12品目 オーク肉のハンバーグ
「俺はサラクトラの警備団長なんだが‥‥‥魔物に人が襲われてると聞いて駆け付けたんだけどこれはどういう状況だ?」
「驚かせてすまないな。この魔物達はテイム済みだから心配しなくて良い」
「テイム‥‥‥?確かに冒険者の中にはテイマーは居るが‥‥‥いや、従魔証の確認をさせてくれ」
俺達はこれから街の冒険者ギルドに行って冒険者登録と従魔証を発行してもらう事を告げたけど、警備団長さんは渋い顔をして悩んでいるようだった。
「んー‥‥‥俺には判断できんな。冒険者ギルドに判断してもらうか。すまんが、冒険者ギルドの担当の者が来るまで待機しててくれるか?」
部下に呼びに行かせてただ待っているのも暇だから、少し世間話をしているとこの警備団長さんの名前はカインさんと言うらしい。
暫くすると先程の警備団の人ともう1人大柄な男が馬に乗ってやって来た。
「ギルドマスター!?まさかあなたが来るとは‥‥‥」
「よおカイン。『黒の冠』をテイムした奴が来たって聞いたから見に来たぜ。ほう‥‥‥確かに見た事ない魔物だな。これはエルフの姉ちゃんがテイムしたのか?」
「私ではない。ノワル殿に乗っている男がテイムしたのだ」
「シンです。一応テイマーなのかな?」
「俺は冒険者ギルドのギルマスをやってるゴードンだ。シンがテイムって本当か?この魔物より強そうには見えないが‥‥‥」
俺はノワルと出会った時の事をギルマスに話すと「そのような場合ならテイムできる可能性もあるのか?」と頭を傾げていた。基本的に魔物をテイムするには力で服従させる事が一般的らしいけど、あまり詳しくは分かっていないようだ。
その後はギルマスがノワルとゴマに危険はないと判断してもらい無事に街に入る事が出来た。
「このまま冒険者ギルドに来るんだろう?せっかくだし俺が受付してやるよ」というのでギルマスと一緒に冒険者ギルドに入る。
中には数名の冒険者が居たがギルマスと一緒にいるせいか絡まれるというお約束もなく、無事に冒険者登録と従魔証を発行してもらえた。
「簡単に説明するとだな、冒険者にはランクがある。F~Sに分けられていて、最初はFランクからスタートだ。あそこに掲示板があるだろう?あそこには依頼書が張ってあるんだが、自分と同じランクまでしか受ける事はできないからな」
「俺は依頼を受ける気はないんですけど、それは大丈夫なんですか?」
「はぁ?いや、大丈夫だけどよ。ただ従魔証が欲しかったって所か‥‥‥まあ冒険者ギルドに加入しておいて損はねぇからよ。魔物の解体なんかも金は取るがギルド側でやってやるし」
「早速で悪いんですけど解体して欲しい魔物が居るんですけど」
そういえばと思い出した俺はギルマスに連れられて外の倉庫に入り、マジックポーチから魔物を出した。
「
「俺は何もしてないですよ。ノワルが倒したんです」
「あー‥‥‥『黒の冠』なら簡単に倒せるか」
「さっきから気になってたんですけど『黒の冠』ってなんなんですか?」
「それはだな‥‥‥お前ら飯はまだ食ってないか?俺が奢ってやるから飯でも食いながら話してやるよ」
ギルマスが奢ってくれると言うからギルドの人に解体をお願いしてギルマスおススメの食堂に向かった。昼食というには少し遅い時間だからか、食堂の中にはあまり人が居ない。
「俺のおススメは【オーク肉のハンバーグ】だ。お前らも同じのでいいか?」
「ハンバーグ!?なんでここにそんな料理が‥‥‥」
「シンもハンバーグの事知ってるんだな。これはある冒険者が流行らせたんだよ。丁度今この街に滞在してるんじゃなかったか?」
「もしかして、ユウジさんですか?」
「そりゃ知ってるか。なんたってこの大陸で唯一のSランク冒険者だからな」
やはりユウジさんだったか‥‥‥日本人じゃないとこの料理は考え付かないもんな。
ギルマスにユウジさんが何処にいるか聞いてみると、今は依頼で街から離れているらしく、明日には戻ってくるということだった。
「それで『黒の冠』についてだったな。魔物は色によって危険度が異なるんだが、中でも黒金は別格で俺達はそれを『黒の冠』と呼んでいる。というのも過去に最弱の魔物であるスライムが黒金になってな、街を壊滅させる被害を出したことがあったんだ。そのスライムに金の王冠が乗っていた事から呼ばれるようになったんだよ」
「そんな事があったんですね‥‥‥そのスライムは討伐されたんですか?」
「あぁ。ユウジが討伐したよ。その功績でSランクに昇格したってわけだな。だから『黒の冠』の魔物をテイムした奴が来たって聞いた時は驚いたぜ。それでシンは冒険者にならないって事だったが、これから何をするつもりなんだ?」
「俺は料理人なんで何処かでレストランなんかを開業するのが夢ですね」
「シンは見た目からして冒険者って感じじゃないもんな。まあ、機会があったら魔物の解体やいらない素材なんかをギルドに卸してくれや。おッ!飯が来たようだな」
店員さんが持って来た料理は確かに見た目はハンバーグ‥‥‥ただ肉は粗目のミンチでナイフで切っても肉汁が全く出てこない。
「んー‥‥‥ボソボソしてるな」
「分かってはいたが、シンの料理の方が美味いな」
「そうか?俺は結構美味いと思うけどな‥‥‥シンの料理の腕がどんなもんか気になってきたな。おーい!ちょっといいか?」
「ちょッ!!呼ばなくても良いですって!」
「ここは俺の知り合いの元冒険者が経営してる食堂だから大丈夫だって」
俺が止める間もなくギルマスはやってきた店員さんに事情を説明し、現在俺は厨房に来てスキンヘッドで筋肉ダルマの様な男に睨まれている。
「それで?俺の料理にケチをつけたのはお前か?」
「料理にケチをつけたつもりはないけど、少し工夫をすればもっと美味しくなると思ったのは事実ですよ」
「ほぅ‥‥‥自信があるみたいだな。まあ俺もソースとか色々工夫はしてるんだがな最近客が減ってきているのは事実なんだよな。シンは料理人なんだろ?ちょっと作ってみてくれよ」
パッと見は怖そうな人だけど、意外と人の話に耳を傾ける事は出来るみたいで安心したわ。殴られるんじゃないかと冷や冷やしてたからさ‥‥‥。
ハンバーグに使用している肉を見せてもらうと赤身の肉を使っているらしく、これでは肉がボソボソしてもしょうがないな。他に脂身が多い肉を用意してもらい、その肉を包丁で叩いてミンチにしていく。
「そんなに叩いて細かくして大丈夫なのか?肉はゴロゴロしてた方が美味いと思うんだが‥‥‥」
「あまりミンチ肉を粗くしすぎると成形した時に隙間ができやすいんですよ。そうすると焼く時に肉の旨みが隙間から外に出ちゃって美味しくないし、ボソボソした触感になってしまうんです」
「そういうもんなんだな‥‥‥それよりパン粉にミルクを浸してるのはなんでだ?」
「まずミルクには肉の臭みを取る効果と少しだけですが、肉を柔らかくもしてくれるんです。パン粉は要はつなぎの役割を果たしてるんですけど、ミルクを入れないでパン粉だけ入れてしまうと、食べた時にボサボサしてしまうのでこうやってパン粉にミルクを浸しているんです」
「なるほど。だから俺のハンバーグはボソボソだったのか‥‥‥」
「ソースは凄い美味しかったんですけどね。後は卵と調味料を入れてしっかりと粘り気が付くまで混ぜ合わせます。粘り気が付いてきたら少しだけハンバーグのタネを寝かせておきましょう」
「寝かす?なんか意味があるんだろうが、理由はなんなんだ?」
「ハンバーグを寝かすとアミノ酸‥‥‥じゃなくて簡単に言うと肉に味が馴染むし、ふっくらとして肉汁が溢れるハンバーグが出来るんですよ。試しにすぐ成形して焼いたのと少し寝かしてから焼いたのを比べてみますか」
「どれ、まずは寝かせてないのから‥‥‥おおッ!!フォークで刺しただけなのに黄金色の肉汁が溢れてくる‥‥‥美味い。肉もボソボソしていなくてしっとりとしている‥‥‥寝かす前のハンバーグでこの美味さか‥‥‥」
「では寝かした後のハンバーグも食べましょうか」
「‥‥‥先程食べたハンバーグよりも旨みが中に凝縮されてて別物の様だ。これを食べた後では俺が作っていた料理なんて、ただ肉を焼いただけの料理とすら呼べない物だったんだな‥‥‥」
「しっかりとした手順を踏むことで料理というのは格段に美味しくなるんですよ。ゼロスもその事は十分理解できたはずですし、明日からこのレシピでハンバーグを作ったらお客さんも戻ってきますよ」
「こ、このレシピを使ってもいいのか!?」
そう言うと泣きながら俺の事を抱きしめてきた。こんなゴリゴリマッチョに抱きしめられても嬉しくないんだけどな‥‥‥。
ゼロスの泣き叫ぶ声を聞きつけたギルマスとリーシアに勘違いをされてしまって、なんとか誤解をといたんだけど「男同士も悪くはないな」と呟くリーシアに少し引いてしまった。
その後は教えたレシピでゼロスがハンバーグを作ってもらい皆で昼食を食べた。
この日を境に、ゼロスの食堂はハンバーグの名店として大陸に名を轟かせるまでになったという。
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