第37話 囚われの少女と話してみたら


 「お風呂ってそんなに久しぶり?」

 「お湯につかるのは二年ぶりだよぉ?」

 「だめだよ飲んじゃ、これ、はい」

 「ありがとうー、お水残して体ふぃてたりしたから喉乾いちゃって」

 ギッ

 ぽちゃん。

 「前は桶にお湯がもらえたの?」

 「うん、水だけど」

 ギィ

 「パンはちゃんと食べてる?」

 「うん、毎日夜に食べてるー」

 ギリ

 「一度お湯を捨てるよー」

 「はーいどぞー、わー吸い込まれるー」

 「じゃあ新しいお湯入れるよー」

 「きゃーー、わっぷわっぷ」

 「毎日何してるの?」

 「出来るだけ寝てるかな?」

 「いやなものが見えるの?」

 「みんな一緒だよ?」

 ギィギリ

 小さいころから闇しか見えないのか?。


 「聞いてもいいかな?」

 彼女が正確にこちらを向いて言う。

 「なに?」

 「女の子?」

 「いいや、男だよ」

 「リボン?」

 「ああ!!、いやこれは友達のいたずらで、忘れてた。」

 「おともだちかー」

 リボンを取っていると目の端で急に下をむくのが見えた。


 「気になる子がいる?」

 「前までコハクちゃんと一緒だった」

 「楽しかった?」

 「コハクちゃんが喜んでたー」

 「そうなんだ」

 「間違えると叩かれるからぁ」


 ギリギリリ


 「何を間違えるの?」

 「間違えなぁい、でもどしても分からないことがあって邪魔するんだ」

 「占いの邪魔?」

 「うんっ、お日様とお友達のあなたっ!」

 「そっそうなの?」

 「そうだよ、あなたを見るともやもやするぅ」

 「僕かー」

 「最後は皆同じなんだけどあなただけ違うの一度終わってるの?」


 話を戻そうかな。

 「二人で何かしろとかあったの?」

 「色々見たよー、でも最後が一緒だからそれを言うなって何度か怒られたぁ」

 「どんなことで怒られたの?」

 「最初に怒られたのは、そうあなたが生まれたときや」

 「私がいま最も必要とするものを手に入れる方法を教えろ」

 物まねか?細い体で胸を張って顎を上げて。

 ジャブパシャ。

 「関係者以外一緒に居ちゃだめって言ってたのにぃ」

 湯舟でいやいやをする、今十六かな、粗食のせいと日がほとんど入らない生活のせいだろう幼く見える。


 「最初の家ではちゃんとできてたのに」

 「結婚相手とか、宝石とか?」

 「うん、あれ?最初の家?次の家だっけ?」

 「ここにはどうやって?」

 「寝てたら連れてこられたぁ」

 そうだね。


 それから風呂から出てこちらの服を貸して、布団を変えて、換気を兼ねて外の風景を壁に映した。


 最初は風景の事を色々聞かれた、少し上からの風景だけど初めてみるようにはしゃいでいた。


 少しずつ聞いた話は、寺院の買収と言うか寄付金で情報を得るのを進言、その後に捜索隊を出したがクル集落まで来たところで山を迂回するか纏まって行動しない様に進言するも後に連絡が取れなくなった。


 これらの失敗をフクリちゃんに押し付けゾルダンに賠償金を請求、このときフクリちゃんは自分の死をはっきり認識したらしい。

 お風呂に入りたいと思いだした時から死のイメージが薄くなったそうだが以降二人は離されここに閉じ込められていると。

 ゴリッ


 「じゃあコハクちゃんがどこにいるか分からないんだね」

 「うん、場所は見えてもどこか分からないし、メイドさんも交流が出来ないんだ、って言ってたぁ」

 「そうか、これあげる、食べて」

 「何これ、小さいパンだねぇ」

 ゴリッ、ビキ

 「食べてみて」

 「はぁい」

 パク、シャク、モグモグ。

 「うんわー、口の中、ふわーって、ふわーっていい匂いがふわーって」

 バキィ、ゴリ


 「明日もまた持ってくるよ、そうだ、ここから出たいって思わないの?」

 「駄目みたい」

 「そうかー、お水もいい匂いにしといたから」

 「ありがとー」

 「じゃあまた明日」

 「はーいぃ」

 ウインドウを閉じてなんとも言えない感覚を味わっていた。

 口の中の物を吐き出す、歯が三本出てきた生え変わりか。


 「なあにこの汚い布団、いやっこの服も、て、オムルくん!!」

 腹の底からどす黒いものがこみあげてくる。

 「ちょっと、どうしたの、しっかりして、」

 体が震える。

 「なんでこんな、マナの色がおかしいよねえ!!」

 子供の神経と大人の理性がせめぎ合う感覚、何かの声が聞こえる。

 「大丈夫、大丈夫だから、ねえ、だれかっ、だれかリサちゃんを呼んでぇ、急いで!!」


 お風呂に入るだけで幸せそうに笑う少女。

 甘い味を理解できない少女。

 自分が助かると人が不幸になると理解している少女。

 また野太い声が聞こえる。

 私のせいで更なる境遇に落ちた少女。


 柔らかい肌のぬくもりが私を覆う、クリームさんとリサの匂い。

 私はこんなに幸せなのに、この世界に来て一度も不幸など感じなかったのに。

 うるさいこの声は何だ。


 うをおおおごおおあああぁあぁぁあぁぁ!!


 「しっかりして坊ちゃん、前を見て、私達を見て、誰が見える、今誰がいるの!」


 リリカがいる、微笑んでる、大丈夫なのか?、そうか、声が消えた。




 ん、んうん。

 朝かな、薄い布団、母さん、どこ、て、鉄の壁、いや宿車、そうだ、あの時気を失ったのか。

 ドアが開いた。


 「起きったかーい」

 「リリカ、どうなったの」

 「なんか君顔が真っ赤になって体が硬くなって倒れた。そんであたしがヒステリーだよって言ったらなんか納得してた。」

 いや納得じゃない、和製英語なんて分るわけない、前例があることに分類されたんだな。


 「こんな布団有ったんだ」

 「最初に三人で使ったじゃない」

 ああそうかリセットしろってこと?、さすがリリカ。お姉さん扱いしようかな、何もじもじしてんだおい。

 「出発は明日の暮れのころに変わったわよ」

 リサが湯飲みを持ってきてくれた。外を見ると少し赤み掛かっている。

 「それじゃあ夕食の準備をしますか」

 お茶を飲み飲みそう言う。

 「わかった、皆に言ってくる」

 「まかしてリリカ」

 「柔らかーく、ゆっくり、慌てたーら、確かめて、急いだーら、振り向く」

 なんかどこかで聞いたような、お寺だったかな。

 「お母さんがあやすときにいってた。落ち着いた?」

 「うん、ありがとうリサ姉」



 さてもう何日もかからないだろうし、昨日タコの捕獲に成功したし、本気で狩りますか。

 万が一の反応に備えてパーテイションの裏に向かう、団員の皆さんが横眼で見てるので手を振っておいた。

 「デバスさーん、そこの大きな鍋に半分くらいお湯を沸かしといてぇ」

 「お、おう」

 「セリアーヌさーんさっきの検証結果どうだったの」

 「ひゃい、え、あああれね、そっち行っていい?」

 かわいい属性出してきたな。いいぞう。


 ウインドウを最大で出して、あれ?一つを向こうに置いたままなのに大きくなってるな、やり易くていいか。

 足元を海に繋げて箱を投げる、セリアーヌさんと二人で、海底直なんだが水の透過を許可していないので水しぶきも上げない。

 セリアーヌさんの反応を見る限り隠れててよかった、見えないようにして作業を続ける後ろで報告してくれる。


 まず予想道理、赤外線は見えない、熱分布を認識できなかった。それ以上は何でも見える。

 以上と言うのは光が線か波かは今だに結論が出ていないから、青色LEDが話題になったころ大学生の弟子に聞いた。

 力が最も弱いのが赤で最も強く何色にも加工できるのが青だそうだ、つまり赤よりも弱い赤外線は電気の力がないと見えない。

 半面何色の光でも赤になれるわけで勢力的には赤が一番強いと言える。塗料利用以外の色付き電球など赤ばっかりだった記憶がある。

 光量を減らして色を付けるフィルムも青は苦手だと聞いた。

 紫外線などは他の光をカットできれば認識はできそうだとは学生の話。


 おお沢山入ったぞそれじゃあ蓋をしてと、昨日で懲りたからな、水の入った箱の重いこと重いこと。

 海面から引き上げるためブイを付けてロープを手放す。


 問題の透視の方だけどシャレで作った穴あき縮小鉄が妨害できたそうだ。

 イメージしたのは電子レンジの扉、あの小さな穴が何かを防ぐと聞いた。五種類ぐらい作ったけど二番目の細かさがちょうど良かった様だ。内張りを作ろうか。


 でも団長そこまで逃げなくてもいいと思うんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る