妖魔/愛崎アリサ への簡単な感想

 応募作品について、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。全ての作品に必ず感想を書くというわけではありませんのでご注意ください。

 指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。

 そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。


 またネタバレへの配慮はしていませんのでご了承ください。




妖魔/愛崎アリサ

https://kakuyomu.jp/works/16817330653831440900


フィンディルの解釈では、本作の方角は真北です。


“平凡”な主人公が特異な生物に出会って“成功”を手にした顛末を描いている、王道のエンタメ小説だと思います。成功の仕方が仕方であるだけに、いつまでもその成功が続くわけもなく……というまさにそれらしい展開が示されていると思います。SFエンタメでよく見る物語形式だと思います。

以前「簡単な感想」でフィンディルは、怪奇の全体像が明らかになるか否かが方角に関係するという話をしました。全体像が明らかにならなければ西に寄るとも。本作でいえば妖魔がそれにあたるように感じられるかもしれません。ただ本作のような作品では、怪奇(妖魔)の全体像が明らかになるかどうかはあまり大事ではないと考えます。あまり大事ではないので、仮に全体像が明らかにならなくても方角に影響を与えないものと考えます。


どうして本作では、怪奇(妖魔)の全体像が重要ではないのか。

本作は誰の話なのか、が大事です。本作は妖魔の話ではなく、田宮の話なのです。妖魔を拾うことで田宮と田宮の人生に起きた変化を描いた話なのです。妖魔というのは、田宮と田宮の人生に劇的な変化を与える舞台装置に過ぎないと考えます。

怪奇の全体像が明らかになるのが方角に影響を与える作品では、怪奇を描いた話である傾向があります。怪奇に出会う人はただの観察者であって、大事なのは怪奇。だから怪奇の全体像が作品の方向性に影響を与える。そういった作品で観察者の人間性を深掘りすることはまずないはずです。怪奇が観察できれば誰でもいいのです。

本作は、田宮の人間性を深掘りする作品であると考えています。妖魔を拾って田宮の人生にどんな変化が起きたのか、田宮の考え方にどんな変化が起きたのか、そして田宮は最終的にどういう決断をするのか。大事なのは妖魔ではなく田宮。田宮と田宮の人生に影響を与えられればどんな怪奇でもいいのです。

だから妖魔の全体像の重要度も低く、これ如何で作品の方向性に影響を与えることもないと考えます。

また展開主導で田宮の顛末を描いていますので、真北であることはおよそ間違いないと考えます。


方角抜きにすると、気になった点が二つありました。

まず妖魔を手にした田宮の成功に亀裂が生じる展開の納得感が薄い。田宮は夜になって外に出ようとする妖魔を捕まえます。それにより妖魔をもう傍に置くことはできない、という展開に繋がります。

ただ妖魔は拾った次の日(?)から夜になると外に出てるんですよね。昼は部屋の隅で、夜は外に出る、このルーティンで妖魔は生活に馴染んだのです。そして田宮もそれに慣れて、日課になりました。

なのにどうしてこの日、突然田宮は妖魔のルーティンを破壊したのか。妖魔により人生が絶頂を迎えたから保守的な恐怖が生まれてつい捕まえてしまった、これはそのとおりなのですがその描き方が弱いように思います。もう少し丁寧にルーティン破壊や生活の綻びを描けるようになると良いかなと思います。

もう一点。美を追求する画家ならではの要素が薄い。本作は「“平凡”な主人公が特異な生物に出会って“成功”を手にした」なのですが、そこからひとつ進んだ表現が見られないのが気になりました。

もともと田宮は、美の追求を目的にしているものと解釈しています。美の追求が目的で、アルバイトはそのための(生活を整えるという意味で)手段だと。ただ妖魔を拾ってから、これが逆転しているのです。画家としての成功が目的となり、美(=妖魔)の所持がその手段となっている。妖魔を失うときも(もう描けなくなることも危惧していますが)画家生命が断たれることを危惧していますからね。美を拾ったことで、手段と目的が逆転しているような印象を持ちました。

ですので、「妖魔は自分のものじゃない」を決断にしていてもいいですが、それだけでなく美の手段化の葛藤も決断理由として描けるようになると、美を追求する画家ならではの人物表現ができるのではないかと期待します。そうすると「“平凡”な主人公が特異な生物に出会って“成功”を手にした」作品として、ひとつ進んだ表現や個性が得られるかなと思います。

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