第115話~蕾って…~
美桜やアイリス、孤児院の子どもや大人、皆で作り上げた苗は木箱に丁寧に入れられ、荷台に積まれた。
作業が一段落した頃には日が少し落ち、月や星が見え始めていた。
美桜やサントリナ、アイリスは苗が積まれた荷台を前に次の作業の手順を確認していた。
「思ったより苗の量が多く出来上がって良かったです!日も暮れ始めてますので、次の作業は明日になるとは思いますが…。」
「そうね、お父様達が各地から許可をもらっているはずだから、その場所から順に苗を植えていく事になると思うわ。やはり最初は王都のダリアから植えていく事になると思うの。帰ったらお父様達に詳細を聞かなくちゃね。また明日も作業、頑張りましょう!」
「「はい!」」
美桜達が荷台を作業しやすいように適当な場所に片し、帰る支度をして帰路に着いた。
翌日。
美桜達、女性陣は朝食を済ませ、作業の続きをするべく孤児院に向かった。
美桜達が馬車内で作業手順の確認をしたり、雑談をしている間に馬車は孤児院に着き、施設の大人達と合流し、荷台の前に集まり作業の最終確認をした。
「皆様、おはようございます。これから、ここに積まれている荷台を王都のダリアに運んで頂きます。王都に着けば、苗を植える場所に案内してくれる人がいるはずですので、その方に付いて行き、苗植えの作業に取り掛かって頂きます。では、作業に入りましょう!今日もよろしくお願いしますね。」
サントリナの説明と掛け声に各々が動き、荷台を
美桜達が王都のダリアに着き、サントリナの説明通りに作業場までの案内人が数人いた。
美桜はサントリナやアイリスと組み、孤児院の大人達を数名に組分けして、案内人に付いて行き作業に入った。
植える場所は街中の人通りが多い通り沿いの両側に、レンガで長方形の花壇が間隔を考えられて作られていた。
美桜達はその花壇に苗を一つずつ、間隔を空けて植えていった。
「この2、3日でキレイな花壇が出来上がっていたなんて…。オリヴァーお父さんやフロックスお兄ちゃん達、本当に行動が早いです。」
「ふふっ。美桜ちゃんに影響されたのかもね。美桜ちゃんも行動が早いから。」
「美桜様は行動派ですものね。」
美桜やサントリナ、アイリスがしゃがみながら楽し気に苗を植えていると、何人かが足を止め、作業を見ていた。
その何人かはまた足を動かし、その場を離れる。
それを幾人も繰り返すが、美桜達は興味の眼差しで見られているのだろうと特に気にも留めず作業をこなしていった。
しばらく経った頃、美桜達と離れて作業していた施設の大人達の方に人だかりが出来、騒がしくなっていた。
疑問に思った美桜達は、その騒ぎのもとへ行き何事か確認した。
駆け寄って来た美桜達に気付いた、騒ぎの中にいた一人が美桜達に説明した。
「実は、この街の方々が作業を手伝いたいと道具を持って申し出て来たので、やり方を説明していたのです。……余計な事でしたでしょうか…。」
美桜達は返ってきた言葉に驚きの表情を浮かべた。
驚きながらも口を開いたのはサントリナだった。
「い、いいえ…。むしろ、ありがたいお話ですわ…。人数が多ければ、作業が早く進みます。」
サントリナの言葉に説明した者が安堵の表情を浮かべた。
ダリアの街の人達が説明を聞き終えたのか、意気揚々と苗を手に持ち花壇に植えていった。
美桜達も残りの作業に戻り、ダリアに用意された花壇は全て苗を植え終えた。
美桜達が残りの苗を次の街に運ぼうと移動の準備をしていると、先ほどの騒ぎの時よりもダリアの街の人達が多くなっている事に気が付いた。
どうやら、一度目の騒ぎの後も作業を手伝いたいと希望を申し出た者が多かったようだ。
その人数の中にはオリヴァー達が整えた雇用に直結する者も多数いたが、残りの多数は無条件で手伝いを申し出たという事を聞き、美桜達は再び驚いた。
さらに話を聞くと、そのまま美桜達と作業を続けたいとの事で、その場の皆と話し合った結果、今いる大多数の人数で次の街へ行き、作業をする事になった。
「皆さん、このまま一緒に作業を続けるお考え、ありがとうございます。次の街はダリアの次に許可が下りたアザレアですわ。行きましょう!」
サントリナの言葉にダリアの街の人達は少し気まずそうな複雑な表情を浮かべた。
それでも、公爵家の者の前で作業をすると言った以上、断る事は出来ず、そのまま準備して付いて行く事になった。
皆が各々の足でアザレアに着き、アザレアの人達や長のハンプスに作業の説明をした。
アザレアの人達は通達が来ていたので、すぐに了承し、手伝える人は手伝うと言い、作業場まで案内してくれた。
アザレアの人に案内され、たどり着いたのはアザレアの街で大きい通りのマラカイト通りだった。
以前、美桜が復興を手伝った時に最初にお菓子の指導をして、お店を並べて開いた場所だ。
最初の頃と段違いなほどカフェやお菓子のお店も多くなり、大勢の人達で賑わっている。
その様子にダリアの街の人達は唖然とした様子を浮かべていた。
「これが…あの…アザレア…?自分達は北側に住んでいて、この街に、この通りに来る事もなくて…スラム街として学んできた…。それがどうだ…街中はキレイで、いい匂いのするお店がいっぱい…。全然…思っていたのと違い過ぎる。」
その一人の言葉が近くにいた美桜の耳に入り、心から嬉しく思い、感情が顔に出るのを必死にこらえていた。
再度、サントリナの掛け声に皆が動き、ダリアと同じように用意された花壇に苗を植えていった。
その様子を見ていた手の空いているアザレアの人達が、ダリアの人達と同じように一人、また一人と道具を持ち作業の説明を聞きに来て、ともに作業を行っていった。
苗の数には限りがあり、全部の花壇には植える事が出来なかったが、自分の分の作業が終わった美桜が改めて、いまだ作業をしている人達に目を向けると、ダリアから来た街の人達と、アザレアの街の人達の人数がいつの間にか、何十、何百と数を増やしていた。
「……いつの間に…こんなに大勢の方々が…。(すごい人数です…。それに…先ほどまで気まずそうな表情をしていたダリアの人達が、穏やかな表情をしていて、アザレアの人達と楽し気に作業をしています…。なんだか…これだけ集まっているのを見ると、花…みたいです…。いえ、蕾…でしょうか。蕾って、国民の皆さんみたいです。…どんな花が咲くか楽しな蕾…。)」
美桜は目の前の光景に感動の思いに浸っていた。
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