父様とミモルがやってきた。グッドタイミングである。

 

「アリア様っっ!!」

 

 私が口を開くよりも早くミモルが駆け寄ってきて、ぎゅうぎゅうとこれでもかってくらい、抱き締められる。

 胸が、ミモルの豊満な胸が……。

 

「くっっ、くるしい……」

 

 私の声を聞いて慌てて腕の力を弱めてくれる。胸で圧迫死するかと思った……。

 

 腕の力は弱まったもののまだ抱き締めているミモルの背中を私はさする。

 

「ごめんなさい」

 

 きっとミモルは階段の手すりから落ちた私のことをとても心配してくれていたのだろう。抱き締められていて顔は見えないが、肩が震えているのは伝わってきた。

 

「なっんで……」

「え?」

「なんで、危ないことはしちゃいけないっていつも言ってるのに守れないんですか……」

 

 そう言って上げたミモルの顔は濡れていた。

 

「……ごめんなさい」

 

 もう一度謝るとミモルはハッとした顔をした。

 

「申し訳ありません。アリア様はまだ6歳、私がもっと気を付けるべきでした。……無事でよかった」

 

 本当に心配をかけてしまったようで、心が痛む。

 

 しかも、記憶が蘇った私は前世と合わせて計22年生きており18歳のミモルよりも年上なのだ。まぁ、中身は22歳というより16歳なんだけどさ。でも、やっぱり申し訳なさと気まずさを強く感じて、心の中でもう一度謝っておいた。

 

 少しずつミモルの気持ちも落ち着き始め、それからが大変だった。今回のことに責任を感じたミモルは私付きのメイドをやめると言い出したのだ。

 どう考えても私が悪いのに、予測して未然に防ぐべきだった。自分は私付きのメイドをやるには未熟だと……。

 

 その引き止めと説得にかれこれ3時間もかかった。

 

 主に説得はお父様がしてくれました。

 お父様、ごめん。

 

 そして、話したかったことは全く話せず、私の瞳の色が変わったことを誰にも指摘されていない……、と気が付いたのは夜にベッドに入ってからだった。

 

  

 

 転落騒動から数日後、実は良かったことが一つある。それはミモルとの関係性がぐっと近くなったことだ。

 以前から悪いものではなかったが、一線引いたところが無くなった。ミモルが遠慮せず意見を言うようになったのだ。

 

 私からしたら友達みたいに感じるのだけど、ミモルには年の離れた妹みたいに見えてるらしい。何だか不思議な感じだ。

 

「ふふっ」

 

 そんなことを考えていたら思わず笑ってしまった。

 

「アリア様、ボーッとしてないで早くお手紙の返事を書いてください。史学の先生が待ってますよ」

 

 ミモルの言葉に慌てて手紙の続きを書こうとして、ふっと疑問が浮かんだ。

 

「そういえば、どうしてミモルは私が落ちた後なかなか会いに来なかったの?」

「……ほらほら、早く書いちゃって下さい」

 

 教えてくれる気はないようだ。諦めてしぶしぶ手紙の続きを書き始める。本当はこんな手紙なんて書きたくもないのだが、公爵令嬢として返事を出さないわけにはいかないので仕方がない。一刻も早く婚約者候補の辞退をしなければ。

 そのためにも、今日こそお父様に会えるといいんだけど。

 

 お忙しいお父様を捕まえるにはどうすれば良いのか、手紙よりもそちらに気が向いてしまい、全く手紙は進まなかった。

 

 

 

 余談だが、後日お父様に聞いた話によると、ミモルは本当はもっと早く私の様子を見に来たがっていたそうだ。しかし、ミモルが混乱していたため会いに行くのを止めていたらしい。

 隠すようなことはないのだが、私に知られたくなかったのかもしれない。そう思い、このことは知らなかったことにしようと心の奥底に閉まったのだった。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る