勇者パーティーから追放されて22年。元天才魔術師のおっさんは『時を繰り返す少女』と共に勇者へ復讐をすることにした

しんしん

プロローグ/プレミア視点

第1話 繰り返しの戦い/プレミア視点

 見渡す限りの平原。どこまでも続く青空は、少しずつ赤身を帯びている。

 そろそろ太陽が沈む。


 私はまた失敗した。


 血まみれの、すでに息絶えるのを待つだけとなったママを胸に抱き、その頬を優しく撫でた。

 もう少しで憎き勇者アクトスを殺すことができた。ママと一緒に、初めてあいつをここまで追い詰めた。本当にもう少しだった。


 すでに遠くに行ってしまったその男の背中を、目で追い続けた。


 もう一度時間を戻せば必ず殺せる。次こそはママが殺されない未来を作ることが出来るはずだ。


 私は回復魔法が使えない。回復魔法を専門とし、アクトスと共に魔王と戦ったママとは正反対だ。


 でも私は『時間跳躍タイムリープ』の魔法が使える。間違った行いを正し、世界そのものを『回復』することが出来る。


 さあママに別れを言おう。なくなってしまう時間だけど、別れの言葉は伝えたい。もう何度伝えたかは分からないけど、次はきっとうまくいく。


 その時だった。


 アクトスが賢者の石を天に掲げるのが見えた。赤黒く光る、魔王の魔力が詰まった石。この世界がおかしくなってしまった原因の石。


 その石が光と共に粉々に砕けた。


「い、いけ……ない……」


 今にも消えてしまいそうな声で、ママは言った。


「ア、アクトスの目的が……ようやく……分かった気がする……ごほっ」


「ママ! 無理しないで!」


 しっかりと抱き寄せる。もう無理をしないで。苦しむ姿は見たくない。


 世界が一気に闇に包まれた。おかしい、太陽が沈んだとしてもこんなに暗くはならない。月の光と星の瞬きがある。顔を上げると、空に蓋をするように、大きな大きな岩石が地表に迫ってきていた。


「何……あれ……」


 私は絶句した。今までの時間のループで、こんな結末は初めてだった。体の震えが止まらない。あんな大きな岩石、止められはずがない。


「あれはメテオ……。世界を滅ぼす魔王の意志……。リール……。魔術師のリールを探して……。その人の魔法ならあるいは…………ごほっ! ごほっ!」


「リール‼ その人ならこの状況を変えられるのね! その人はどこにいるの!?」


 ママはゆっくり首を横に振った。もう目を開く力すらない。最後の力を振り絞って、私に希望をくれた。私は、ママをしっかりと抱きしめる。絶対に助けるから、もう少し待っててね。


 さあ時間を戻そう。岩石は轟音と共に近づいてくる。

 

 私は、ゆっくりと呪文を唱えた。『リール』という希望を探すために。

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