第36話 名前

 フィルハークをベッドに寝かせた二人は、どちらも立ち去り難い様子で、まごまごしている。


 すると突然、ベッドに寝かせていたフィルハークの身体が淡くくれないに光り始めた。


「えっ!!」 「うおっ!!」


 ナーリアとカミトは突然のことに狼狽するが、フィルハークは苦しげな様子もなく寝息を立てている。そして淡紅の輝きはしばらくして消えた。


「ナ、ナーリアさん、今のは……??」


「……わからない……けど……今の光は、女神様の加護を得た時に発すると言われる【淡紅たんこう】の光……」


「……では、今、剣士様は女神様の加護を得たと?」


「……女神様の加護を得た時に発すると言われる光……【五光神色ごこうしんしょく】。 【淡紅】、【深紅しんく】、【青藍せいらん】、【紫紺しこん】、そして【翠緑すいりょく】。この五つの発光色だけは、他の魔法やスキルでは決して出ない色と言われてる……」


「では、やはり!」


「……うん、そうかもしれない……でも、私には、むしろ……そもそも、【五光神色】とは、エルウェ様ご自身が自らの神威を上げていく際に放たれた光……」


 ナーリアとカミトは、話しながらも一瞬たりともフィルハークから目を逸らしていない。というより目が離せないと言った感じだ。


「今の剣士様の光は、外から与えられたというよりは……内から、剣士様の魂が発したような光にしか見えなかったわ……」


「……ええ、俺も、そんな気がします……ただ、それにしても…俺……幻覚でも見てるんですか……?」


「…………………………………………………」

「…………………………………………………」


 二人とも飽かずにフィルハークを見つめている。特にフィルハークに変化があったわけではない。身長が伸びたわけでも、顔立ちが変わったわけでも、ましてや性別が変わったわけでもない。だが、明らかに——


『『……う、美しくなってる!!』』


 容姿が変わったわけではない。雰囲気、オーラ、身にまとう威光……どう表現して良いのか悩むナーリアだったが……


『あぁ……これはもう神威が上がったとしか……言い表せない……』



 🔷



 時は戻り、フィルハークがスキルを検証していた広場にて。

 

 【不知火しらぬい】を目の前に立たせたまま、俺は手ごろな木の切株に腰掛ける。俺はまだ、こっちに来てから自分の姿を鏡で見ていない。ザリアの家には目立つところに姿見とかはなかった。どこかにはあるのかもしれないが、積極的に「鏡を見せてくれないか?」等とは尋ねてない、なんか気恥ずかしくて。37歳、成人男性……”おっさん”、としての意識を引きずっているからか?

 だが朝、顔を洗った時に水面に映る自分の顔を見た。だいぶぼやけてはいたが、その姿は自分自身なのだと理解はできた。


「これは……俺、なんだよな??」


 目の前に立つ、類稀たぐいまれなる美少女、ではなく、美少年を見る。水面に映った自分の顔と似ている気がする。わざわざ自分の分身だか、幻影だか知らないが、本体以上に美化させて出現させることはないだろう。魔素の無駄だし。


 まぁ、こりゃ、盗賊どもが色めき立つのもわかる。しまいには「男だろうが女だろうが関係ねぇ」みたいなこと言われたし。

 何にせよ、前世(?)の自分が3Dになって目の前に現れるよりかは幾億倍もマシだ。イキったおっさんの姿で周りをうろちょろされるとゲンナリする。ま、ここまでの容姿であれば、これが自分自身であっても目の保養くらいにはなるな。


 そういえば、ここに来る前、〈転魂〉する前の、何と表現すればいいのか……あの精神だけの世界みたいなところで、「美少年に生まれ変わりたい!」みたいなことを恥ずかしげもなく叫んでたな……うわ、いくらパニくってたとはいえ、うぐっ……


「ん、そういやあの時、なんか〈魂の欠片〉を使ったよな……ああ、これだ」


魂の能力ソウルアビリティ

真魂再生しんこんさいせい-淡紅-


 そうだ、これになぜか〈魂の欠片〉を使いまくったはずだ。そして「〈転魂〉出来ません」ってなって……なぜか〈魂歴の残渣こんれきのざんさ〉を手に入れて……?  そして気づけば……なぜか淡く赤色に光っている……なんで?


 そもそも何なんだ、この【真魂再生しんこんさいせい】とは? なぜ発動した?? 俺があの時、恥ずかしげもなく叫んでたのは……


『絶世の美少女もかくやと言わしめる美少年に生まれ変わって、仲間思いで弱きを助けるすばらし……』


 あの時は、子供のころ憧れていたゲームの主人公を思い浮かべて叫んだだけだった。その願いで発動するのが【真魂再生しんこんさいせい】。真なる魂を再生させることが、俺が理想とする姿……いや、これは外見の問題じゃない。むしろ……


 私欲を満たすために俺を慕う後輩を死に追い込んだ。ここまで薄汚れた自分の『魂』に絶望していた。ずっと生まれ変わりたかった……いや、戻り、たかった……?


「……なんだよ、『戻る』って。ここの全てが初めましてじゃないか。そもそも今の名前だって、レイリスに聞かれてとっさに付けた名前……」


 そう、おれは『フィルハーク・ヴァイス』。子供の頃、RPGをするときに必ず主人公に付けていた名前だ。だけど……なんでこの名前思いついたんだっけ?? 俺の子供の頃なんて、せいぜい自分の名前をもじって使うくらいだったよな。しかも姓の『ヴァイス』なんてRPGでつけてないはずだ。字数制限もあるし。

 うーん、なんでこんな名前思いついたんだ? 初めてRPGをやったのは小学校低学年くらいだ。当時一番仲の良かった友達なんて、まんま自分の名前つけてたよな、『勇者あきひこ』とか。


「なんで俺はそうしなかったんだろうな?? 『勇者さ〇〇』」


 ……『勇者さ〇〇』……ん? えーっと。勇者さ、さ……え? なんだっけ?? 俺の名前!? え? え?


「いや、落ち着け。ど忘れしているだけだろ……あれ、苗字は……下の名前は……」


 いやいや、落ち着け。綾香は、妻の綾香は俺のことなんて呼んでたっけ?? いや、覚えてるんだ! お前が初めて俺を下の名前で呼んだ時のことは!! お前は再会してからも俺のことをしばらくは『せんせい』って呼んでた。


 ◇


「流石にもう『せんせい』はやめてくれよ。特にベッドの上では……ものすごくイケナイことしてるみたいではないかね……」


「……いや、してんじゃん、イケナイこと。私まだJKなんですけど、『せんせい』??」


「…………ごめんなさい。でもさぁ…」


「んふっ な〜んて、ホントは私も名前で呼びたかったんだぁ〜大好きだよ『さ○○』!」


 ◇


 嘘だろ? 何で思い出せないんだ……綾香、お前に初めて名前呼ばれた時、俺すごく嬉しかったんだ! 嬉しかったんだ!!

 また、お前に名前を呼ばれたい! どこにいるんだ?? ここはどこなんだよ!! 俺はここで何してるんだ!!!


 帰りたい!帰りたい!帰りたい!帰りたい!帰りたい!帰りたい!帰りたい………………


 綾香の名前を叫ぼうとした。だが、出てきた言葉は…………


「助けて——ナーリア!」


「フィルさまっ!!!」


 向こうからを叫びながら、駆けつけてくる人影が見えた。とても安心できる声を聞いて俺は……暗闇に落ちた。





――――――――――――――――――――

【あとがき】

 古き良き異世界転生ものが好きで、書き始めちゃいました。お暇なときにでもフォローや『★★★』いただけると書き続けるモチベが爆上がりします! よろしくお願いします!

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