10品目 翼竜のシチュー
食に飢えたエルフの女性に、村の食材でも作れそうなレシピを提供する事約一週間‥‥‥やっと解放してもらえた。
パスタを作った時に食糧庫から無くなってしまったので、魔石を使ってパスタを補充してあげたんだけど、俺が居なくなるといつパスタが入るか分からないとか揉め始めて、結局食糧庫をもう1つ増やしパスタ専用にしていた。
毎日3食エルフの皆がパスタを食べ続けたとしても余裕で数年は持ちそうな量を魔石から取り出しているとアルフィリオンがやってきた。
「シン君の料理のおかげで皆は忘れていた食の楽しさや喜びを思い出したみたいでね‥‥‥いやー本当にすまないね。いや、この場合はありがとう、かな」
「エルフの皆が楽しそうに食事をしてるのが見れて嬉しいですから。それに俺の方こそ長い間滞在させてもらってありがどうございます」
「ははっ。そう言ってもらえると助かるよ。ところで、ずっと気になっていたんだけどその魔石からパスタを出してるのはシン君の固有スキルかなんかかい?」
「え?佐藤‥‥‥いや、ユウジさんは使ってなかったんですか?」
「ユウジ君は魔石から魔法を放ったりしていたけど、そんな事してるのは見た事ないよ?そもそも‥‥‥」
魔石は魔道具の原料になるだけで、魔石に内包している魔力を使って魔法を使うことをこの世界の人はできないと言われたのには驚いた。それに、俺が使えてユウジさんが使えなかったのは一体なんでだ?もし会えたら聞いてみよう。
普通はこの世界に魔素と呼ばれる物が存在して、それを取りこむ事によって魔法を使えるようになるんだと。
そう言ってアルフィリオンは人差し指を立てると小さな火を出してくれた。
「おぉ!凄い‥‥‥熱くないんですか?」
「ははっ。この火は自分の魔力で作っているからね。だから使用者にはなんの影響もないんだよ。ところで、この後シン君は人間の村に行くんだよね?」
そうだった‥‥‥なんだか久しぶりの人との交流が楽しくて、つい滞在期間が長くなってしまった。
「はい。まずは近くの村に寄ってみようと思います。場所とか教えてもらえると助かるんですが‥‥‥」
「それには及ばないよ。リーシアもそろそろ人間の世界を見に行ってほしかったからね。こんな狭い世界で生活するんじゃなくてもっと広い世界を体験してきてほしいんだ。近くの村までリーシアに案内させるから、その後行動を共にするかは2人で相談するといいよ」
アルフィリオンは視線を俺から外したから俺もその方向を見ると、ノワルに纏わりついているリーシアとエルフの子供たちがいた。ノワルは最初こそ煩わしそうにしていたけど、もう慣れたみたいで目をつぶって大人しくしている。
そんな様子を見ていると1人のエルフの子供がやってきた。
「なぁなぁ!ノワルはなんて魔物なの?」
「うーん……分からないんだよね。アルフィリオンは知ってます?」
「僕も姉さんのせいで外の世界にはそこまで詳しくはないけど、正直見た事はないかな。シン君は魔物の強さを一目で分かる方法って知ってるかい?」
「んー‥‥‥大きさとか?」
「ははっ。それも間違いではないんだけどね。正解をいうと色だよ」
「色‥‥‥?」
「そう。魔物の強さはその色で判断できる。おおまかに分けると青、緑、赤、白、黒だね。青が弱くて黒が強い。勿論、黒色のスライムが青色のドラゴンより強いかって言ったらそういうわけではないんだけどね。まぁ基準としてはこうなってるね」
「という事はノエルって黒だから強いって事?」
「ノエルの場合は純粋な黒ではなく『
どうりで強いわけだな。でも最初ノワルに会った時は茶色がかった黒色だったけど、どんどん黒色になってったんだよな‥‥‥。そんなことを考えていると、
「人間の街にでも行けば分かるかもしれないね。村の皆には僕から話しておくから明日の朝にでも出るといいよ。このままここに居るとまたエルフの女性に捕まってしまうからね」
その言葉を俺は否定する事が出来なかった。現にエルフの女性に捕まるから中々人間の村に行くことが出来なかったのだから。それでも、嫌だとかそんな事は思わなかったし、むしろ楽しかったんだけどな。
次の日の朝、門の所には大勢のエルフが見送りに来てくれた。ありがたいことに「また来いよ」とか言われながらリーシアと一緒に人間の村に出発した。
「なぜにリーシアがゴマに乗ってて、俺が歩いて移動してるんだ?」
「人間の村に案内してやっているのだぞ?細かい事はきにするな」
ゴマの事をモフりながらキリッとした顔で言うのはやめてくれ‥‥‥。そしてゴマも主人である俺を乗せて歩けよ。いや、主人ではないな。料理担当か‥‥‥自分で言ってて悲しくなるわ。
「‥‥‥まぁいいけどさ。それで村までどのくらいかかるんだ?」
「そうだな‥‥‥後30分くらいじゃないか?」
「なぜに疑問形?迷ってるわけじゃないよな‥‥‥?」
「‥‥‥」
「マジか‥‥‥」
エルフの村を出て2時間弱、どうやらまたもや森の中で迷子になったらしい。
「人間の村に行くのはまだ私が子供の頃にお父様に連れて行ってもらったのが最後だから仕方ないであろうッ!!」
「それ胸を張って言う事か?んで?子供の頃って何歳の時の話だよ」
「‥‥‥27位の時だ」
「はぁ?それって何年前の話だよ」
「50年は経ってないと‥‥‥思う」
衝撃だった。いや、そんなに昔なのかよ!とかそういうことではなくて、リーシアの年齢が80歳近くだって事が。じゃああのエルフの子供も俺と同い年くらいって事なのか‥‥‥?
「そ、そうか。なら村までの道を忘れるのはしょうがないな」
「そうだろう?これは仕方のない事なのだッ!決して私が悪いわけではない」
正直、リーシアの年齢が衝撃すぎてこの後何を話していたか覚えてない。見た目は20代くらいなのにな‥‥‥。
そんな事を考えているとようやく森の切れ目が見えてきた。
「やはりこの道で合っていたな。ちんたら歩いてないでさっさと行くぞ!」
「こっちはずっと歩いてるから疲れてるんだよ‥‥‥」
森を出るとそこは草原。村なんてどこにも無かった。
「リーシアさん‥‥‥」
「いきなり改まってどうした?気持ち悪いぞ」
「そこは別にいいだろ。俺が聞きたいのは村なんて何処にもないんだけど」
「この森の近くに村なんて作れるわけないだろう?シンは戦闘をノワル殿に任せているから知らないだろうが、エルフの戦士でも油断すればやられかねない魔物が、この森の中を歩き周っているのだぞ?」
「‥‥‥つまり村まで後どのくらいだ?」
「以前と変わらない場所にあるなら歩いて1か月程だな」
言われてみればそうだよな‥‥‥。森を歩いてれば数十分に1回魔物が襲い掛かってくる森の近くに村なんか作らないよな。でもまさか歩いて1か月もかかるとは‥‥‥。
「まぁ気長にのんびりと行くか」
「‥‥‥シンよ。どうやらそういうわけにもいかなくなったようだぞ?」
リーシアが上を見ながら呟いたから俺もつられて上を見ると、はるか上空で何かが飛んでいる。距離が離れすぎていて小さく見えるけど、それはどんどん俺達に近づいてきた。
「【
リーシアの指示に従い俺とゴマは少し離れた場所で待機することにした。その間にもどんどん
全身緑色の堅そうな鱗で覆われていて、まるでゲームに出てくるドラゴンの様に見えた。
「Gruuuu!!!」耳を咄嗟に塞いでしまう程の咆哮を
そんな態度に腹を立てたのか分からないけど、
「リーシアッ!!」
危ないッ!そう思い咄嗟に叫んだけど、リーシアは
「GAAAAAAAA!!」
あまりの痛みに地面に墜落した
「耳障りな声を響かせおって‥‥‥たかがでかいだけのトカゲにやられる程、エルフの戦士は弱くはない」
そう言うとリーシアは暴れ回っている
その光景をみて俺はリーシアを絶対に怒らせないと決めた。
「さて、もうそろそろすると日も暮れる。今日はここで野営でもするぞ」
言われてみればもう太陽は西に傾いていたので、俺は野営の準備に取り掛かる事にした。ノワルに手伝ってもらいながらワイバーンを木にぶら下げて血抜きをして、落ちている枯れ木などを集めているとリーシアが腰につけていたポーチに手を突っ込んでテントを出した。
明らかにポーチの大きさからして絶対に入らない大きさのテントを出してきたので驚いて固まっていると、
「ジロジロ見てなんなんだ?これは私が寝るためのテントだからな?」
ギュッとテントを抱きしめるリーシアはとても可愛い‥‥‥
「じゃなくてだな。そのポーチから今出したよな?」
「ん?そうかお前は知らないのか」
リーシアの持っているポーチはマジックポーチというらしく、見た目よりもたくさんの物を入れれるらしい。容量の制限などあるらしいけどリーシアの持っているポーチは翼を広げれば10メートルくらいありそうな
「それよりも腹が減ったな‥‥‥料理は私よりシンの方が得意なのだから頼めるか?」
「そうだな。じゃあ今日は『
ノワルとゴマも腹が減ってるみたいで早く作れとうるさいので早速取り掛かることにする。リーシアに教わりながら解体をしていくけど、全部となると暗くなってしまうから一番美味しいらしい尻尾の部分だけを解体して、残りはマジックポーチに入れてもらった。
半分はそのままステーキにでもして食べるかと思いつつ、シチューの準備を進めていく。
まずはジャガイモ、人参、玉ねぎを賽の目状に切っていく。肉は一口大に切っておこうか。
油を引いた鍋に
全体に小麦粉が馴染んできたら牛乳と水とコンソメを入れてかき混ぜる。
うん。だんだんいい匂いがしてきたな・・・。煮立ってきたら弱火にして焦げないようにかき混ぜような。とろみがついてきたら、器に盛って上からパセリをかければ完成ッ!!
「あッ!!悪い‥‥‥エルフは肉食べないんだよな」
「ん?いや、全く食べないというわけでもないぞ?わざわざ魔物を狩りに行ってまで食べないというだけだ。それにしてもシチュー?という物は初めてだが美味しそうじゃないか」
「なら良かったよ。じゃあ遠慮せずに食べてくれ。」
完全にノワル達の分を取り分けるのを忘れていて、いつもの様に尻尾で叩かれる。忘れてた俺も悪いけどさ。ノワル達は大食いだから尻尾のステーキも付け加えておいた。
「美味しい‥‥‥野菜の旨みがこのトロッとしたスープに溶け込んでいて身体が温まるだけじゃなく、不思議と心まで温かくなるな。始めて食べたと言うのに、以前から食べているかのような安心感があるな」
「そりゃ良かった。じゃあ俺も‥‥‥うめぇ。野菜だけの旨みじゃなくて、肉の旨みまでスープに凝縮されてやがる。スープにこれだけ肉の旨みがいってるから、肉はそうでもないと思ったけどそんな事はないな。噛んだ瞬間に肉の旨みが溢れ出てきやがる」
「随分と饒舌だな。まぁそれくらい美味いからな。ところで前から思っていたのだが‥‥‥ノワル殿の尻尾で叩かれて良く無事でいられるな」
「ん?ノワルが手加減してるからだろ?流石にノワルが本気で叩いたら俺なんかペシャンコになってしまうよ」
「いや、そこまでノワル殿は手加減しているようには‥‥‥まぁお前が少々頑丈だという事にしておくか」
「???」
リーシアの言ってる事が理解が出来なかったけど、まぁ納得?してくれたからいいか。その後はリーシアはテントに入り、俺はノワルとゴマにくっつきながら寝る事にした。
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