第3話 討伐したら



 「おう幾らでも買ってやるぜたんまり持って来たからな」

 しらける、子供相手と思って演技もいい加減だ10人かな、リサも一緒に出てきて手拭で体を拭いてくれるまあ拭かれ慣れてるけど、やっぱ良い体だなあ、じゃ無くて服を着て戦闘準備しないと。彼女が自身を拭いてる間に装備を作る事にした。


 私は鉄と呼ばれる物である限り思うが侭に形を作れる、イメージとしては鉄を生き物のように蠢き形作らせるが、そのまま武器のように振り回すなど出来ない。

 重さは確りと伝わるので蛇や動物の体のバランスを見本にしながら形を整える。


 予備の鉄塊から鉄草履を作った、柔らかくする為に細いワイヤーを束ねて糸にしてささくれたりしない様に先を一体物にする、拡大気泡鉄で重さも驚くほど軽い。

 つま先とかかとにガードを付けると新しい手拭と一緒に服を着た彼女に渡す。

 「え、これ私の、凄い戦靴、いいの?」


 そう言いながら手拭を足に巻き、履いた鉄草履に私が手を当てて最後調整する。

 其の後に土魔法使いの特性を生かした武器をだす、たぶん土弄りをイメージする所為か腕力が強い人が多いので鉄製のスリング。


 勿論三角的なあれはゴムが無いため無理なので大きなバネ秤の先端にガングリップを付けて引き手を付けて歯車を付けて5倍力でバネを伸ばして引き鉄玉をはじき飛ばす強力な銀球鉄砲で20m位なら太腿程度打ち抜く。

 以前に魔獣がいるかと作って試したのだ。

 当然防具も作る、柔らかい宝玉を守る堅くしなやかで暖かい気泡鉄で胴を、咄嗟の時に武器にもなる肘当て、小さな盾の付いた篭手。カッコいいーて顔でこっちを見ていたので頷いて答えると嬉々として装備し始めた。


 「こーんな軽くて暖かい鎧始めてだぁ、貰ってもいいのっ」

 「上げないよ、いつ着ても良いけど。」

 一瞬俯いたが直に何かに気付いたように晴れやかな顔でお礼を言ってくれた。怖くて後のピーピングウィンドウを見れないけどね。


 私は動きやすいけど糞重たいセパレートタイプの胴とメリケンサック。


 リリカはバックミラー付きヘッドギアと前面をメインに拡大気泡鉄製の軽鎧、ただ手の甲や脛、前腕、胴に真ん中に窪みと言うか孔がある小さな丸い突起形の盾が付いている。

 実は彼女物凄いブキッチョで形の有る物が扱えない、反面私が生前いたずらで入った空手の通信教育を教えたら瞬く間に上達した、勿論それで身体強化した大人に勝てるはずは無いが細工はあるよ。


 「さーて、じゃあ合流地点に僕も行こうか、リサは此処にいて」

 「え??」

 「このウィンドウを見て」

 彼女の前に映像を出す、盗賊達の後ろから見ている視点だ。

 「言わなかったけどこれ攻撃出来るんだ」

 「ほんと!!」

 「うん、両側を崖に挟まれた道に誘うから逃げ出す奴らを牽制して」

 「勿論当たり所が悪いなんて当たり前に起こるから、ねえ?」


 少し悪い顔で言ってからスリングの使い方を説明する、ガングリップを握りハンドルを右手で引くと力に応じた位置でバネにノッチが掛かる、勿論掛かった位置で威力が変わるので強弓の引き方の一つを教える。

 「こうしてスリングを持った手を真上に上げてハンドルを引いて、体を横に開いて右半身を固定して、真っ直ぐ左手を的に向かって下ろすんです。」

 筋肉で引くより骨で引くほうが安定して引ける理屈だ。


 カチカチカチ、かしゅん!!


 擦過音が響き少し前の木に三倍縮小鉄球が三、四センチほどめり込む。撃ったらハンドルを元に戻しバネに引っ掛けなおす。


 スリングを渡すと表情を硬くして使い方を確認している彼女を誘導して荷車に乗せる、勿論ピーピングウィンドウからは空気も通る様にしている。


 「一番の注意点はこの映像の枠に触れないこと、この部屋の中に玉が出ちゃうからね」


 「じゃあ迂闊にドアを開けちゃ駄目だよ」

 そう言ってドアを閉めて私は駆け出した。

 「可愛いんだけど、?」

ドアを閉める寸前に聞こえた、頼りになる?おう、一寸テンションが上がっちゃった。


 20キロの胴鎧を付けて毎日の筋トレで鍛えた筋肉を振り絞って走る。今にも彼女が切れそうなのだ、見えた瞬間に、あ、やった。


 崖に挟まれた道に不安になった下っ端がリリカに絡んで来たのを裏拳で吹き飛ばした、いや文字道リ"ドウン!!"と腹にこたえる轟音とともに。今振るった右手を下ろすと機械音が聞こえて次の木片がセットされる。肩の肉が吹き飛んだよ、まあ良いけど。

 「あんたら何してるのか分かってんだよ!!全員ひっ捕まえるからかくごしてっぃ」


 最後噛んだのかな?


 「よっと、間に合ったねリカちゃん」

 「リカチャン言うなああ!!」

 一緒に筋トレしている内にこれ位の仲にはなる、いや今でも一緒にお風呂に入ってるけど、と、暴力なれしている男が一人私に向かって加速の能力を使って切りかかってきた。


 暴力には慣れているが素人だ、加速の能力は一瞬で80キロを超えるスピードになる、これを有効に使うには出来るだけ近付かないと意味が無い、特に生前2メートルからのボウガンを避ける修練を積んでいた私には。


 メリケンサック、某コミックで言うカイザー何チャラと同系等の武器を嵌めた拳が脇腹に突き刺さると横に90度体を曲げてその場でスピードスターさんは動かなくなった。

 肝臓あたりが逝ったな、メリケンサックは拳を固めるだけと良く勘違いをされるが実際は手首も固める物だ。

 拳を使って殴ると指や手首がクッションになって破壊力が落ちるが、メリケンサックの手のひらの中はサックの金具で埋められ同時に真っ直ぐ手首に力が伝わるため掌底打ちに近い力が拳のリーチと硬さで相手に直撃する。


 「約束だからねちゃんと教えなさいよ」

 はいはい国防費を貰える流派だからめったに教えないようにしてたんだけどね感が良いんだから、まあこの世界には関係ないか。


 私達は同時に左右に展開し賊に接近する。リリカは戦鎚持ちに突進した、待ち構えるように鎚を振り翳している真下に態々入り込む。

 体重一五〇キロ程の巨漢はさっきの仲間の有様から、理解できない技を恐れ不安を払うように強大な膂力全てを使い戦鎚を振り下ろす。


 まともに受ければ盾など意味を成さなかっただろう、だが下に居るのはリリカである彼女は自ら振り下ろされる戦鎚に向かって行き腕を振り上げ盾でスピードに乗り切る前のそれを払い飛ばした。有り得ない事態に目を見張る巨漢の胸鎧に右手の裏拳を叩き込むと同時に小さく呟く。


 「ファイヤ」

 たちまち轟く重低音と吹き飛ぶ巨体。

 種は薄い半円状の盾だ、中に木片を仕込み盾を相手に密着させて木片を燃やすと盾の中央から突起が飛び出し相手を殴打する、発火距離50ミリなのに強度をひたすら上げた結果特定の木なら爆発のレベルまでになったので出来た武器だ。完成するまでホント生きた心地がしないって言うのをこの歳で経験するとは思わなかった。


 もともとは小さな何処かで拾った盾で練習していた、一度家の鉄鍋を使ったみたいだけど当然母親に大目玉を食らった、鉄の使い方が分かったとき何よりも先に専用の盾を作ってやった。

 彼是注文をつけられ試行錯誤の末今の形になった。サスペンション付きの盾の発想もこれから得た、無かった時は一発で腕が腫れていた。戦鎚を弾き飛ばしたのもクッションによる。柔らかくしなる物に力押しすると反発されああなる。


 想像以上に何時も通りの動きをするリリカに安堵し此方も直剣持ちの腕力強化された兇刃を頭を後ろに地面すれすれまで下げて交わし其の反動で体を回転させ戦靴であごをかち割って意識を飛ばしてやった。


 これで5人、頬に傷のある男はリーダー格なのか戦闘が始まると直に後ろに下がって行ったがそれが間違いだったと後悔する間があったかどうか、6ミリ鉄球の雨にあたり正に蜂の巣状になって倒れている。生きてはいるようだが、一寸怖いかも。


 残りは5人だが少し逃げ腰になっている、さっきの二人が兄貴分だったのか?だが後ろに下がれない、何も無い所で一人倒れたのだ襤褸雑巾の様になって、魔法がある世界にいると色々深読みするからね。


 「なんだ!何なんだお前らはっ餓鬼が何のつもりだ」

 「唯ですむと思うなよ、お前ら泣いて謝って這いつくばって後悔してももう遅いぞ」

 「何年掛かろうが必ず追い詰めて生きてることを後悔させてやる」

 「無駄ですよ、あなた達は皆極刑ですから」

 「おう、そうかいなら捕まえて突き出せよ何処に出すかシラネーけどよへへへへ」

 手を出してきたので全員の手をワイヤー製の結束バンドで縛ってから道の脇に行ってウィンドウから檻を引きずり出した。


 旅の始めの頃大型の獣なんかが居たら罠に使うか自分が入って避難しようと思って作った檻だ、出し入れする為に車輪を付けている。

 「はい皆こっちに来てここに入って」

 言いながら誘導する、移動中に男が顔を此方に近付けて来てスーハーと息をすると。

 「お前の匂いも覚えたぜ」

 下卑た顔で言った、どうやらリリカにも言ったようで汚物を見る目で賊たちを見ている。


 全員を檻に入れて鍵を掛けてから教えてやる事にした。

 「ルーセリアさんですけど皆さん馬鹿ですか?黒幕の家に連れて行くって人質ですよね?ばれたら自分たちの事何もかも知られちゃいますよ、もう遅いですけど」


 ビックリした目で見てくるやせぎすの目に隈の出来ている男に掴んだ情報を教えてやる。自分たちに後が無い事がやっと分かったようだ。


 領主の次女で町衛師団団長の妹ルーセリアと言う女性を誘拐し、やりたい放題だった盗賊団がこいつ等で準領主の座ごと手に入れようとしている貴族の家に昨日彼女を連れて行っている。


 この世界に奴隷はいない、法的に人の売り買いは当たり前に極刑である、認められていないのに人攫いがいてリサは売られようとした、どうなるか、殺されるので有る、自分の子供に度胸を付けさせる為、自分の趣味を満足させるため、単なる憂さ晴らしの為、生きたまま食うため等大体が金持や犯罪者、たまに地下で働かせることも有るようだがどっちにしても長生きできない。


 特別なことのように聞こえるが前世でも良くあった、潰した組織も手指では足りない、特にあの国は裏が酷い。


 ルーセリアを攫った貴族も其の一人だった、何とか助けたけれど右手の爪は全部剥がされて、牢屋の中で全裸の彼女は恐怖と痛みと屈辱に意識を焼かれ気を失っていた。

 毛布と痛み止めの香と暖かいスープを断熱大型カップに入れて置いておいた。牢屋の出入り口はびくともしない様に鋼鉄で縫い付けて誰も出入り出来ないように塞いでやった。


 気配でもしたのか気付いたルーセリアにリサの声で開錠の仕方、お姉さんに連絡済な事、強度は小さいが錬度がそこそこある風使いである彼女に小さな丸い特別な穴で風神の模様を書いてある鉄扇を武器として渡す。


 子供でも現状を男に見られてるなんて知りたくないだろうし。


 鉄扇はもともと母の為に作った物で大きな自然の風はうまく取り込めないときが有ると言っていたので扇で風を作り小さな穴の風切を使って無数の鎌鼬を作れるようにした物だ、もち手の部分に棘付きメリケンサックが付いていて携帯性と攻撃性とに優れている。


 もう一つと、小剣が先に付いたサス付き小盾を渡したときにリサが女神様と間違われてすっごくテンションが上がって其の上気した艶姿に私の正気が跳んで行ったのは余談だ。


 「さて本命がきたようですよ」

 「お前らなにやってんだそこで」

 「ソイドさん、ヤーシスさん済いません、ガンドさんとギーベさんが遣られて」

 「はあ!?どこに遣った奴がいるんだぁ」

 「此処にいますけど?」

 「もう一人居ますよね其のでかい人の後ろに」

 「へえ俺に気付くかい」

 

 ソイドと呼ばれた大剣を肩に掛けた大男の後ろから少し小柄な細マッチョな男が出てきた腰には中型の大きく反りの付いた剣が二本付いている、自身の体に当たるほど振りを小さくされると捌くのに苦労する剣だ。


 剣の振り方には色々有るが兜割りと言うのが有る、正確に真っ直ぐに機械のように直角に刃を振るえるように鍛え上げ、威力を増す段取りをつける。


 降り方は鞭の動きを模倣する、鞭は太い根元の重量運動を軽い先にスピード変換しながら伝え一番軽い先端に行き着くときは音速を超える。


 刀の振り始めに握力を緩めて刃を置き去りにする気で出来るだけ早く、スピードを上げるイメージで腕を振る。

 インパクトの直前に握力を込め刀を腕に追いつかせる、毎日鍛えた鍛錬の型の僅かに手前に来るように刀の軌道に逆らわないように刀を体の重心より僅かに先に行かせインパクトの刹那に全集中させた筋肉を固めないように体を乗せる、何時もの型に、幾万、幾億と繰り返した鍛錬通りに。


 このとき生まれる一瞬の集中を残身等と言う人も居るらしいが隙である。


 この兜割りを常時出来るようになると気付く事がある、それはオーバーキルでは無いかと言う事。

 日本刀でこの振り方をすると人間の胴を三人四人一度に輪切りに出来たと言う記録があるらしい、いや五人だったか。


 ま、まあそこで力もいい感じに制御できて隙も無くせ、剣戟の幅も増えると言う一石三鳥の剣戯が二刀流だ。つまり本物なら強い。

 対して兜割を六・七割でいいから誰でもいつでも使えるようにする方法もある、重い剣、長い剣、大剣を振るうことだ、腕力が有ればもっと威力が上がる。つまりこの二人は少なくとも技と言う物を知っていることになる。


 もう一人のヤーシスと呼ばれた男が厭らしい顔でリリカを見ながら言う。

 「こっちの譲ちゃん貰うぜぇ」

 「まだ居るかも知れん周りを確認しろ」

 ソイドが気配を探るように半眼になる。

 「ごめん」

 リリカがヤーシスに向かって駆け出した、奴の後ろに何を見たのか一言謝って。


 じゃあ私も行きますか、最初から立ち居地を確認していて既にユックリ有利な位置へ移動していたので一気に大小に詰め寄る。

 「まじ物だこいつ!!」

 牽制の右フックを大剣で防がれる。

 「俺が押されるってどういう理屈だ!」

 後ろに一歩下がりながらソイドがうなる、そりゃそうだ見た目30キロも無い子供の一撃で体重移動させられるなんて思わないよな。


 人間の最も原初の武器は体重である、技量が同じなら体重が物を言う、軽いヒーローが重量級の悪役を倒すなんて実力差が無ければ起こらない。

 なので私は20キロオーバーの鎧を着ている。

 「つえいっ!」


 後ろから一瞬で二戟の殺刃を振るってきた剣の柄に沿うようにして裏拳を当てて体を泳がそうとしたら反対の剣がもう返ってきた。自分の腕ごと切る勢いだ。

 体を斜めに回転させながら後ろに下がる。

 「そこまでします?」

 「ソイドへの一撃と俺の居合いを躱す奴に加減なんかできるかよガキ!」

 盛り上がっているみたいだけどこっちはテンション少し下がっちゃた、それなりに修練は積んで居たんだろうけれど2.3年前迄だろうね残念、まあこの世界の技を見るには丁度いいか、振るわれる三本の剣を躱しながら技を見ることにしよう。


 リリカの相手は暗器使いかな?両手に短剣を持ち腕には鉄篭手肘にも小さな剣が付いている膝も凶悪な出っ張りがある、何処を攻めてもダメージを負いそうだが其処は私も考えている、攻撃したときの要所は型を崩さない限り各鎧がカバーするようにデザインしてある。

 「なーるほど、良くできてる、聞いたときは眉唾だったけど」

 ギィン、ガキンと金属の打撃音が響く。

 「こりゃ確かに欲しくなるなっ」

 最初の下卑たイメージが鳴りを潜め違う獲物を見る目になっている、身体強化した斬戟や拳脚攻撃の尽くを幾許の体重も無い女の子が裁き跳ね返すのだから装備の性能に気付いても当たり前か。

 

 でも其の装備の下の性能に気付かない辺りが残念。彼女は迫る凶器の尽くをスピードが乗る寸前で迎えて弾き返している、恐らく本能レベルでスキルを使いこなしているのだろう、当然リーチの差で敵の間近での攻防になるが肘を巧みに使い当たり前のように捌ききる、私相手の組み手の賜物だが彼女自身間違いなく天才だ。


 あ、何か睨まれた、(サッサト殺れ)て顔だこいつらも訓練と称して動けない人を切り殺したりしてたんだろうな多分。

 後ろで重低音が響き渡る三度も、本気で殺りに行ってる。リリカのチラ見で隙が出来たと思ったのか、あの男足音が変わったから多分暗器か薬か使おうとしたんだろうね、そんな隙彼女が見逃すもんか。

 じゃあ折角、感だけは戻りつつあるこの二人もスタミナ切れみたいだしね。


 虚実と言う言葉があるがゲームのあれでは無い、あれは手指だけで格闘らしくする為の演出であって実際にすればその場で撲殺される、全ての格闘技で防御はそのまま攻撃に繋がるように組み立ててあるからだ。では虚とは何か、分かり易いのは空手の後ろ回し蹴りかな、敵に後ろを見せると言う有りえない行為そのものが攻撃になる。


 こう!。


 ぐしゃ!!

 這い蹲るように前のめりになった私に切り掛ってきた二刀流は射程内に顔面を下げた為に遠心力で跳ね上げた私の右足の戦靴をもろに喰らうことになった。わあ目玉まででてる。

 「げえをぉおがああああ!!」

 「オラル!!」

 痛みにのた打ち回る二刀流、オラル。

 「この餓鬼いいぃぃ!!」

 憤怒に顔を歪めるソイド。自業自得。


 小さい体で生前の大人の何倍もの身体強化をしている男たちと立ち回れるのには当然理由がある、生前の私はある流派の古武道の宗家で師範をしていた、表立っては動けないが海外でも色々な組織を潰してきた、それなりに鍛えられた男達に囲まれるなど当たり前に起こる。


 新風義戦対と言う国防費獲得の為の異種格闘試合で30年連続優勝もした。頭のできは関係無かったからね一応柔道は参加してなかった。名前は世に流れても意味が解らないようにと付けられたらしい。


 まあ実戦経験の差もある、蹂躙では経験にならないから、そしてこの世界の男達が能力優先で戦闘能力を決めて掛かるので技と言うか身体能力を高める事をあまりしない、そのせいか足運びがまるで素人。


 今も後頭部を見せたとき爪先と踵で距離を少し詰めただけで一瞬隙ができた、まあ奴が二刀で切りかかるような一か八かの攻撃をしてきたので間合いを詰めてやったんだけど、でこうなった、て、目玉自分で入れたよ。


 私は繰り出される大剣の下を掻い潜りながら体を揺らす、最後がこれだ相手を倒すだけなら手足を振り回す必要は無い、筋肉を縮めた状態で近づいたり、待ったりして射程に入った獲物を型に嵌める、毎日繰り返す型に何が何でも体を持っていく。いわゆる0距離打撃だ。


 ただしテレビで流れている製作者の無茶振りによる遣らせ擬のあれではない、打撃は本来相手を打ち飛ばす必要はない、インパクトから4・5センチでダメージを与え倒せばいい。


 私は体の力を抜いたようにふらふら立ち相手に向かっていく大剣の溜めは致命的で私は直に懐に入れる、手足を振る必要が無い私に溜めは必要なく相手のスピードに合わせる必要も無い。

 射程に入れば何時でも攻撃でき、大男は攻撃を受けるか逃げるかの二択しか無くなった。


 ぶうん!!

 左に剣を振りぬいたので右の肋骨を3本砕いた。

 胴鎧脇の間に小さい拳をあてがって体を伸ばす慣れ親しんだ型に何が何でも。


 「こうっ!」


 ずうん、ぼきゃぁ!

 痛みに俯いて背中が見えたので大男の弱点腰骨を肘鉄(ほんとに鉄)で外してやった。


 まさに悶絶の体でうずくまるのを見ながら、あれ、あいつは?ああ目玉を入れて気が抜けたか押し込んだ姿勢のままで気を失っている。




        ★



 私はため息を付きながら焚き火の火を香炉の中の薬草に押し付けた、痛めつけた盗賊達の呻き声が煩いので痛み止めの香を焚いて遣ったのだ。呻き声が鳴り止むと八つ当たりの暴力が檻の中で始まる。最も個別に鉄格子に背伸びするくらいの位置で繋いだので足で突付き合う位しか出来ないけど、大男は流石に中に運べなく外に繋いでいる。


 正直勝手にしろだ身体能力には回復力も入るのか結構元気だけど、どうせ生きれても2・3日。あと2時間もすれば町の騎士団が来るのでそれまで監視のついでに遅い朝ご飯にしようと少し岩影に入って鍋を掛けている。


 後ろで物音がしたが気にしない事にした、やがて響く擦過音、盗賊達の悲鳴、4度擦過音と悲鳴を聞いたとき鍋が炊けたのでテーブルを出して器を並べていくとリリカがスープを入れながらポツリとつぶやく。

 「彼女死ぬつもりだったんだって」

 「そう」

 「土魔法で穴を掘って埋まって隠れて悔しくて情けなくてずっと泣いてたんだって」

 「うん」

 「君に声を掛けたのも死ぬ前に一度だけでも良い人に会ったことがあるんだって、良い思い出が有るんだって、自分を慰めながら死ぬ心算だったんだって」


 この世界に奴隷は居ないある意味では、まし、又は最悪、彼女を玩具にした連中は少なからず対価を払わなければ下手をすれば極刑である、一般人なら此れは怖い、なので囲うからには金子を払う、金を奪うのはただの泥棒なので遣りやすいが、彼女はうまく隠して金が溜まったときに逃げ出した。


 この世界に紙幣は無い、拠ってある程度金を持っていれば気付く連中が居る。自分を知る人が居ない土地でやり直そうと色んな世界を想像している矢先の盗賊である、折れるよな。


 背後に来たリサが暫らく所持無げにしていたので後ろを向くと思い詰めた顔で口を開く。

 「あれのなんて浴びても無いから・・・」


 わお、度直球!!

 「逃げても探し出すよ、僕の能力分かったよね」

 こんな良い女まず居ない本気で粘着するかも。


 ぽたぽたと彼女の足元で音がする。歳を摂っても慣れない物はある、思わず目を伏せて例の証拠、騎士団長に渡せたのかと話をはぐらかす。

 「はい、向こうに強そうな女騎士の人が見えたので円筒を渡して概要を伝えました」

 此処で少し恥ずかしそうにしていたのでぴんと来た、貴族に拉致された少女と姉妹だったはずなので。

 「女神・・」

 「きゃああぁ」

 「言われたんだ」

 「もう言わないでください!!」

 何も無い空間から優しい声が聞こえて盗賊達の処遇や犯した罪の数々、其の証拠の声が入った円筒型レコード迄出て来るに至って超常に結びつけても何も不思議はない。

 でもリサさん、かわいい、びくっ!!、後ろが怖いので食事にしましょう。

 

 「でもあれ何なんですか、こう・回せば分かるからって」

 食事を終えた後騎士団が町を出てきたのをウィンドウで確認しながらお茶を飲んでいるとリサが聞いてきた。


 「あれは音を記録する物だよ」

 どこかの本の挿絵を思い出しながら作った物で針の後ろに手の平サイズの薄くて軽く硬い板をつけて蝋の上を走らす、できた溝に優しく針を走らすと最初のとき近くでしていた音が聞こえると言うもの、ねじをきった棒に同じ針を置き円筒を回すと針が円筒の周りに線を描きながら上に上っていく、私に限っては全て鉄でできるので音の再現性は生前と遜色ない。


 因みに針の後ろに付けている板は私の能力で作った物で他では真似が出来ない、鉄を軽く薄くする為に分子だか原子だかを拡大した、例えばアルミホイルをちぎって隅をつまむと普通に持てるが縦横厚みを同じ比率で百倍の物を作っても同じ支点では真っ直ぐに持ち上がらない必ず曲がる、形を作っている何かの数の比率が極端に増えるからだ、体積の計算だったか。


 で、ピーピングウインドウで完成したのがこの拡大鉄だ?薄くしてもとにかく硬い、そして良く撓るこれのおかげでサス付き盾が完成したんだ。


 私はピーピングウィンドウからもう一台のレコードを取り出して回してみせる、そして回転を止め針を下に戻して回し始める、すると私の説明する声が流れ出すのを聞いて私の口とレコードを交互にシンクロして見てくる二人に思わず噴出してしまった。


 それ所では無いと言わんばかりにレコードを彼是いじっているので少し説明することにした。

 「手の平を口に当てて喋ってみて」

 あーーーーとかコンニチワとか喋ってる。

 「掌が小さく震えるでしょ」

 コクコク掛ける2

 「其の振動を此処に刻んでいるだけなんだ」

レコードに刻みついた線を指差して説明する。まじまじと溝を見る二人、やがて溝の不自然な触れ具合に気付いたのか溜息が聞こえだした。


 「良くこんな物つくれるわね」

 「こんなの見たことも聞いたこともありませんよ」

 「この実演だけで儲かるわよ」

 あれ?違う声が、ああウインドウの声か、レコードを下級騎士が回している様子が映っている。


 証拠の品を下級騎士に渡して彼女が詰め所を出てきたのでウィンドウを繋いで置いたんだ。


 「何度聞いても不思議だよな、回す加減が要るがぉこの声はヤーシスだ間違いない、エゲツナイ奴だな」

 「この声はソイドだ、嘘だろ、大きくて頼りになって気さくに良く話しかけてきて、いい奴だと思ってたのに」


 スキルを使って情報を探ってたんだろうね。


 「でもこの情報通りで仲買人も常連の奴らも纏めて捕まえてたんだよね」

 「ああ妹さんも居たって言ってた」

 「居た?見つけたではなくて?」

 「ああ、誘拐犯はゾルダン男爵だったんだが血だらけで転がってたらしいぞ」

 「何で又」

 「さあな、ただ屋敷の鍵を開けて隊長を迎えたのはルーセリアさんだったってさ」


 鉄扇の使い方は分かったみたいだね。出て来て仕返ししたんだ、お淑やかな金髪美女だと思ってたけど女神効果かな、今度リサに教えてあげよう。


 「ただ鉄扇と盾、香炉と鉄のカップを宝物みたいに抱きしめてたのが気がかりだって言ってたけど、今日これを手にして分かったって言ってたな」

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