第2話 私の妹は、殿方にとってもモテるんです。

「ーーーーって内容の手紙が届いたんだが、これどうしたらいいかな?」


 困った顔をしながら一通の手紙を持て余している男性が、私に苦笑いを向けます。


 その金色の髪に青い瞳をした聡明そうな男性は私の婚約者様です。……ちなみに二人目ですわ。最初の婚約者とは訳あって婚約破棄しましたので。


「申し訳ございません。どうもあの子は被害妄想と思い込みが激しくて……」


 手紙の内容を聞いてうんざりしました。だって私の一人目の婚約者だった方にもほとんど同じ内容の手紙を送ってましたもの。まぁその方は手紙の内容を信じて私に婚約破棄を突き付けてこられましたけれど。


 あれは大変でしたわ。新年を祝うパーティーでエスコートしてくれないと思ったら妹と一緒に現れて突然の婚約破棄宣言ですもの。

 だいたい私とあの方の婚約は親同士の政略的な物でしたし、あちらのお家から申し込まれて(頼み込ませて)の婚約でしたのに、妹と浮気した上にあんなお目出度いパーティーであんな事をするなんて……頭に虫でもわいていたのかしら?と思うくらい滑稽でした。


 なんでしたっけ……そうそう、「実の妹を虐めた罪で婚約破棄するから家から出ていけ。君の妹と結婚して俺が跡取りになる!」でしたわ。あ、ちなみに私は伯爵令嬢でその方は男爵令息ですのよ。婿養子に入って頂く予定でしたの。うちには家を継ぐ男子がおらず、たまたまお父様のお友達が次男の婿入り先を探しておられたとかで……おじさまはとても良い方だったのですけど、息子はゲスでしたわね。


 伯爵家を継ぐのはあくまでも長女である私の婿様です。妹と結婚しても家は継げませんわ。と説明しても「醜い嫉妬か」とわけのわからない言い掛かりをつけられたのです。……あれは疲れましたわ。


 まぁ、そんな男に未練もなにもないので喜んで婚約破棄しましたわ。なんでも妹と体の関係まであるとかほのめかしてましたもの。結婚前にそんな関係になるなど貴族としてもってのほかですし、ましてや婚約者の妹に手を出したのです。……破滅ですわよね?


 その方は男爵家から勘当され平民となり、ついでに妹からも捨てられました。


 ちなみに妹の言い分は「わたしは騙されてたんですぅ。あの人は伯爵家を乗っ取るつもりでわたしを利用しようとしたんですぅ」だそうです。それでまかり通るはずがない。と思うのですが、両親はなにかと妹に甘いのでまかり通ってしまったのですわ。外聞を気にしたんでしょうけど、どんなに嘘で塗り固めても噂は広まりますのに。これも貴族社会の七不思議ですわね。


 とにかくそんなわけで私は婚約破棄しました。なぜか別れ際に「見捨てないでくれ」とすがられましたが知ったことではありませんわ。男爵家の方からは謝罪と慰謝料もいただきましたし、もう関係ありませんもの。だからちゃんと「私は妹を虐める酷い人間なのでしょう?そんな思いやりの無い女などと結婚するつもりはない。とあなたがおっしゃったんですから、望み通りになって良かったですわね?」と笑顔でお伝えしましたよ。優しいでしょう?


 相手の浮気が原因とはいえ、公の場で婚約破棄を宣言された令嬢はもはやキズモノです。新しい婚約者などもう現れないだろうと諦めていた頃……今の婚約者様が名乗り出てくれたのですわ。


「また、悪い病気がでたようですわね」


「聞いてはいたが、目の当たりにするとすごいものだね」


 婚約者様は乾いた笑いをしてから、その手紙をテーブルの上に置きます。もはや触っているのも嫌なようですわ。


「あら、でも確かに妹は私と違って愛らしいですわよ?殿方の庇護欲をそそるのだとか……。礼儀や常識を知らない所も天真爛漫で心の綺麗な純真な令嬢だからだと、学園でも評判でしたわ。

 をしでかしても、まだ妹に優しい言葉をかける男性もいますもの」


 なんでしたっけ……そうそう「悪い男に騙された可哀想な令嬢」とか「純粋過ぎる天使」と囁かれていますわ。


 それに比べて私は……学園にいた頃から成績優秀ではありましたが、「可愛げがない」とか「隙が無さすぎる」とか、「女として何かが欠けている」とよく陰口を叩かれていましたもの。前の婚約者の方も同じ事を言ってらっしゃいましたからよく覚えております。


 すると婚約者様は「うーん」と顎に手を当て少し悩んだように視線を動かしました。


「確かに君はなんでもそつなくこなすからね。天真爛漫と比べられたら勝てないだろうな」


 そこまで言われてチクリと胸が痛みます。日頃から妹と比較されては言われ慣れている事とはいえ、婚約者様から言われるとやはり気になりますね。


「可愛げがなく、申し訳ございませ「だからこそ、僕は君がいいんだ」え?」


 想像もしてなかった言葉に驚くと、婚約者様はにっこりと微笑みます。


「それに僕はどんな君であれ君が良いと思ったから婚約を申し込んだんだよ。だって君は僕の初恋の相手だからね」


「!そ、そんなこと……初耳ですわ」


「そうかい?それならこれからはもっと聞かせてあげるよ」


 そう言って私の長い髪をひと房手に取ると、そこにちゅ。と、軽く音を立てて唇を落としました。


「……っ!」


 私が思わず赤くなると、その反応を楽しむかのようにクスクスと笑うのですわ。


「もうっ、私をからかわないで下さいっ」


「愛しい婚約者殿をからかうのは僕の特権だろう?」


 そうして婚約者様が指で合図を出すと、壁際に控えていた執事が妹の手紙を手に取り……暖炉の火へと放り込んでしまいました。


 婚約者様は手紙がパチパチと音を立て一瞬で黒く染まり灰と化すのを見ながら「くだらない内容だとよく燃えるね」と呟くのでした。










 手紙が燃える様子を見ながら婚約者様が妹の手紙に興味を示さなかった事にホッとしつつ……、妹が1度欲しがった物を諦めたことなどないと知っているのでこれから何をしでかすのか。と、頭が痛くなりそうなのでした。

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