探偵令嬢シャルロット・ハウシズの魔術推論(雑殴り書き投稿バージョン)
まじゅつし。
Prologue:断罪
「シャルロット・ハウシズ!今日この場をもって、貴様の数々の悪行を断罪する!」
学園の学期末に定例行事として行われる立食形式のパーティーの中盤。
突然私の目の前に現れたかと思ったその男、一応この国の王子であるアルホード・フィルタントは揚々した様子でそう告げた。
見れば背後にはどこかの令嬢を連れており、彼女が今宵のパートナーであるのは一目瞭然だ。
アルホード、もといアホの愚行には何度も巻き込まれてきたが、こうして大々的かつ聴衆の面前は初めてで少し新鮮な気分になった。
「断罪、ですか。自分が善人だとは思っていません。が、少なくとも殿下にこうして裁かれるような悪行を犯した記憶はありません 」
「しらばっくれるな。彼女、ミリカ・マクラレン男爵令嬢に危害を加えただろうに 」
そうして王子は私が行ったという悪行について、聴衆に対して聞こえるよう声のボリュームを上げて語り始めた。
最初は教科書などを隠されたらしい。
昨年、商人として大成し男爵家として召し上げられたのをきっかけに学園に通うことになった彼女は、その嫌がらせも仕方がないとしばらく耐えていたらしい。
しかし日を追うごとに嫌がらせはエスカレートしていき、先日暴漢に襲われてあわや大怪我をしそうになったらしい。
そして、それら全ての首謀者が私だという。
だが、その主張は矛盾に溢れていた。
「...殿下の主張は分かりました。被害の真偽は置いておくとして、私を首謀者とする根拠がありません。それにお忘れかもしれませんが、今日久しぶりに学園に来たのですが 」
もちろんパーティーに出席している私は学園の生徒ではあるが、公爵令嬢という立場と“特別な仕事”を担っている都合上、授業を免除されており出席の必要がない。
だからこそ、たかが男爵令嬢のことなど今さっき知ったばかりだし、そもそも学園にいないのだから首謀することすらできない。
っと、少し頭をひねれば分かるようなことばかりなのだが、王子は追及をやめる気はないようで待っていたとばかりに口を開いた。
「ふっ、俺は騙されないぞ!そうやって騎士団と貴族院から逃れようと画策していたのだろうが、貴様には魔術があるはずだ!であれば、巧妙に証拠が隠匿されたのもうなづける 」
「えっと、つまり、殿下は私が魔術師だから疑わしいとお思いだと 」
「もちろん動機も掴んでいる。俺の運命の人である彼女の存在が疎ましかったのだろう 」
「はぁ?」
不意打ちのような言葉に、思わず普段の口調が漏れ出した。
このアホの言葉を要約すると『シャルロット・ハウシズは王子が好きで、王子に近づく男爵令嬢が憎く危害を加えた。その証拠は魔術で消されている』となるが...。
「失礼しました。呆れるような暴論ですね。殿下、悪いことは言いませんので今すぐ先程の言葉は撤回するべきかと 」
「貴様こそさっさと諦めて罪を認めれば減刑を一考しよう 」
「そうですか。では、マクラレン嬢に尋ねましょう。貴女も私が一連の事件の首謀者であると確信がある、とお考えで?」
「えっ?いや、その、私は...」
「黙れ!そうやって今までミリカに圧力をかけてきたのだろうに 」
マクラレン嬢が顔を青ざめながら言い淀んでいると、王子が身を乗り出しながら問いかけを阻んできた。
正直このままアホを無視して会場を後にしてもいいのだが、自分の名誉を貶める趣味もないので馬鹿な空想を切除しておこう。
このアホの主張を完膚なきまで否定し叩き潰す。
「なら、身の潔白を証明するためにも殿下の主張をぶっこわ、いえ、指摘しますね。まずことの原因となったマクラレン嬢に対する嫌がらせですが、殿下がそれを知ったのはいつのタイミングですか?」
「それはすぐに...」
「嘘です。かたや大国の王子、かたや成り上がりの男爵令嬢ですよ?知り合ったタイミングがいつかは知りませんが、彼女に対する嫌がらせが始まったのは今学期の頭からなら、しばらくしてからのはずです 」
「そ、そうだ。ミリカは入学早々、貴様の嫌がらせを受けてどれほど傷ついたか 」
「ん、やはり一つ下の学年でしたか。でしたら、入学以前から殿下と顔見知りとでもない限り時系列は『嫌がらせ行為→殿下と知り合う』の順番になりますね 」
まぁ当然だが、このアホがマクラレン嬢を運命の人などと宣うようになったのは、嫌がらせ行為の一件を得たからだろう。
さて、これで既に主張は崩された。
「ふん。時系列をまとめたとて、お前の罪が晴れるわけではあるまい!」
「晴れますよ。だって、殿下の主張と矛盾が生じます。嫌がらせ行為の方が先なら、私がマクラレン嬢に目をつける動機が成立しません。そもそも、私が殿下を好きなんて星が砕けてもありえないんですが 」
「なっ、しかし、魔術をつかってこう...」
「殿下。魔術師の容疑者に対して、犯行を明らかにするだけで罪人とするのは不可能です。それはご存知のはず 」
「くっ...」
王子は苦虫を噛み潰したような表情になった。
これは犯罪捜査の鉄則として広く知れ渡っているのだが、魔術師が容疑者の場合は犯行内容よりも動機の調査が優先される。
何故ならば、犯行に魔術が用いられた場合、基本的に『何でもあり』な状況が成立してしまうからだ。
密室殺人・成り替わり・遠隔殺人などを平均的な技量の魔術師ならば、推理小説がごとくある程度成立させてしまえる。
だからこそ、犯行よりも動機を明らかにすることで確かな証拠とし、その裏付けとして犯行を明らかにするのが正しい手順だ。
つまり王子の主張が砕け散った以上、私を犯人とする証拠(そもそも証拠たり得るのかも怪しかった)もなく、“断罪”と称したこの愚行は私の名誉を傷つけるだけの茶番になる。
「はぁ。反論がないのでしたら、私はこれで失礼します。今日のことは、後日ハウシズ家から正式に抗議しますので 」
「待て。お前たち!」
これで懲りたかと思い、これ以上厄介事が大きくなる前に退場しようと動こうとすると、王子が手を叩いて会場の外に合図を送った。
すると瞬く間に扉から武装した集団、正規兵ではなく雇われの傭兵のようなバラバラの装備の男たちが侵入し、私を取り囲むようにして武器を抜いた。
「...正気ですか?」
「傷つける気はない。が、こうでもしなければお前に抵抗の余地を与えるだろう。この人数ならば、いかに優れた魔術を扱えようが“欠落の魔女”でも突発できないだろう 」
「...頭が悪いのは別に構いませんし、別に誰が王になろうと私は興味ありません。ですが...随分と舐めたマネをするな 」
「ひっ 」
いつまでの変わらない頭の悪さ加減に呆れ、少し魔力を放出して圧力をかけるとマクラレン嬢が怯えた悲鳴をあげた。
欠落の魔女とは、一部の貴族たちが付けた私が生まれながらに抱える奇病を指した蔑称だ。
私には魔術を構築する才能がある。
しかし、それを扱うに必要な魔力を一定値を超えて使用すると、心臓に強い負荷と痛みを伴う謎の奇病を抱えていた。
治療は不可能、今は薬を使ってごかしながら生活をしているが、やはり魔術師に必要な才能の一つが欠落しているのと同義だ。
だから欠落の魔女。
足りない者、神に見放された悲しき魔術師の成れの果てだという。
そして、私はこの呼ばれ方が心底嫌いだ。
「くっ、捕えろ!」
王子の合図とともに、傭兵たちは私を捕えようと少しずつ包囲網を縮め警戒しながら近づこうする。
成人もしていない少女相手に男が10人と、実に大人気ない。
こうして自分の置かれた状況に、呆れ半分に思わずため息を吐いてから、ただ指を弾いた。
「おいおい、冗談だろ!?」
「なんだこれは!?」
「化け物よ!」
バリンッと、まるで食器が割れるかのように傭兵たちの手にあった獲物が突然砕け、一瞬にして武装が解除された。
自分の身に何が起こったのか理解が及ばないのか、傭兵たちは困惑して動けずにいる。
「ど、どうやって 」
「『どうやってこんな大規模な魔術を使ったのか?』だと?あんたらが知っての通り、私は魔力を一度に大量消費ができない。が、自衛としてこのような状況を事前に想定し、常に数百の術式を待機状態にして背後の空間や衣服に固定すれば問題ない 」
「はっ、数百の術式を待機だぁ!?おい王子様よ!こんな化け物を俺たちに捕まえさせようとしたのかよ!」
「う、うるさい!武器を壊されたくらいで怖気つくな!追加の報酬が欲しければ、さっさとこいつを拘束しろ!」
「構わないが、次動いたら首を刎ねるぞ 」
「おいおいふざけんなよマジで!」
手持ちの術式では首を直接刎ねることはできないので完全なブラフだが、効果はあったらしく傭兵は一歩も動かずに様子を伺っている。
これで邪魔はほぼ無力化した、後は元凶を叩き潰すまで。
一歩、王子に向かって足を踏み出した。
「お前、何をするつもりだ!」
「なにって、もちろん正当防衛だ。正規兵でもない傭兵を学園の敷地に雇い入れて、それが失敗して無傷なんてありえないだろう?」
「なっ!?くっ、くるな!?」
王子は背後にいるマクラレン嬢を庇いながらも、一歩ずつゆっくりと距離を積める私に怯えた表情を向ける。
それにわざとらしく笑みを返しながら、鉄槌を下すための魔力を回す。
「歯、食いしばれ 」
“攻撃”が届く距離まで近づき、複数の強化魔術が施された足で全力を回し蹴りを喰らわせる。
残念ながら武道を嗜む趣味はないので、素人の雑な蹴りでしかない。
ただ、単純計算でも成人男性の数倍程度の威力が出ているが。
体真横に吹き飛ばされたの王子は、潰された虫のように壁に張り付いて沈黙した。
一瞬にして意識を刈り取ったから死んだように見えるが、これでも手心を込めた加減をしているし、アホも多少なりは頑丈だろうから大丈夫だろう。
「さて、マクラレン嬢。私と話しましょう 」
目の前で吹き飛ばされた衝撃もあったのか、へなへなと力無く彼女が座り込んだタイミングで騒ぎを聞きつけた警備兵がやってきた。
武器を破壊され大人しくしている侵入者、壁に張り付きながらピクピクして気を失っている国の王子、今にも気を失いそうな顔色で座り込んでいる令嬢。
この様子を見た警備兵が困惑し、私にしつこく事情の説明を求めてきたのはいうまでもない。
そしてまた一つ、私の悪名が増えた。
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