40. いざ出陣

 その晩、セントラルのステージでゴーレムのお披露目会が開かれた。


 夕闇に浮かぶステージにトニオが軽やかに飛び乗った途端、スポットライトが彼の優しい笑顔を光り輝かせた。


「レディース、エンド、ジェントルメン! これより新しい仲間の紹介を行うっす!」


 住民は興味津々でステージの周りに集まり、また、各階の手すりから見下ろしている。


「それでは、【ピュルル】と【ピーリル】の入場っす!」


 キュルルルル!


 二体のゴーレム、クリーム色の【ピュルル】と淡いピンクの【ピーリル】の車輪が高速回転してステージの袖から登場する。ピュルルにはミラーナが、ピーリルにはオディールがお姫様抱っこされながら乗っていて、手を振りながらの入場だった。


 うぉぉぉぉ!


 予想外の可愛いゴーレムの登場にセントラルは沸いた。


 ステージに並んだ二体のゴーレムはゆっくりと二人を降ろし、観衆に大きく手を振る。


「今日から、セント・フローレスティーナには可愛い仲間が加わりました! こう見えて力持ちで、とっても賢いの」


 ミラーナがゴーレムの手を取り、会場を見回しながら紹介する。


「力仕事や、警備など、人がやるには大変なことを担当してもらうよ!」


 オディールがピーリルのピンクのボディをポンポンと叩く。


「えっ! これ、ゴーレムっすか!? こんなの王都にもないっすよ?」


「ふふーん、ゴーレム動かすには膨大な魔力が必要で、王都だと魔法使いがたくさん必要になっちゃうから気軽には使えないんだよ。でも、セント・フローレスティーナならたくさん降り注いでるからね。こんなのうちだけだよ!」


 オディールはドヤ顔でロッソを指さす。


「さすがセント・フローレスティーナ! あー、もしかして、丸太を運んだり切ってもらったりもやってもらえるって事っすか?」


 まるでテレビショッピングみたいに、わざとらしくトニオが聞いてくる。


「そうそう、希望者は一階の事務局まで! みんな、仲良くしてね!」


 オディールはみんなに手を振った。


 おぉぉぉぉ!


 頼もしい仲間の登場に盛り上がる会場。


 キャハハ! キャーー!


 可愛いゴーレムに興味津々の子供たちが、ステージにワラワラと登ってきた。


 オディールは可愛い幼女を抱き上げると愛おしそうにプニプニの頬に頬ずりをしてニコッと笑い、ピーリルに渡す。


 ピーリルは『ピィピィ!』と言いながら黄金色に輝く目を明滅させ、子供を高く掲げた。


 キャハァ!


 奇声を上げて喜ぶ幼女。


「僕も僕もーー!」「私が先ーー!」


 子供たちはピュルルとピーリルにどんどんとよじ登り始める。


『ピュルー!』『ピィーー!』


 ゴーレムたちはやや戸惑いながらも、楽しそうに子供たちを扱っていく。


 子供たちと遊ぶゴーレムたちを見まもるみんなの目には、セント・フローレスティーナが新たな局面を迎えたことへの心躍る期待が満ち溢れていた。



           ◇



 ゴーレムは十体作り、希望者に貸し出して、製粉作業や船への荷物の積み下ろしなど毎日あちこちで活躍してもらうことになった。ゴーレムは今風に言えば自律AI搭載の重機。極めて優秀で頼もしい仲間である。こうして徐々に街の経済活動も形が整い始める。


 そんな順風満帆のセント・フローレスティーナだったが、ある日、トニオがバタバタとオディールの執務室に駆け込んできた。


「た、大変っす! の、狼煙のろしが上がってるっす!」


 息せき切らしながら真っ青な顔をして叫ぶトニオ。


「へ? 何の?」


 おやつのクッキーをくわえながら渋い顔で書類をにらんでいたオディールは、キョトンとした顔で聞く。


「警備のゴーレムが不審者を発見したってことっすよ! 大変っすよぉ!」


 ピンと来てないオディールに業を煮やしたトニオは、腕をブンブンと振りながら叫ぶ。


 街の周りに数か所やぐらを組んでゴーレムたちに監視をさせていたのをオディールは思い出した。狼煙が上がったということは誰かがセント・フローレスティーナを目指しているということ。ヤバい相手だとしたら追い払わねばならない。


 オディールはニヤッと笑うと、甲斐甲斐しく紅茶を入れているピンクのゴーレムに声をかけた。


「ヨシ! ピーリル! 出陣だ!」


 ピュイピュイ!


 ここのところ事務処理に追われ、刺激に飢えていたオディールはこれ幸いに謎の侵入者に会いに行こうと思い立つ。


 オディールはピーリルの腕にピョンと跳び乗ると、ドアを指さした。


「レッツゴー!」


 ピュイーー!


「えっ! 一人で行くつもりっすか!? ダメっすよーー! 危ないっす!」


 領主の単独出陣など聞いたことの無いトニオは必死に制止しようとしたが、ノリノリのオディールは止められない。ピーリルは凄い勢いで部屋を飛び出し、階段を車輪のまま駆け下りて行った。


「どいてどいてーー! きゃははは!」


 右手を突き上げながら楽しそうに叫ぶオディール。


「あっ! オディール様……?」「領主様?」


 キョトンとする住民たちの間を縫い、飛ぶように石橋を渡り、ドリフトしながらセントラルを飛び出していく。


「それいけーー! きゃははは!」


 追いかけたものの到底追いつけなかったトニオは、砂煙を巻き上げながらやぐら目指して一直線に突っ走るオディールを見て絶望する。


「何すかあの娘は!? くぁぁぁ! みんなを呼ばなきゃ!」


 おてんば娘の自由奔放な行動に頭を抱えたトニオの叫びがセントラルにこだました。

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