第2話

 俺が国の最高峰の研究機関をやめた理由。それは、その研究内容にあった。


「不老不死と兵器開発……」


 テレンスさんが、その内容に驚いている。俺は頷きながら更に詳しく説明する。


「うん。俺はもっとこう。国民や皆が幸せになるための研究をするものだとばかり思ってた。例えば傷用ポーションの研究開発とかさ。でも違ったんだ。傷用ポーションはそもそも不老不死の研究過程でたまたま出来ただけだったんだ」


 俺はとつとつと語った。理想と現実の違いを。


「こんな一部の人達の欲望を満たすために錬金術をやってるんじゃない。もっとこう。皆の生活に寄り添った物が作りたいんだって。そう思ったら居ても立っても居られなくなったんだ」

「だから辞めたのか」

「うん」

「そうか……」


 するとテレンスさんが突然、俺の頭を撫で回した。


「な、何?」

「偉いな。うん。ジンはそういう子だった。昔から優しい子だったなと思ってな」


 そう言われて、オレの心が軽くなる。


「そう、だったかな」

「あぁ。変わってなくて安心した」

「……うん。ありがと」


 そんな話しをしている間に村に到着した。すると子供たちが馬車の周りに集まってきた。行商人の到着は村の人からしたら娯楽の一つでもあるから人気者だ。しかし、そこに見慣れない人間である俺が座っていることから驚いた様子を見せて少し距離を置いているようだ。


 彼ら彼女らは俺がいない間に生まれた子達のようで、見たことのない子供たちばかり。


 そのままガタゴトと馬車は、ゆっくりと村の中央にある村長宅へ向けて進むのだった。



 村長に挨拶。当然俺もだ。すると話を聞いていた村長の息子がすぐに俺たちに向かって言った。


「ジンの親御さんを呼んでくる!」


 そう言って走り出し、行ってしまう。しばらくしたら村の中が慌ただしくなった。そうして、しばらく村長と話しをしていると「ジンが帰ってきたって本当かい!」


 そう言って村長の家に飛び込んできたのは母だった。その腕には小さな赤ん坊が抱かれている。背中の方にもだ。ふくよかでがっしりしている母。10年前の姿が思い出される。逞しくなったかな……特に体周り。


 いや、言わないけどさ。言ったら殺されるから言わないけどさ。それでもやはり顔周りは老けたかな。ほうれい線とか目尻とか。ちょっとそのことに寂しさを覚えつつも、同時に気まずさもあり、だから下を向きながらの挨拶。


「えっと、あの、ただいま……」


 10年ぶりの再会が胸を張って言えないなんて、な。


 すると母はそんな俺に構うこと無くドスドスドスと近づいてきたかと思うとワシャっと俺の頬を両手で挟んで顔を覗き込んで言った。。


「おかえり。ジン!」


 そう言って、その太ましい腕で赤ん坊ごと俺を抱きしめた。苦しい……


 しばらく抱きしめられていたが、苦しかったので母を引き剥がす。


「ふぅ……」

「それで? どうしたんだい?」


 そこで母に事情を話した。


「そうかい。まぁ私には難しいことは分かんないけどね。元気そうで良かったよ」


 そう言って微笑む母を見て、俺は何だかホッとした。


「それで? 父さんは?」


 俺が尋ねると母が答えた。


「狩りだよ」

「そっか」


 村は10年前と変わっていない。父も母も少々老けたぐらいで、あんまり変わっていないようだ。そんな母の背中と胸に抱かれた子たちは兄弟だろうか?


「その子達は?」

「昨年生まれた子たちで、どっちも預かっている子だよ」

「母さんの子じゃないのか」

「あっはっは。あんたがいない間に生まれた子なら、ほら。そこに」


 そう言って母が視線を向けた先には5歳ぐらいの男の子。


 入り口の壁に体を隠し頭半分だけ出して、こっちをじぃっと見ている。


 そんな男の子に母が手招き。


「レック。おいで。あんたの兄ちゃんだよ」


 しかしレックと呼ばれた男の子は顔を隠して、走り去ってしまった。俺は苦笑い。


「嫌われたかな?」

「どう接していいか分かんないだよ。きっと」

「そっか」


 まぁ後で話す機会もあるだろう。


 そんな母と会話が一通り終わったところで、村長が話し始めた。


「それで? ジンや。おまえさん。これからどうするつもりかね?」


 これに俺は答える。


「できれば村で錬金工房と雑貨屋をやりたい」

「ほぉ?」

「この辺に生えている素材だと結構な品質の傷用ポーションが作れるんだ。他にも有用そうな道具を色々作ろうかと思ってる」

「ほほぉ、なるほど。それはいいな。分かった。期待しておるよ」


 こうして俺は村で錬金工房と雑貨屋を開くことにになったのだった。

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