5 真実

首都で暮らす間に、〝月面の戦い〟や〝地球内戦〟、〝地球侵攻〟も、中枢種族の仕業だったことを知った。村では外部からの情報の多くが、遮断されていたのだ。


〝月面の戦い〟で先に攻撃を行ったのは、〝慈愛の王〟の影響下にある秘密武装集団だった。彼等は人類と新帝国の接触を妨害するため、まず小型核ミサイルを発射し、防御力場でその起爆が妨害されると、無謀にもレーザー銃で白兵突撃をかけた。だがそれも防御力場に当たって反射されたため、逆に自分達の機動装甲宇宙服モビル・アーマード・スーツが破損してしまった。そこでサタンは彼等を運んで、月面基地の外壁を破壊し、非常用隔壁が閉じる前にその内側に投げ込むことで、彼等の命を救ったのだ。


図:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330653442251272


不運だったのは、サタンが当時、人類から見れば異形いぎょうの宇宙用分離個体アバターを使っていたことだ。今では有名な、あの翼を生やした猫みたいに可愛い基本分離個体アバターで最初に現れていたら、あれほどの騒ぎにはならなかっただろう。サタンは直後に、少女の姿の人間型分離個体アバターで人類に向けて声明を発したが、旧帝国派がその報道を妨害したため、地域によっては十分に伝わらなかった。しかしその教訓は、現在に至る分離個体アバターの使用方針にも取り入れられているね。


次に、〝地球内戦〟のきっかけとなった核融合炉の爆発も、〝慈愛の王〟の仕業しわざだった。普通なら、超高温を維持できないと止まってしまう核融合炉が、暴走することはあり得ない。それは、旧帝国においても先進技術とされる遠隔素粒子操作兵器によって、炉の一部分が反物質化されて起きた大爆発だった。サタンはこの事実を、各国政府に通知した。だがその内容も、社会の混乱と恐慌パニックへの懸念や、旧帝国派の工作により公表が遅れ、全ての紛争の発生を防ぐことはできなかった。


〝地球侵攻〟に至っては、中枢種族同士の争いが原因だった。〝慈愛の王〟が隠した〝聖霊〟を奪取するため、〝剣の王〟が自らの秘密工作により狂暴な軍事種族に仕立てた、〝射手座人サジタリアン〟と〝牡牛座人トーラン〟を地球に差し向けたのだ。新帝国艦隊が圧倒的な技術力により、彼等の艦隊にひそんでいた〝剣の王〟の指揮艦艇を発見・撃破しなかったら、全滅するまで地球に向けて進撃させられ続けていただろう。


そもそも開発途上星域は、発展途上種族の住む宙域が先進種族による争奪戦の舞台となり、新たな火種や悲劇を生まないように設けられた。しかし残念ながら、強力な権限を持たない文明開発省は、中枢種族がその発展に対し、密かに非人道的干渉を加えるのを防げなかった。好戦派の軍事種族は職員を買収・脅迫し、時には殺害後に入れ替わって、途上種族の文明発展を歪めた。腐敗・衆愚化の誘導や対立の扇動、危険な軍事技術の供与、要人暗殺などにより軍事化された種族は、帝国編入後に中枢種族の配下とされたり、〝自滅〟後にそれを〝発見〟した中枢種族に惑星を接収されたりした。


〝帝国内戦〟の発端もまた、サタンの公開直訴じきそによるこの醜聞スキャンダルの発覚と、中枢種族間の責任論争だった。そのことを知った私は、しばらく言葉も出なかった。当時の情勢からして、遅かれ早かれ内戦は起きたのだろう。しかし、途上種族だった我々人類から見ると、この事件はあまりに切なく恐ろしい。これこそまさに〝おごれるもの久しからず〟という、堕天使の教訓話じゃないか? まあ繰り返して言えば、彼女達は本当の天使でも何でもなかったわけなのだが。


一方〝射手座人サジタリアン〟と〝牡牛座人トーラン〟は、危険な種族ではなくなっていた。彼等は侵攻が失敗したことで、人口圧力のはけ口がなくなり、内戦による自滅に瀕していた。そこで人類が新帝国政府の協力を得て、その平和的復興を助けたのだ。無害なウイルスを使った遺伝子操作による体質改善で、前者の出生率は制御可能となり、後者も性格の穏やかな中性の形態をとれるようになった。さらに、技術、政策、経済・社会の全分野にわたる支援によって両者の文明は劇的に発展し、地球を挟撃しようとする脅威から、太陽系の両側面を守る頼もしい同盟種族へと変わっていたのだ。幸いにもそれ以降、地球が旧帝国から攻撃を受けることはなかったけどね。


戦後の〝先帝〟救出作戦は、二つの種族に対する試金石だった。〝射手座人サジタリアン〟は一人の犠牲者も出すことなく、村人を全員保護してくれた。牡牛座人トーラン〟に至っては、自らを犠牲にしてまで人間を救おうとした。彼等の慣習に従えば、降伏した兵士は組み敷かねばならない。しかしその時、彼等の装甲動力服パワードスーツは地雷原を渡った際の衝撃で、温度調節機器が故障してしまっていた。とはいえその場を離れては、投降した人間達が未投降者から襲われたり、後続部隊の攻撃を受けたりする恐れがある。そこで高温の惑星から来た彼等は、しみ通る地球の〝極寒〟に意識を失いそうになりながら、捕虜をかばって守り続けたのだ。幸い彼等も全員が救助され、後に特別表彰を受けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る