第119話~満開(前編)~

式典当日の朝。


美桜は準備していた正装に着替え、フローライト家の皆や、アイリス、ライラック達と式典が行われると言うダリアに馬車で向かった。


ダリアに近づくにつれて、人通りが多くなり、馬車で進める所まで進み、適当な場所に馬車を待機させ、美桜達は歩いて式典が行われる場所に向かった。


美桜達が着いた式典会場は、美桜達が苗を植えたダリアの大通りで、その場には人が多く集まっていた。

通りの終わり際に、通りを見渡せるくらいの少し高めに用意された王家用の席と、貴族用の席があり、美桜達はそれぞれ用意された席に案内され、席に着いた。


「あ、あの…フロックスお兄ちゃん…これはいったい…。それに、あの苗を植えた所…木箱があるように見えます…。」


人の多さと、想像していた式典の場所との違いなどに、動揺を隠せずにいた美桜は、隣に座っていたフロックスに小声で話しかけた。


「ふっふっふ。美桜ちゃん達が苗を作ったり、植えたりしている間に僕達は王宮に通い詰めたり、泊まり込みだったりしていた訳だけど、この式典の準備の為だったんだよ。まぁ、楽しみに見てて。」


美桜とフロックスが話し終えた頃、式典の時間が来たようで、王が立ち上がり、皆に挨拶を言い、式典の内容を告げた。



「―――。さて、近頃、他の国からのお客人が増えてきているのは確かな事だ。アザレアのお菓子の話や、国中に咲き始めている花の話が広がり、皆が我が国に興味を持ち、足を運んでくれる。これらは皆、フローライト家が発案した話だが、実際に動いたのはここにいる民や、ここに来れなかった民達皆の働きがあっての結果だ。


ここにいる全国民に告げる。良い働き、見事!!国を良くしていこうと考え、努力した事、誠に感謝する。今日は記念すべき日!!国が鉱石以外の事で認められ、皆が懸命にこの通りに植えた、最初の花の開花を祝う日である!!!」


王の言葉と同時に苗を植えた花壇を覆っていた木箱が取り払われ、満開の花が顔を見せた。


「「「わぁぁぁーーーーー!!!!!」」」

「「「おぉっ…。」」」


その花を見た少し高い所にいる貴族や、街の人達は歓喜の声を上げた。


「すごぃ……。」

「この花って…スリジエ?一部の場所にしか咲かないって聞いた事があるけど…。」

「そんな花が国中に咲くなんて…すごい事だわ。それに、すごくキレイ…。」


花壇の近くにいる人達は、花壇を踏まないように最低限の距離を取りながら、花に魅入って話しており、皆が見れるように代わる代わる場所を交代し、譲り合いをしていた。

その様子を見ていたサントリナやアイリスも笑顔で話し、嬉々とした様子を見せた。


その場の盛り上がりは最高潮で、ダリアがこの状況なら、アザレアで咲いたらどうなるのだろうと思いをはせた美桜は、無性にアザレアに行きたくなった。


美桜のそわそわした様子を見たフロックスが、この式典の後にアザレアに行く事を提案した。

美桜はその提案に満面の笑顔で、答え、アザレアに行く前に一度忘れ物を取りにフローライト家に立ち寄りたい事を伝えた。

フロックスは疑問に思ったが、笑顔で了承してくれた。


お昼過ぎた頃に式典は終わり、美桜達は一度、美桜の希望でフローライト家に戻った。

美桜以外のサントリナやアイリス、オリヴァー含む男性陣は馬車で待ち、美桜は駆け足で自室に戻り、昨日描き上げた書類を手に持ち、馬車に戻った。


美桜が馬車に乗り、ドアが閉まったのを合図に馬車は動き、アザレアを目指した。


アザレアに着き、美桜達は馬車から降り、長のハンプスの家を目指し、歩いていた。

街中を歩いていると、美桜が違和感を感じた。

いつもは賑わっている街中が今日は少し落ち着いており、どこか復興前のアザレアの雰囲気に近く、少し寂しさを感じる。

式典に行っている者もいて、帰りが遅いのかもしれないが、それにしてはすれ違う人の人数が少なく、いつもは声を掛けてくる街の人も今日はいない。


違和感を抱きつつ、そのままハンプスの家を目指し歩いている途中で、ハンプスにばったり会った。


「ハンプスさん!お久しぶりです!」

「カ、カノン様…。お久しぶりでございます…。今日は…どういった御用で…。」


ハンプスの様子がどこかよそよそしく、美桜は疑問に思いつつも、笑顔で応じた。


「ダリアでスリジエの花の開花を祝う式典があったんです!すごい盛り上がりで、ダリアであの様子なら、アザレアではどうなるのだろうと、気になって来てみました!!ハンプスさんは式典に行かれましたか?あ、あと、これ…新しいお菓子のレシピです!」

「は…はぁ…。ありがとうございます…。式典には行っていません。少し…やるべき事があったので…。」


ハンプスは美桜からレシピを受け取ったものの、その様子はどこか他人事のようだった。

その様子を見て、美桜は以前、心に抱いた負の感情が湧き上がってきた。


「……ご迷惑…ですか?この間から…どこかよそよそしくて…今も…どこか他人事で。…私が…手伝いたいと言っても、建物の修繕を提案しても、皆さん…他人行儀で…。自立したいお気持ちはわかりますが…何度もそんな他人行儀だと…さすがに寂しいです。」


美桜は真っ直ぐにハンプスを見て話していたが、想いを伝えているうちに感情を抑えきれなくなり、押し込んでいた言葉や涙が次第に溢れ出た。

それを見たハンプスは、慌てふためくが、上手く説明できない事にもどかしさを覚えながらも迷惑ではない事を力強く否定した。


その言葉を美桜は聞き入れたが、これ以上、嫌な感情をぶつけまいと、一言謝罪し、踵を返して、馬車のある場所まで駆け足で向かった。

その間美桜は、とめどなく溢れる涙をぬぐいながら走った。

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