第6話 自分を変える試練の予告

 レイラが開いたのカードには、二人の少女が握手している姿が描かれていた。向きはと同じ。

「過去を振り切ることで、未来に新しい可能性を見出せることを表しています」

「それが試練と関係すると」

「はい。貴方は好きになっている方がいらっしゃいますね」

「な!? ……あ、はい。僕が務めている事務員ですが」

「実は、彼女の身に不穏な影があります」

 小林は驚いて、身を乗り出した。

「いったい、それはなんですか!?」

「命の危機が迫ってきているのです。彼女が助かるには、大きな行動をしなくてはなりません。自分を犠牲にしてでも。それと、顔が近いです。離れてください」

「す、すみません」

 小林は心を落ち着かせ、座った。

「貴方が立ち上がるほど動揺しているということは、将来、結ばれたいと思っているからです。そして、自分の人生を変えるラストチャンスです」

「もう、後がないのですか?」

「よく聞いてくださいね、小林さん」

 レイラは、真剣な顔つきで小林に告げる。

「貴方が彼女を救えなかったら、後悔するだけではなく、仕事を上手くいかなくなります。可愛がってくれた先輩からは冷たい視線を浴びせられ、孤独になる。さらに、犯罪行為に手を染めて懲戒解雇になる未来が視えます」

 彼女からの悲惨の未来を告げられ、胸が潰れるように落ち込んだ。

「でも、確定した出来事ではありません。小林さんは、試練を乗り越えたら、明るい未来が待っています。頑張ってください」

 レイラは、小林の肩にそっと手を置き、微笑を浮かべた。彼女の手からは、愛しい我が子を見守るような、暖かさが伝わってくる。小林は大粒の涙を出した。

「は、はい! ありがとうございます! 絶対に自分を変えてみせます」

「大丈夫、小林さんは出来ますわ!」

 小林はレイラに約束すると、後ろから、青の燕尾服の美青年に肩を叩かれる。

「お客様、次のご予約が入っていますので」

「分かりました。レイラさん、これにて失礼します」

「はい、いい未来になることを期待していますわ」

 彼女は両手で振りながら、彼に嫣然で返した。小林は青の燕尾服の美青年に案内されながら、店から出た。


               ◇◇◇


 十月上旬の月曜日、占い師レイラのアドバイスを活かして、仕事をしていく。ネガティブ思考にならないよう、自分に言い聞かせた。たとえ、悪い状況を思い浮かべそうになっても、忘れるように努力した。

 


「え? ボウリング同好会に参加したいのですか?」

「はい、ぜひとも参加したいのです」

 小林は、休憩室で同好会に所属している社員に申し込んだ。会社では、写真同好会や鉄道同好会、温泉同好会、ボウリング同好会といったクラブが存在する。

「別に無理はしないでいいよ。強制参加だと、パワハラになるからな」

「お願いします。会社を五年勤めていましたが、もっと、人の関わりを持たなくてはならないと考えたのです。ですから、参加させてください」

「あ、あぁ……。会長の志村さんに伝えておくよ」

「ありがとうございます!」

 小林は、喜悦の色を浮かべた。

「なぁ、最近の小林君。変じゃないか?」

「恐れを知らないというか、チャレンジ精神に満ち溢れているわ。なにかあったのかしら?」

 周りの社員は、小林が行動的になっている様子に圧倒されていた。



「こここ、小林」

「どうかされました? 柴田さん」

 昼休憩、食堂で柴田に話しかけられた。

「えらい、活発に動いとるやないか」

「ダメでしたか?」

「別にええけど。以前のお前なら、クラブに参加せえへんし、仕事も普通やからな。変なもんを食ったんちゃうんか?」

「やめてくださいよ。毒キノコなんか食ってませんよ」

 冗談を返した小林。注視してみると、柴田の目は左右に速く動いていた。

(レイラさんの言う通りだ。僕の本心に気づいていたんだ)

 小林は、レイラの霊視能力が本物だと分かり、感服した。



 秋陽が目立つ夕方五時、会社を出た小林は、考え事をしていた。

「レイラさんが言ってた、『命の危機が迫ってきている』とはなんだろうか? それを聞いたら良かったな」

 明美の身に何が起こるのか、不安でいた。今すぐにでも伝えたいが、占い師の言葉を信じるはずがない。むしろ、白い目で見られる。

 だが、レイラの『小林さんは出来ますわ』を信じた。なぜなら、神は乗り越えられる試練しか与えない。

 小林は、自分に活を入れながら、自宅へ向かっていった。










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