第2話 成田良介はメルルになる
目が覚めると良介は古いが比較的広そうな民家の一部屋にいた。
(ここは?)
あまり飾り気のない質素な部屋、掃除はちゃんと行き届いているのか比較的綺麗であるようだ。
突然の状況に困惑するが…
(…ああ、そうだ転生したのか!)
良介は思い出す、あの不思議な少年との会話を。
(まさか本当に転生するとは…)
実は最後の時点でも半信半疑だった、良介はあの時、半ばやけくそだったのだ。
(取り敢えず、状況を把握しますか)
ベッドに寝ていた態勢だったので起き上がり、ベッドから降りて床に足をつく。
(視線が…低い?)
良介は違和感を覚える、明らかに視線の位置が低いのだ、7、8歳児くらいの視線に彼には感じられた。
そこで、部屋に大きな鏡が置いてあることに気がつく。
その鏡の前まで移動し自分の姿をまじまじと見る良介。
そこには…金髪のかわいらしい少女が映し出されていた。そう、彼はすでに彼女になっていた。
(ホントに、女の子になっていますね…)
年齢は…8歳児ぐらいだろうか?
と、そんな時
―キィ
扉を開く音が響いた。
慌てて、扉の方に振り向く良介、そこには自分の今の姿、即ち彼女によく似た髪色と顔をした30代ほどの男性が立っていた。
(誰だ?いや…まさか)
「…お、お父様?」
良介は直観でそう推測して声をかけてみる、すると。
「メルル!起きたのかい!よかった!」
(メルル、なるほど、今の名前はメルルですか…では、俺、いや私はこれからメルルとして生きていきます)
意地でも前世とのつながりを消したい良介、改め、メルルであった
その父親と思われる男性がメルルに近づき、そのまま抱きしめた。
「お、お父様?」
メルルは困惑した、なぜか自分が妙に心配されていた雰囲気なのだ。
「メルル、君は森で倒れ、三日間、目を覚まさなかったんだよ」
「三日間…ですか」
子供が突然倒れ3日間も目を覚まさなかったら、ほとんどの親は心配するだろう。
良介は納得する、だからこの状況なのかと。
その後しばらくしてメルルを解放した父は言う。
「とりあえず、白湯をもってくるから、メルルはまだベッドで横になっていなさい」
「はい、お父様」
父の指示に素直に従い、ベッドで横になるメルル。
「じゃあ、待っててね」
そう言い残して部屋から出ていく父。
メルルはベッドに潜りながら、様々なことを夢想する。
(竜が支配するファンタジーな世界、一体どのようなものがあるのでしょうか?きっと魔法だってあるでしょう、多分定番の冒険者なんてのも…うーん、冒険するのもいいですが、村人として平和で安全で普通な生活を送ることもいい…悩みますね)
そうしていると…自然とメルルは眠りに落ちていった。
良介がメルルとして異世界に転生してはや一年がたった。
一年間でメルルはこの村がかなり特殊であることに気が付いた。
まず、村が極端に閉鎖的なコミュニティであることだ、外からの来訪者はもちろんいない。
その結果、村の住民に外の情報が伝わることはない。
メルルはかなり困っていた、何せ村周辺以外の外の世界の状況が全く分からないのだ。
父に聞いてもはぐらかされた。村人の中には外の世界などない、などとのたまう人までいる始末。
転生前にあったあの不思議な少年によると竜が支配権を争う世界らしいが…今はその片鱗すら見えない。
また村には村長であるメルルの父の上に長老がいる。
長老は村の掟を破るものがいた場合にその処分を決める権限を持つ。
なぜ村に村長のさらに上の役職があるのか…謎である。
様々な謎はあるがメルルのこの一年は概ね平穏だったと言えるのが幸いだ。
そんなメルルは今年で9歳だ、普通の子供なら遊び盛りの時期である。
メルルは現在、村の中心にある大きな井戸で人を待っていた。
「…遅いですね」
メルルがそう一人ごちると
「ごーめん!待った?」
メルルの方に向かって走ってくる小さな人影が声をかけてくる。小さな人影はどうやらメルルと同世代の少女のようだ。
「いいえ、ラナ、そんなには」
ラナはメルルの幼馴染だ。
「いやー、ごめんごめん」
少女、ラナはメルルの元へとつくと再び謝罪を口にする。
「…大丈夫ですよ、第一私たちを呼びつけたジャイ本人がまだ来てませんから」
ジャイもメルルの幼馴染の少年だ。今回は彼がメルルやラナをここへ呼びつけた。
「もー、ジャイの奴なにしてるんだろうね、あたしたちを呼びつけておいて」
「さあ?なにか面白いものを見つけたと言っていましたが」
そう、二人が話していた時、
「おーい!」
「噂をすれば…ジャイが来た」
こちらも遠くから走ってくる小さな人影、ジャイだ。
ジャイは二人の所まで全力疾走してきて、止まる。
「すまねぇ!家の手伝いが長引いいちまった」
「もー呼び出したのはジャイでしょ!」
「まあまあ、ラナ」
ジャイに怒りだしたラナを取り敢えずなだめるメルル
すると、ジャイが
「今日は俺が見つけたとっておきの場所に案内するから、それで許してくれ!」
「「とっておきの場所?」」
メルルとラナが同時に疑問符を浮かべる。
「ああ、近くの森に突然現れたんだよ」
(突然…現れた?)
「…それ、大丈夫なんですか?」
メルルは思う、近くの森に突然現れた謎の場所、聞いただけでは全体像があまりよくわからないが…危険はないのだろうか、と
「大丈夫だよメルル、俺も一回行ったけど危険はなかった」
「そうですか…しかし…」
メルルがなおも食い下がろうとするが
「大丈夫よメルル、もしもの時はあたしがメルルを守るから!」
ラナが目をキラキラさせながらそう言う。
どうやらラナはジャイが言う場所に興味深々のようだ。
「…はぁ…わかりました、行きましょう」
ラナのキラキラした目の前にメルルはあっさり敗北する。精神年齢大人なメルルには子供のそういう目に弱いのだ。
「よし決まりだな、じゃあ、こっちだ!」
そう言って走り出すジャイ。
「行こ!メルル」
「…ええ」
(まあ、子供が遊ぶ森に、いくらファンタジー世界でも、そう危険なものはないでしょう)
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