第4話 私の妹は、いっそ女優にでもなればいいと思います

「お姉様、酷いじゃないですか!どうしたらこんなに非道な事ができるんですか?!」


 バン!と音を立てて私の部屋の扉が勢いよく開かれたと思ったら、案の定というか……やはり妹がやってきました。人の部屋に入る時はちゃんとノックをして許可を得てから入るのだとあれほど教えたのに……やはり私の教授など無意味だったのでしょう。


「なんですか?挨拶も無しで喚き散らすなんて……」


「お姉様の婚約者様の方から手紙の返事がこないんです!わたしが心を込めて書いたお手紙なんだから、本当ならその日の夜にでも返事が来てもいいくらいなのに1日経ってもこないなんておかしいわ!どうせお姉様が意地悪して婚約者様からのお手紙をわたしに渡らせないようにしているのでしょう?!なんて卑怯なのかしら!」


 その手紙なら、婚約者様が燃やしてしまいましたが……やはり本気で私の婚約者様を略奪する気でいるようですね。


「……私は知りません。それより、あの方は婚約者様です。なぜあなたがお手紙を送っているの?」


「そんなのお姉様には関係ないわ!お姉様にはわからないでしょうけれど、真実の愛とは尊くて素晴らしいものなのよ!」


 頬を赤く染めて「だってあの方は、わたしの運命の方だもの」と呟きます。その姿だけ見れば初々しく恥じらう可愛らしい姿なのでしょうが、私から見れば「またか」とため息が出る姿ですわ。


「……つい1年前も同じような事を言っていたわね。真実の愛も運命の相手も、そうコロコロ変わっていては真実味がありませんよ」


「お姉様ったら、またそんな意地悪ばかり言うのね!たったひとりの妹の幸せを望めないなんて極悪非道な人間だわ!そんなだから婚約者に捨てられるのよ?」


「実の姉の婚約者ばかり奪おうとする妹にそんな事を言われる謂れはないわ。

 何度も言うけれどあの方は私の婚約者様なの。2度もあなたに婚約者を奪われるつもりはありません。その手紙の返事も決してこないわよ」


 視線を鋭くして少し厳しめにそう言えば、妹はビクッと視線を揺らします。どうやら私から反論されるとは思っていなかったようですね。確かに何を言っても聞き入れないしワガママばかりの妹や両親たちに疲れ果て諦めてしまい途中から何も言わなくなっていたから、妹は今回も私が何か言い返すとは考えなかったのでしょう。


 でも、今回ばかりはそうはいかないわ。


「あなたの“真実の愛”ほど疑わしいものはないわ。いい加減になさい」


 ピシャリとそう言えば、妹は可愛らしいと評判の大きな瞳からポロポロと涙をこぼしました。ちなみに妹は泣きたいと思った時にすぐに泣けるくらい涙を自由に扱える特殊能力の持ち主です。いっそ女優にでもなればよかったのではないでしょうか?宝の持ち腐れってこうゆう事ですわね。


「酷い!酷いわ!わたしの純真無垢な心をズタズタにするなんて、お姉様には人の血が流れていないのよ!

 お父様に言いつけてやる!!」


 妹はいつものお決まりのセリフを叫ぶと、そのまま部屋から走り出していきました。


 なにかあるとすぐ「お父様に言いつけてやる」ですもの。きっと涙を流しながら私に酷い事を言われたとあることないこと吹聴するのでしょうね。


 ……あぁ、やっぱり。開きっぱなしの扉の外からは荒ぶった足音が響いてきます。これは怒り心頭なお父様の足音ですね。その足音はどんどん近づいてきて……私の部屋の前で止まりました。




「お前は、可愛い妹を罵って泣かせるとはどうゆうつもりだ?!」



 そして勢いのまま私の頬を平手で殴ってきたのでした。


 部屋の外には殴られて倒れる私を見てニヤリと口元を歪める妹の姿が見えました。こんなにあからさまな顔をしているのに家族も使用人もみんな騙されるなんて……本当に妹は名女優ですね。

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