19. 血のしたたる野生
ひとしきり炎を放ったレヴィアは、最後にブランデーの瓶を取り出して肉塊にぶっかける。ぼうっと壮麗な炎が噴きあがり、華やかな香りが部屋に満ちて美食の誘惑が彩り豊かに広がった。
「お、おぉぉぉ……。美味そう……」
オディールがもう我慢できなそうにしていると、レヴィアはニヤッと笑う。
「分かるか? 肉はこうでないと」
レヴィアは人差し指の爪をツーっと伸ばすと、シュッシュッシュと肉隗の表面をスライスした。それを三枚お皿に盛りつけ、テーブルに並べた。
「お主らはそれを食え。我はこれじゃ」
レヴィアは中心部はまだ生の、血のしたたる肉塊にかぶりつく。口の周りを真っ赤にしながらおいしそうに肉を食いちぎり、飢えた獣のように貪り食う。
オディールはその生々しい野性に圧倒され言葉を失う。見た目は可愛い女子中学生なのに、真紅の瞳を輝かせながら巨大な肉塊を貪るさまはひどく異様だった。
「くほー! 美味いのう! お主らも突っ立ってないでさっさと食え!」
レヴィアはそう言うと、また肉にかぶりつき、力任せに引き裂く。鮮血があたりに飛び散って三人は渋い表情でお互いの顔を見つめあった。
とはいえ、三人も肉の魔力には抗いがたい。貪り食うレヴィアからちょっと距離を取って席に着き、まだ表面が
オディールはハーブソルトを出すと肉にかけ、ナイフで切ってひとくち口に含んだ。直後、溢れ出す芳醇な肉汁と、焦げた表面の香ばしい香りのハーモニーが一気に押し寄せてくる。
「うっ! うまーーーー!」
思わず宙を仰ぐオディール。今まで食べたどんなステーキよりもおいしかったのだ。
「どうじゃ? 肉というのはこう食うんじゃ」
レヴィアはポタポタと口の周りから血を滴らせながらニヤリと笑った。
◇
肉を無心に貪って人心地着いた頃――――。
レヴィアは、エールの樽を取り出すとげんこつで
「あー、僕にもちょうだい!」
オディールはマグカップを差し出したが、レヴィアは鼻で笑う。
「子供は
ちぇっ!
オディールは口をとがらせて、渋々
「僕はいいですよね?」
ヴォルフラムは恐る恐るレヴィアにマグカップを差し出す。
レヴィアはチラッとヴォルフラムを見ると、ニコッと笑い、マグカップでガバっとエールを
「お主の風魔法は見事だったぞ。
ミラーナはみんなを見回し、マグカップを高く掲げた。
「じゃあ乾杯しますか!」
「いいね!」「いぇい!」「乾杯じゃぁ!」「カンパーイ!」
みんな嬉しそうに声を上げ、ゴツゴツッ!というマグカップがぶつかる音が部屋に響いた。
オディールはシュワシュワと口の中ではじける炭酸、鼻に抜ける華やかな香りを楽しみながら、同じく
煌びやかなドレスに身を包んで、最高級の
レヴィアの突っ込みに照れ笑いをするヴォルフラム。それをミラーナが朗らかに笑っている。そんなほのぼのとした光景を眺めながら、オディールはチーズをひとかけらつまんで口に運んだ。濃厚なうまみがじんわりと口の中を広がっていき、それを
『そうか、幸せはここにあったのか……』
オディールはゆっくりと瞳を閉じ、身体中を包んでいく喜びの感動に身をゆだねた。
周囲数百キロ誰もいない砂漠のど真ん中で、明日はどうなるかもわからない状況だが、それでも自分でつかみ取っている人生の実感がじんわりと
◇
宴もたけなわとなり、ヴォルフラムは一杯しか飲んでないのにすっかり真っ赤になり、レヴィアは二つ目の樽を飲み干す勢いである。
「こいつのニックネーム知ってる?」
オディールはヴォルフラムを指さして陽気にレヴィアに聞いた。
「姐さーん、それやめましょうよぉ」
ヴォルフラムはニヤニヤしながら突っ込む。
レヴィアはジロっとヴォルフラムの顔を見つめる。
「うーん……、子羊キン肉男?」
きゃははは!
オディールは当たらずとも遠からずの予想に大笑いすると、
「『子リス大魔神』なんだって! ひどいよね」
と、言って手を叩き、ゲラゲラと笑った。
「子リスデース!」
すっかり酔っぱらったヴォルフラムは、背を丸めてリスの真似をしながら両手でドライフルーツをかじった。
「あはは、ヴォルさん上手いわ」
ミラーナも、ヴォルフラムのキョロキョロするリスのしぐさに思わず笑いだす。
「なんじゃ、お前ら仲良しじゃのう」
ニヤッと笑うレヴィアに、ヴォルフラムが絡む。
「何言ってんですか! レヴィさんも仲良しですよ! さささ、カンパーイ!」
「お主、飲みすぎじゃぞ! はい、カンパーイ!」
「ホイ! カンパーイ!!」
ヴォルフラムはマグカップを力いっぱいレヴィアの樽にぶつけ、ガシャーン! という音が響き渡った。
粉々に砕け散るマグカップ、飛び散ったエールを頭からかぶって泡だらけのレヴィア。
一瞬、静けさが場を支配する。
「あれ? どっかいっちゃった?」
ヴォルフラムはトロンとした目で、取っ手だけになってしまったマグカップの名残を見て首をひねった。
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