第10話 男爵家に行ってみれば


 あれから衛士団詰め所を出て屋台でホットドックもどきを食べて伝声塔を見に行った。


 声伝えのスキルは昔は外れスキルとされていたが見えさえすればどんな距離でも声が届くのを確認され今では各町や高い山に必ず伝声塔が有って数人は塔守がいる。

 道標にもなり夜には篝火も絶やさない塔は遠見筒の性能も高いおかげか天気がいいと2百キロ程先から見えるのでいろんな情報が飛び交っている。

 声は塔内に普通に響くので誰でも近くにいれば聞こえるのが難点か、中でひとしきり騒いでいたら書き物をしている人に怒られたから仕事?をする事にした。


 昨日リストアップした経済的に確実な人達に手紙を渡した、男性3名女性5名は好感触だった。

 特に病弱な娘をもった母親は支度金に金貨3枚を渡すとワンワン泣き出してリサさんのお世話になった。


 人も増えたので服や食料なんかの買い溜めもしないといけないしでリヤカーを出して引きながら買い物をした。


 リヤカーをピーピングウインドウに突っ込んで太陽を見ると三時ごろか、少女達の引渡しは明日になったのでサインラル家に向かうことにする。


 サインラル男爵家は此処から二時間ほど掛かるがキャンプ地までの距離は変わらないので大丈夫帰れる。

 昨日書いた資料と封筒、サラミドル家から出向となる人と此の町にいる信用の出来る人の名簿と常に持っている鉄で杖を作り等高線模型をウィンドウから取り出してリュックに詰めてから向かった。




 着いた屋敷は白い二階建で部屋は十も有るかと言うぐらい、庭も馬車が何とか転回出来る大きさ、門には老人に片足は届いているだろう男が小さな小屋で門番をしていて、団長さんの計らいで此方に窺ったと伝えると暫く待つように言われた。

 

 「オーイィ、奥様にお客さんだが今大丈夫かなー」

 裏庭で洗濯物を取り込んでいたメイドがぱたぱた走って消えていく、暫くして中年の小柄な女性が同じ所から出てきて近寄ってきた。

 「パンタ、此の間伝声管を付けてやったろういい加減倒れるよ」

 「へへ、下を向いちゃいい声は出ませんで」

 「たいした声じゃ無かろうに、で、どちらさん?」


 仕事を取るのもと黙っていたらパンタさんが顎を出す、言わないのか。

 「私はオムルこちらがリサで隣がリリカ、二人は僕の監視兼婚約者です」

 「へえ」

 婚約者まで付けたので信用が必要な話だと気付いてもらえたようだ。

 

 「セリアーヌ スチリス町衛士団長様の計らいで伺いました込み入った話になります、少し御時間を戴けますでしょうか」

 「ふーん」

 目を細めて見られた、三人合わせても三十台だものね。

 「まあ覚悟はしていたんだけどね、パンタ、通して差し上げて」

 「はい奥様」

 「そこも変えないんだね」

 「はい奥様」

 今度は眩しそうに目を細めるナサリアさんが手をたたいて。

 「カミルっ御客様です、テーブルの準備を」


 パンタ爺とぼけた顔をしながら体の重心は常に婦人の前との中間にある、なかなかの腕前だね。

 


 私達は正面玄関から奥さんに連れられて中に入る、入って直ぐに左右に階段がある、吹き抜けのエントランス二階の両脇に廊下があり扉が二つずつある、使用人の待機部屋兼納戸だろう。


 真っ直ぐ奥に扉が三つある、右側の扉を通るとなるほど見慣れた応接室があった、此の作りなら真ん中が食堂、奥が厨房、左が生活通路で二階が生活空間かな。


 婦人に勧められて席に着くとお茶やらお菓子やら出るわ出るわ色んな給仕やメイド、はては四、五歳の幼女まで。「おいでしました」には全員脱力してしまった。


 「はあ、お前たち、後はいいから下がってなさい、扉からも!」

 「思った通りの方だ」

 「其れが裏目に出てばかりの人生だったよ」

 「今まではですね」

 「見かけの割りに辛辣な事言うね」


 ん、?。


 「其の一番上の書類は子爵様からだろう?」

 「ああそうだった、まずは一読願います」


 ナサリアさんが編み上げた銀髪の後れ毛を中指で梳き上げる様子に不覚にも気を上げてしまいリサに白い目で見られてリリカが気に入った菓子を自分の領地に集め終わった頃に婦人が顔を上げた穏やかな日が反射して夫人を照らす。


 「済まないが上級貴族の言い回しが私には解らないんだ、要約を教えてくれるかい?」

 「奥様、私には普通の文面に見えますが」

 「「「「うわあ」」」」


 「ハンデル!!いきなり出るんじゃないよ」

 「領主様からの使いがきたと聞いて領民が騒いでいますゆえ」

 「お前変なこと考えて無いだろうね」

 「だとしても無理でした、奥様の後ろから近付くのがやっとでしたよ」

 「へえ?」


 「特に坊ちゃん、半身で驚くのやめて下さいよ、覚悟、本気でしましたから」

 私は右手を上着の右側の中に入れて握った腰のくないから手を離した。


 「済まないね、主人が最後に世話をした子でね」

 リリカがご満悦の顔でお菓子を食べてるから気にしていない、条件反射だから。

 「いえ此の町としても心強いですね、彼ぐらいの忠義に厚い人がこれからどんどん必要になりますよ」


 次のサラミドル家の紋章の入った書類を渡す。

 「此方はサラミドル家より出向予定の人員と此の町で伯爵が直接雇った名簿及び此のセレガの町で信用の置ける人達の名簿です」

 「えー詰まり私の首がいつ頃取れるんだい?」



 「・・・・・・・・・・・・・・」

 「ああっ、ああ、ああ、僕は馬鹿ですから、本当に申し訳ない先に此方を見せるんでした」

 私は慌てて領主による判決指示書と判決文が入った封筒をわたす。暫く受け取った封筒の中身を見ていた婦人が顔を青くして呟く。


 「金貨三千枚なんて、解りやすく剥奪と仰って頂ければ、・・・」

 「いや、あれ?領収書入ってませんか?」

 「ですからそんなお金が、て、え?」

 「有りましたか、よかった」


 「いや、あれ?領収済み?・・・ん?」

 「制裁金は全て領地に払われた下賜金で立て替えました」

 「は?あの何もしてくれなかったお方からの?」

 「ハンデル!、あのですが意味が解りません」


 「では端的に説明します今回此の領地で途方も無い鉱脈が見つかりました、が、今回の事変により信用に値する貴族が皆無に近い状況です、貴下は同領地の管理義務がある為支度金として金貨四千枚を下賜し格別な計らいにより伯爵様より相応の人員の派遣も決定していますのでこのままの領地総轄を命じます」


 生前叩き込まれた、あちこちの王族や首相などに報告する台詞を此の場に合うようにアレンジしたのだが美味くいったのか?婦人が口を半開きにしてソファーに倒れこむ。


 「何が何だか・・・」

 「以上が領主ローランド・サラミドルからのお言葉です、此方が金貨及び派遣人員の目録です」

 私が渡した手紙を受け取って暫く文字を追っていた目を私に向けて、疲れたように婦人が呟く様子を黒髪碧眼の黒の上下で佇むハンデルが嬉しそうに見ている、歳は十四か五、リサを見るなよ。

 

 「この封蝋が無ければ何の冗談だと叱り付ける所だよ、発端と成っている鉱脈って何だい?」

 「完全な人払いをお願いします」

 「・・わかった、ハンデル済まない洒落じゃ済まなそうだから」

 「解りました、パルン、カミル、ピリア、ユリ、聞きましたね行きますよ」


 どたばたと扉の向うで騒いでいたがやがて扉が開いて畏まって深めに腰を曲げてハンデルを迎える人達。ナサリア婦人の溜息が聞こえる。


 



 「まったく仕様が無い給仕たちだよ」

 「私は好きですよ、最悪飛び出して来そうな気配が有りましたもの」

 「リサの言う通りです、此の館は暖かい」

 「おどろいた、其の歳で父さんと同じ事を言うんだね」

 言いながら婦人がカップに手を伸ばすが手が震えてうまく掴めない、そりゃそうだろうな此の間から生きた心地はしなかったろう気丈に振る舞えても安心し、心の箍が外れると、そうはいかない。


 私は少し誤魔化しやすいように鉄製の等高線モデルをテーブルに置いて説明をする。

 「これは此の領地の縮小モデルです、ちなみに領地はほぼ元に戻っているはずです」

 「それは解ったけれどえらい精巧な模型だね、こんなもの作る必要があったのかい?」

 「これなくして話は正確に伝わりません」

 そういうと彼女は疑問符のつく溜息をついて模型を見る。

 「これは此の段の所で外れるように成っていまして」


 此のモデルは接着していない細い杭で縫い付けてあるだけで上にすっぽり抜ける、一枚目を捲ったところで気が付いたようだ。

 「これは、金かい?」


 私は黙って頷いて次を捲る、そして次を、捲る模型は全部で十四枚捲るたびに色の付いた部分が増える、粘土に油とアルコールを混ぜた物を塗っただけだが視覚的に解り易くなった。


 「これは流石に夢を見すぎてはいないかい?調べられるわけでも無いだろう」

 そう此の領地の山ほぼ全てが鉱石なのだ、領地の価値を考えたときにスキルのせいで真っ先に地中の調査に入っていきなりのビンゴであった、地中を調べるスキル持ちがいたのか、占い師に拠る予言でも聞いたのか、鼻の聴くやつはどこにでもいる。


 「そう差違は無いはずです、駄目なら僕が責任を持ちますよ、これ位の物は幾つも持ってますから」

 「いや、そもそも此の企画書は伯爵様の物だから経済的な心配はしていない」

 テーブルに出した宝石の原石を見て違うと言いたげに首を振る。

 「因みにこれも此の山で取れましたよ」


 言いながら模型の一部を指で示すと何か婦人の様子が変わった。顔を半分両手で隠してじっとしている、どうかしたのか?。


 「これが、ここから?」

 目が潤んで色っぽいな、嫌そうじゃなく、リサがリリカ並みに反応して睨む。

 「ま、間違い無いですよ、僕が直接掘ってきましたから、地層ごとに違う宝石が取れましたよ」

 「アノ人が言っていた通りなの?」

 大粒の涙がぽとぽと零れだした。




 暫くしてナサリアさんが落ち着いてから話を聞いて納得がいった、サインラル男爵が盗賊に襲われた日に長男と調べていたのはまさに此の場所だった、頻繁に水晶が取れるので一度調査を入れるべきか迷っていたそうだ。


 「夫はもし間違えていたら領民にまた迷惑が掛かると言っていたよ」

 聴けばその4年前に水害の危険があると河川工事を強行したそうだ、結果今迄一度も水害は無いわけだが其の時の無理が祟って領地は税を上げざる負えなくなったそうだ。

 まあそうなると便利なのが負の言葉だ、負の言葉は当たればドヤ顔、外れても気にされ辛い卑怯者の言葉だ、使うなら代案を入れなければただの役立たずだが、そう言う輩はいつでも何処にでもいる。


 残念ながら必要悪だけれどね。


 「其の様子を見ていた奴がいたんですね」

 「それは・・そうだね」

 

 今度処刑されるからね。

 「幸いといっていいのか肝心な場所は獲られずに済んだ」

 「皆が主人の逝った場所だからと必死になってくれたから」


 それは男爵様も予想外だったろうね、今ならハンデル君もいるし色々手が有るだろうけど当時そうなるなど想像も出来ないだろうね。


 「それでは此処からが本当の協議です」

 「作業は行う、結果によって税を変えてもらう、これは譲らないよ」

 「もちろん大丈夫ですよ、ただサラミドル家が全てお膳立てする訳ですから・・・・」



 三、四十分の協議で全ての取り決めが終わった、途中家名を名乗らなければならず一悶着有ったがおおむね理解して貰えた。

 紋章入りの取り決め書を睨むように見ていた婦人が疲れたように目元をもむ。

 「最初たったの三割税って何の冗談かと思ったけど、山を崩しながら出た残土を低い土地の嵩増しに使い防風対策に農園用の南向き斜面を作る小山や丈夫な倉庫を建て農地の近くには防風林を植え水害対策と土留めに岩石を使う、見て来たみたいに的確な計画じゃないか?」


 苦笑して横を向くしかなかった、リリカがジト目をして私を見ている。

 「これだけの量の鉱石を掘り出すと山の形は維持できません、崩すしかないので」

 割合だが出る鉱物が金十%、銀五%、鉄四十五%、銅三十%残り白物岩石、珪素とか重曹が取れる奴とか、玉鋼の材料は幾らか種類がある先に頂いた、因みに金の量はかなり少なめに言っている。


 あまり多いといくら縦長三文領地といっても他所の伯爵連中が欲を出す、宝石の方も大変だがかなりの量がある、私の模型道理に掘れば丁度いい量が誰が掘っても出てくる。


 一息ついてソファーに深く腰掛けて冷めたお茶を一口したときにノックの音がした。

 「奥様、カミセラと名乗る女性が面会を求めて来ていますが如何しましょう」

 「カミセラ?んん、ちょっと待って、ああ有った、会うよ茶室で待って貰っとくれ」


 計算力に秀でた女性で男運が悪く病弱な女の子を持つ経済的に行き詰まっていた女性だ。

 「あの彼女を誘ったのが僕なんです、えと、男が、その住み込みにして貰えると、」

 「その宝石置いていくかい」


 いかした女性だ、此の領地の物だと言ったんだから置いてけと言えばいいのに。

 「もちろんです」

 リリカが勢いよく答えた、さっきまで口いっぱいにお菓子を入れてたのに。

 其れからの婦人の対応は早かった。


 「子供ずれ?あたしの部屋に入れな、引越しはうちでするんだ、ハンデル!業者と行っとくれ」

 「後五人は今日明日に来ると思いますので・・」

 「わかったゾルダンにも指一本触れさせなかったんだまかしな」

 テンション上がりすぎ、これが地なのか?。

 「金貨千枚は騎士団から届きますので僕たちはこれで」

 次々に来る面接希望者来訪の声を聴きながら屋敷を後にした。

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