第5話 後片づけしてみれば
よく晴れた空を見ながら歩いてしばらくして町についた、入り口にはリリカが会った門番がいたようで軽い会釈で入れてもらえた、こいつも怪しかったが昨日の会話を聞いた限りでは大丈夫だ。
門から衛兵詰め所迄は大通りを真っ直ぐ行く、途中でスレンダー少女とエロ少女を連れた私は結構見られたちょっといい気分な自分に少しへこむ。
詰め所に着いた私は前に立つ哨兵に声を掛けた。
「あのセリアーヌ隊長はいますか?」
「ん。どうしたね、何の用かな?」
「あのこれを見せれば分かるって言われて」
後ろに背負った鞄から出したレコードを見せると哨兵が目を剥いた。
「大事なことを頼まれたんだ話を聞いて貰えるかな?」
この哨兵は昨日レコードを弄っていた兵士だ今日の当番かな、まあ都合がいい。
「分かった、おいジョイ、此処を頼む」
「はいよ。」
あ、此の人も女神信者だ。二人同時でも不思議じゃないか。
程なくして少し大きな扉の前に案内された、哨兵さんがノックをすると少しトーンを下げた女性の声が入室を促した。
中に入ると20畳程の部屋に執務机と真ん中に応接セットが置かれていてひとり掛けのソファーに妹さんとお揃いの金髪碧眼の女性がいた、目は幾らか鋭いが日々の研鑽による物だろう体から闘気が感じられる。
「私はコミネ村のオムル、母のいるバザルザの町迄旅をしています、此方がリリカ、反対がリサ、僕の保護者?みたいなものです」
碧眼をちらりと此方に向けて持ってきたレコードを弄りながら聴いてきた。
「これをどうした?」
「一昨昨日に伝言とともに頂きました」
「どこで?」
「私が野宿しているそこの山頂付近です」
「なぜお前に?」
「多分私の声送りの能力の所為かと思います」
「声送り?」
「あの」
覗きの能力者は調べた限り過去に五人いた、一人は犯罪者で当然だったが他の四人は面倒だからと処刑、又は暗殺されている。
一度や二度ならともかくヤヤコシイ犯罪がある度疑われて結局無罪が続くと生きてるから悪いとなったり近隣の貴族からは脅威と見られる。
私は幸いばれていないので隠す。
ちらりと後ろを見ると直に人払いをしてくれた。
「距離にも拠りますが見えなくても好きな場所から聞こえるように伝言を飛ばせるんですが」
「おお、後ろから・・で?」
「此の能力に三度だけ物を動かす力を与えられました、報酬は残り一回分の力ですね」
「どんなお人だった?」
実は神様らしき存在を感じたことを覚えている、多分。
死んだ後静かな空間を揺蕩っていたら凡そ知覚は出来ないだろう大きさ、星の固まり?がアリのレベルに感じるような皿のように思える器の周りにいた沢山の存在と一緒に吸い込まれていったのだが、そこで私たちをかき混ぜているような存在を感じた。
別に不安が有った分けでもないが渦の中心付近に無数の本当に何億という穴が感じられた、何気なく一番大きく感じる穴に向かって動いてみたら、そこからはまったく解らない、がイメージ的に見て此の世界はその存在のお気に入りの様に思える、知らんけど。
「姿は見えません直ぐ近くから声が聞こえて色々な物を渡すようにと持たされました」
「ふ-ん、如何すれば信じられる?奴らの仲間と考えるのが此のタイミングだと、な」
ごめんリサ一生懸命口を閉じているところ悪いが。
「きゃーーはははは、何するんですかオムルさんこんな所で!!」
「その声は!!」
「ひっ」
「あの時の女神様!!」
「いぃやあぁぁ」
逃げようとするリサをリリカが捕まえる、さすがに此のタイミングで外に出るのはまずい。
「と、まあこんな感じです」
だからってコブラツイスト掛けることは無いよね、前にプロレスごっこしたけどさ。
「いたーいです、酷いですよリリカさん」
「ごめんごめん、何時か実戦で使おうと思ってたんでつい」
「成るほど今度のことは全部君達絡みと言うことで良いのかい」
「はい、大体は」
「あの盗賊を捕まえたのも?」
目つきが変わった、さすが女性で隊長に成るだけは有る凄みが半端無い、私をジッと見ている、やるね隊長さん。
「先ずあたしですよ」
リリカがユックリ立ち上がる。
「ああすまんついな、それは後で、用事が有ったんじゃないのかい」
「はい、それではえ・と、連帯処刑される人の中に領土の益になる人がいるようなんです此の子が判別出きるはずです」
嘘ではない多分できる、だから睨まないで一人でも助けられるかもしれないから。
「ふむ、では・・そうだな私の妹を如何見る」
リリカを値踏みするようにみる。
「え、えと直接見てないですけど今感じたことは、大人しい箱入り娘さんで争いなんて一番遠い人で優しくて最近」
ちらと見られていることに気付いたリサが腰をうかす。
「女神に恋をしています」
「ひいっいぃやああああぁぁ」
「なるほど推察眼でもないし何だろうか?確かに当たっている、姉の私から見ても異常なほどあの鉄器を愛しんでいるように見えたからな」
「酷いです、足がばらばらになるかと思いました」
「ごめんって、何かリサ姉の困った顔が可愛くて」
「そんなのいりません!」
美少女二人の四の字固めは中々に見ごたえがあったグッジョブ。
「まあ牢屋の前を通るだけなら一度行って見るかい?」
そう言って机の横のベルを鳴らすと先ほどの哨兵さんが入ってきた。
「此の人たちを収監棟に連れて行く二、三人連れて来てくれ」
「はっ!」
「ところであの檻なんだがあれもそうなのか」
「・ええ、多分此方で使っていただいていいと思います」
ホントはあれを作るときの砂鉄採集などの苦労が有ったんだがあれを持ち運ぶ不自然さを考えると諦めるしかないよな。
「そうかあの頑丈さは何に使いまわしても頼りに成るし車輪の滑らかさも凄いし本当に助かる、ただ町の鍛冶屋は皆尻込みしてな何か鉄じゃないとか言い出して」
なるだけ軽く丈夫にしたかったので拡大鉄を使って作り、ベアリングを使って車輪が軽く回るようにしている、拡大鉄は原子か分子の大きさが合わないからか、なかなか錆びないから他にも違いが有るのかも知れない。
「あれ、そう言えばあそこにアレが有るって事は近くに居たのかい」
「いえ捕らえて直に野営地に戻って食事をしていましたから」
「其れは、豪気だね」
少し口が滑ったかな?でもあいつ等よりも腕が立つのは当たり前だし変じゃないよね。
「隊長呼んできました」
哨兵さんが帰ってきたのでみな席を立って部屋を出た、収監棟は出入り口と逆に歩いて一度中庭に出た正面にあった。
中庭は修練所を兼ねている様で長方形の敷地に卵形の二百メートル超のトラックがあり空いた角に木が二本、ベンチと井戸と一緒にあった、棟の一階は盗賊達の檻のようで連帯者は無いそうだ。
「貴族の家族は二階です」
入り口から別になっていて外階段で二階に上がる、死ぬ瞬間まで貴族か、まあどんな偏屈が知るか分からないからね。
入って直にリリカが俯いた、その少し清潔な牢屋の中には十四、五歳の大人しそうな少年がベットに腰掛けていたが此方に来て自分の束縛の不条理を必死に訴えていたけれどリリカの反応から二、三人は殺っていると思われる。
次の檻の前で。
「彼女は返してあげて人質同然で娶られた人よ」
「ジョリイ、記録して」
「は?しかし」
「後で判別師に見てもらう小数なら予算が足るだろう」
心眼や同調等のスキルもちは精神的に常に追い詰められるため可笑しくなったり薬ほしさに犯罪に走ったりしやすく二ヶ月に一度鑑定試験を義務付けられている、そのため判別師として資格を持つ人は数が少なく必然高給になる、処刑率を考えると低目と思うが料金が高額になる、その上今は十一人で一グループになって二グループ場合によっては三グループで判別する、三人五人の時代があったそうだが派閥で囲われる事が有ったそうだ、そのせいで貴族の血縁全てを見て貰うなど町衛士団の予算でどうにか成るもではない。
「あの子は?」
リサが言う、今の女性の反対の牢に十に成らない姉妹がいたがリリカが涙を浮かべて通り過ぎた、思ったよりトラウマになりそうだ。
一通り見終わったのは昼を過ぎていた結局43名全て見終わって奥さんが3名と子供が3人サインラル子爵に養子にして貰えればという条件で、妾や執事、メイド長の、え、其処までという人が五名を記録して貰えた。
中庭の井戸の近くのベンチで休憩したときに地面にぼたぼた涙を落としながらリサに寄りかかり泣き出したリリカは足を縮めて体躯坐りになってやがてリサに抱きついた。
「私が言うことでは無いだろうがこれは」
「はい僕のミスです、もっと殺伐とした空気だと思っていました」
小さい子が多かった、弟姉妹と一緒にいた年長の子は小さい子に悟られまいとあれこれと手を尽くして遊び相手をしていた、子供をあやし御話をして上げている女性もいた、無邪気に哨兵の気遣いだろうか持ち込まれた絵本を姉妹で一緒に読んでいた。
リリカの嗚咽は一向に止まらない、まあしょうがないか其れぐらいなら。
「リリカちゃん?もし他の領地に引っ越して監視できるとしたら後何人助けられる?」
今私は最初の応接間にいる、私も腹を決めた、どんな言い逃れでもしてやる、兎に角隊長を納得させなければ進めない。
「今から僕のギャラを使い込んで親と連絡を取ります、多分30分ぐらいが限度だと思いますので出来るだけスムーズにするためまず母に連絡を取り準備をしてもらってから本格的に交渉をします」
セリアーヌ隊長も緊張した様子で頷いた、なにせ20人以上の罪のない人達の身命が掛かっている。
暫く空を見ていた私は目当ての人を見つけた。
「母さん、聞こえる?」
「聞こえるって何よ、いまは休憩よ?」
「ごめん、あの、言い難いんだけどサラミドル伯爵と姿見連絡で話がしたいんだけど可能かな」
「オムルのお父さんは無理ね今館に居ないわ、・お母さんなら居るけど・・こんなのでいいの?」
再会のことだろう。
「どうしても今じゃなきゃだめなんだ」
「先触れを出すと言う事はやばめな事よね」
「犯罪貴族の子供達と母親合わせて十一名を預りたい、証明書類付で了承して貰えるかな?」
「ち、ちょっとそれ責任を持てと言ってるのよね、本気?」
このとき腹の底に何かが溜まるのを感じた。
「リリカが泣いた」
あれ?だから何だっけ。
「・・わっ解ったわ十五分頂戴、短気は駄目よ、ね?」
二度とあれはしないよ。
「解ってる、じゃあ此方は証人に師団長も一緒に通信するから」
あれって何だっけ?
「解った、じゃあ十五分後に」
「あの~今、いや聞き違いなら御免なさいサラミドル家の名前が聞こえた気が、、」
リサが上目遣いで此方を見ている。
「僕の実の親の家だよ」
だっ、バタンッ、ダダ
「逃がすかっ!!」
「いやーー、無理無理無理ィいい!!ちょーお貴族様じゃない、メイドでも無理ですぅぅ」
「へぇあんな事しといて?」
「ひぃっ!」
「僕の始めてをみんな奪ったくせに」
「ひぃぃ、お許しください、出来心なんです、あ、士団長様私は罪深い女でぐえっ!」
みんな暴露すると本当に捕まりそうなのでチョークスリーパーで声が出ないように、あれ?落ちちゃった。
伸びているリサを壁の方にある長椅子に寝かせて団長の方を見るとこちらも固まっている、まあね、こんな身なりで一人旅している子供が上から三番目の爵位で領主の息子って云われてもねぇ。
「い、今の声セイラン様じゃ、大都で修行して居た時に同じ風使い同士頑張ろうって声を掛けてもらった事がある絶対忘れるもんかと声を覚えていたんだが・・」
「声を覚えるのが得意なんですね、僕の育ての親で風刃のセイランで間違いないですよ」
「おおっ、じゃあ、会えるのだなその通信とやらで」
「ええ、でも変な話始めないで下さいよ」
「変なって、ああ、で、今セイラン様は如何しておられるのだろう?」
リリカがリサの横に腰掛けて愛おしそうに頭を撫でている、スキル誘惑は癒し系上位スキルでもある、今のリリカはリサのおかげでだいぶ落ち着いている。
「サラミドル家で妹の家庭教師をしているそうですよ」
「素晴らしい、御兄妹二人共の育成に携われたのですね、私など町衛士団長がやっとですが、いや先ほどの無礼の数々失礼いたしました、最初に家名を言って下されば面倒が減りましたのに」
「いやまあそのね?」
「どういう方です?」
壁のほうに目をやりながら聞いてくる。
「正式じゃないんですが、婚約者になります、二人とも」
「此れは肖りたいですね、こう言っては失礼かもしれませんが包容力というか男気と言うかうちの団員に半分でも有れば私も、ねえ」
楽が出来ると言う意味か?おうエロい流し目がくる、本気では無いだろうけど狙いは私かそれとも母か、見た目二十四、五歳で母と同じ位か今が熟れ始めの希少な時期なのに自分の歳が恨めしい。
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