ティー・ブレイク!
汐良 雨
探偵は歌舞伎町に居る
大都会、新宿。歌舞伎町のネオンを通り抜け、どこか懐かしい街並みを演出するゴールデン街のさらに奥、新宿には似つかわしくない暗がりの路地にぽつりと光る小さな看板。
「見つけた」
正直都市伝説だと思っていた。歌舞伎町には、人智の及ばない事件を専門に扱う何でも屋のような探偵が居る。噂程度の情報だ、鵜呑みにしたわけではない。それでも、俺にはそんな都市伝説レベルの噂にすら縋りたい理由があった。
無意識に歩調が上がる、高鳴る鼓動を抑え、半ば駆け込むかのようにドアのノブを引く。
「あの、ファイさんってここに居るッスか?」
そう言ってバーの中へと足を踏み入れる。瞬間。
パン。
俺の耳を劈くのは破裂音。
「!?」
視界が白む。暗がりから突然灯りのついた室内に入ったからだけではない。脳内では未だ処理しきれていない破裂音がハウリングしている。銃声……?いや、痛みはどこにもない。では何だ……?
明るさに慣れてきた視界に映るのは、カラフルな紙テープ。
「いらっしゃい!君が記念すべき十七人目のお客様だ!」
そっかぁ……!十七人目かあ……!とはならない。あまりにも微妙な数字である。記念すべきというほどキリのいい数字でもなければ、実績と呼ぶにはいささか少ない。
気が抜けるほどテンションの高い挨拶を聞きながら周囲を見ると、金髪の男女がクラッカーを片手に満面の笑みでこちらを見ている。日本人離れしたその容姿は、俺には少々威圧を感じる程の美男美女だ。
ん?待てよ。この男……どこかで……。
イケメンにしか着こなせなさそうな明るい茶色のスリーピース。肩まで伸ばした柔らかそうな金髪に、胸元に揺れるループタイのターコイズと同じ色の青い瞳。優しい笑みを浮かべつつも目の奥は笑っていない信用ならない表情。
「昼間はどうも、来てくれて嬉しいよ」
そうだ、思い出した。この男だ。昼間俺にこのオカルトチックな探偵社の情報をくれたのは。
――そういう事件を専門に扱う探偵社、って噂を聞いたことがあるんだけど
まるで「良い店知ってるんだけど」と自分の店を紹介して莫大な金額を取ろうとするタチの悪いキャッチじゃないか。
「そう警戒しないでよ、騙すような言い方をしたのは謝るさ」
一瞬
「その辺にしとけ、レガリア。客人が困ってる」
レガリアと呼ばれて、イケメンは困ったような笑顔で部屋の中央に歩いていく。
そこに居たのは、白い……子供……?
「僕の部下が失礼した。態度はアレだが能力は本物だ、悪く思わないでくれ」
「あ……はいッス……」
呆気に取られて思わず返事をしてしまったが、探偵と呼ぶには幼すぎる、どう見ても中学生くらいのガキだ。なにより目を引くのは真っ白な肌と髪、そして赤い瞳。人間離れしたその神秘的な容姿に、俺の視線は釘付けになってしまう。
「アンリ、椅子」
「はいは〜い」
アンリと呼ばれた金髪の美女が椅子を引き「どうぞ」と促す。言われた通りに腰掛けると、先程の白い少年が向かいの椅子を引きながらこちらを見る。
「はじめまして、僕がファイだ。そこの胡散臭いイケメンが助手のレガリア、そっちの頭の悪そうな美女がおなじく助手の
悪口に近い紹介をされた二人がにこやかな笑顔のままひらひらとこちらに手を振る。雰囲気に呑まれ思わず手を振りかえしそうになるが、ギリギリのところで踏みとどまり頭を下げた。
「僕らの事は……便宜的に探偵社という名前を使っているが、何でも屋だと思ってくれたらいい」
見た目に似つかわしくない大人びた喋り方。彼の側に立つ二人の様子から見て、彼がこの組織の長なのは間違いないのだろう。一体この少年は何者なんだ。
「早速だが、話を聞かせてくれ」
少年に言われて、ようやく自分がこの場所へ来た理由を思い出す。彼らに対する疑問は尽きないが、その堂々とした振る舞いからは彼らなら何とかしてくれるのではないかという期待を感じてしまう。
「俺の……」
少年の瞳をまっすぐに見つめる。吸い込まれるような赤い瞳。まだあどけなさの残る顔つきの少年は、真剣な表情でこちらを見つめ返す。その瞳の美しさに、一瞬気圧されそうになる。
一呼吸、俺は深く息を吸い込み、もはや願いとも呼べる依頼を口にした。
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