世界の終わりの火/リール視点
第3話 世界を終わらせる火/リール視点
昼の店はいつもより忙しかった。
「バッファローサンド2つください」
「コーヒー……」
「ワインだ」
久しぶりに片づけのために魔法を使った。食器を空に飛ばし、子供の転倒により飛び散ったコーヒーを跳ね返す。その様子を見ながら客は喜んでいるようだった。
確かにこんな仕事をしている魔術師はいない。Cランクのみに許された、底辺による魔法のお披露目場所だ。
喫茶店の店主という仕事は、俺に合っていた。料理やコーヒーを作ることも、客と話をするのも好きだった。たまに魔術師ランクB辺りの奴が、俺をバカにするために来店するが、そんな些細なことは気にならなかった。
昼が過ぎると、喫茶店内はいつもの静寂を取り戻していた。残っているのは、チビチビとコーヒーを啜る常連のみ。
「なあリールさん」
一人の常連が声をかけてきた。
「どうした? コーヒーがまずかったか?」
「相変わらずだよ」
「うまいのか、まずいのか、相変わらずだと分からないな」.
「変わらない。いいことじゃないか。見ろ今の国王を。どんどん腐敗している。」
「そんなこと言って。国王派に聞かれたら大変だぞ」
「まあまあ、いいじゃないか。知ってるかい? もうすぐこの世界は滅ぶそうだよ」
「はいはい」
よくいる世界滅亡論者だ。魔王が倒されたとはいえ、仮初の平和だという声も多かった。この常連のように、政治的腐敗を嘆く声も多かった。
まあ今の王であるアクトスの性格の悪さは、俺が一番よく知っている。
「信じていないね? 最近若い娘が世界を救える能力がある魔術師を探しているようだよ」
「はじめて聞いたな」
「当然。最新中の最新の情報だからね。その子の話によると、超巨大な
「本当だったら、確かに怖い話だ」
「だろ? いつだと思う?」
常連はニヤニヤと笑っている。
「その感じ……。今日だな」
「正解! 今日、世界が滅ぶそうだ!」
俺も思わず笑ってしまう。
「今日か。それは傑作だな。まあ勇者様が救ってくれるさ」
最大限の皮肉を込めて言う。
「実はセリン様が動いているという話があるんだ。噂だがな」
「セリン様が?」
『セリン』とは、魔王を討伐した勇者パーティの一人であり、俺が追い出された後に加入した魔術師だ。当時14歳で、回復魔法を得意とした。かなり美人だ。アクトス他2名と仲が良くないという噂があり、実際この『王都アクトス』には住んでいない。圧政に反対し追放されたというウワサもあった。
「ああ。メテオにどう関わっているかは分からないがね。なあ、面白い話だろ?」
「情報としては面白い。で、あんたは信じるのかい?」
「アクトスの統治が終わるならなんでもいいさ。天罰だろう」
「天罰か。違いない」
おれは大きく頷いた。世界が滅んだら元も子もない話だけれども。
*********
その夜、俺は早めに店を閉めた。心なしかお客が少なかったような気がした。もし、今日世界が滅亡するという話が本当ならば、こんな寂れた喫茶店に来ることはないだろう。
そんな自虐的なことを考えながら眠りにつく。
明日のランチは魚にしよう。
美味しそうに食事をしているお客を想像しながら、おれは眠りについた。
ふと「起きて」という少女の声が聞こえた気がした。そして突然、窓の外が明るくなったような気がした。
そうだ。これはきっと夢だ。
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