第129話~『らしさ』~
カノンが目を覚まし、学校に通い始めて一週間後の昼。
持ち前の負けん気と、努力でどうにか授業を、余裕の心持で受けるまでに至っていた。
午前中の授業も終わり、カノンと原さん、峰岸君が屋上でお弁当を広げて昼食を食べていた。
「そういえば、カノンさん。あんなに難しい顔をして受けていた生物の授業、今は意気揚々と受けているよね。」
お弁当の中身を食べていた手を止め、カノンに声を掛けたのは峰岸君だった。
「はい!もぅ、お手の物ですわ!生物の一つや二つ、今のわたくしには朝食前ですわ。どっからでもかかってきなさい!ですわ!」
「入れ替わりを理解しているから思う事だけど、お嬢様口調なのに、全然お嬢様に見えないね。なんというか……型破り…というか…優しくて楽しい人なのは間違いないんだけど…うーん…言語化が難しい…。」
「型破り…ですか…。『らしくない』は、よく言われていましたわ。でも、入れ替わりと、美桜さんのおかげで悪い事ばかりではないという事も知りましたの。
誰かの言葉に惑わされず、自分らしくが、一番輝けるのですわ。
この世界に初めて来た時も、不安はありましたが、自分らしく振る舞った結果、なんだか光が見えた気分でしたの。それに、恋のキューピットにもなりましたし。」
カノンは、峰岸君に視線を向け、少しいたずらっ子のように微笑んだ。
その笑みに峰岸君は照れ笑いを浮かべた。
「そういう峰岸君はだいぶ変わりましたわね。雰囲気もそうですが、見た目の変わりように驚きましたわ。話す機会がなく、今さらに伝えますが……。背も伸びましたし……マルチーズから知らない間にシェパードに変わった気分ですわ。」
カノンの例え言葉に原さんは、吹き出してお腹を抱えて笑った。
「カノンさん…っ…その例え…やばすぎ…っ…変わり過ぎてる…くっ…それはもう、ただカッコイイと言うか、……いかついだけじゃん!峰岸君、良かったね~美桜ちゃんの為に…ふふっ…可愛いの殻を破って強くなろうとしていたのが……実を結んだね~…っふ…くくっ…。」
「原さん…笑い過ぎ…。そして、カノンさん…例えが極端すぎるよ…。僕、そこまでいかつい感じないと思うけど…。」
峰岸君は原さんの笑っている様子に呆れた表情を見せ、カノンにジト目を向けた。
「極端…でしょうか?…
カノンは少し上を向き、考える素振りを見せた。
そんなカノンに笑いの治まった原さんが問いかけた。
「あの…という事は、もしかして、カノンさんも言い争いになったの?」
「言い争い…と言うほどではありませんが、この世界に初めて来た日…。
美桜さんの事を悪く言っていましたの。その事に我慢がならず、『そんな態度をとっていると、破滅しますわよ』と似たような事を言いましたわ。」
カノンの言葉と気迫に、原さんと峰岸君は息をのんだ。
「「さすが、カノンさん…最初から『らしい』し、ぶれない…。強い。」」
「…お二人とも…そのような目でわたくしを見ないでくださいまし…。取って食べたりしませんわ。」
「いや…油断したら、カノンさんに正拳突きされるやも…。」
「いやいや、裏拳がくるかもよ?あ、でも、峰岸君の場合、美桜ちゃん関係で回し蹴りされるやも。」
「ちょっと、お二人とも?!わたくし、誰かれ構わず、技を繰り出しませんわよ!………わたくしで遊んでますわね…。」
「「あ、バレた。いやぁ~そんな褒められても~。」」
「褒めてませんわ…。…はぁ…この光景…なんだか前にも見たような…。あぁ…殿下とアイリスさんですわ。」
原さんと峰岸君はカノンを警戒の目で見ていたが、次第におどける様子を見せた。
二人の様子にカノンは呆れた表情を見せ、自国のアイリスやライラックを思い浮かべた。
話しが一区切りついた所で三人は、お弁当箱に残ったおかずを少し急ぎ目に口の中におさめた。
お弁当の片づけをしていると、原さんがあっ!と突然大きな声を発したかと思うと、顔がみるみる青ざめて俯いた。
「…いのりちゃん?どうしましたの?」
「………と…。」
「「ん?」」
カノンや、峰岸君は原さんの声を聞き取る事が出来ず、二人して、原さんに耳を傾け、どうにか声を聞き取ろうとした。
「………テストーーーー!!!!!」
原さんは、カノンや峰岸君がまさか近くで声を聞き取ろうとしていたとは思わず、叫びながら勢いよく立ち上がった。
それにはカノンや峰岸君は耳を抑えながら、何事だと困惑気味に原さんを見た。
そんな原さんは今度は慌てふためく様子を見せた。
「二週間後、中間テストあるじゃん!範囲はせまいけど、テストはテストじゃん!!私、勉強全体的にダメなのにー!!どないしよ?!どうすればよかですか?!ワッツアップ?!」
原さんの急な慌てぶりにカノンと峰岸君は顔を見合わせ、今度は二人が吹き出して笑った。
「…ふっ…いのりちゃん…ふふっ…ごちゃ混ぜしてます…言葉の渋滞を起こしてますわ…。可笑しすぎて…ふっ…ツッコミも……ままならなぃ……ですわ。」
「二人は成績いいからいいじゃん!…も~笑い過ぎ!カノンさん、助けて!プリーズ!フォロー…は違う…とりあえず、ヘルプ!」
カノンに涙目ですがりつく原さんに、いまだに笑いが治まらない峰岸君が声を掛けた。
「なんか…さっきから英語の部分が、カタカナ言葉に聞こえてしょうがないんだけど…もうやめて…変に英語を使おうとしないで。」
「ひど?!人の文言を勝手にカタカナに変えないで!」
「わたくしも峰岸君に同意ですわ。なので、お勉強、お任せください。一緒に高得点取りましょう!付いてくる覚悟はおありですか?」
「もちろん!さすがカノン様!!恩にきります!」
「二言は…ないですわね…ふふっ…。」
カノンは、原さんに優しく笑ったつもりだったが、カノンの笑顔を見た原さんは、泣きつく相手を間違えたと少し後悔の念が押し寄せた。
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