第96話~もう一度…(前編)~

カノンが占い師から話を聞いて数日後の週末のお昼、カノンの自室。


「(今日は殿下が来るのですよね…。婚約が決まってからは週末のお昼過ぎにお泊りに来て、街や国の為に何が出来るかを一緒に考えてくださって…とても心強いですわ。)」


ライラックがフローライト家に来る事を心待ちにしているカノン。

自分の仕事を進めつつも、いつものように日記を書いており、今回は個別に美桜宛に手紙も書いていた。


「(美桜さんへのお手紙…こんなものかしら…。身勝手なわたくしを…お許しください…。)」


カノンは書き終えた日記や手紙を前に、誰に言うでもなく申し訳ない表情を浮かべた。

カノンがしばらく手紙を見つめながら物思いにけているとドアがノックされた。

返事をして中に通すと、侍女のリリーがライラックが到着し応接室で待っている事を伝えに来た。

カノンは日記の中に手紙を挟み机の上に置いて自室を後にした。



カノンが応接室に着き中へ入ると、ライラックと兄、姉の三人が談笑しており、それを見たカノンは少し呆れた表情を浮かべていた。

「……殿下…ごきげんよう…。以前よりも馴染んでますわね…。」

「お邪魔しているよ、カノン嬢。兄君の独自留学の話がものすごく面白くてね。」

「いやぁ、さすが殿下と言うべきか、ついつい盛り上がってしまってね。」

「…あんなに異議を申し立ててたお兄様まで…楽しそうでなによりですわ。」

「「ヤキモチかい?」」

「違いますわ。」


カノンの知らない間に兄とライラックは意気投合しているようで、見事に声が重なった。

仲が良いに越したことはないと思いながら、カノンは姉の隣に座った。


「そういえば、殿下!まだお聞きしていなかったですわね。カノンのどこに惚れているかお教えくださいな。」


意気揚々とする急な姉の発言に、紅茶を飲もうとしていたカノンが少し吹いた。


「お、お姉様?!急に何を聞くんですの!さすがに殿下に失礼ですわよ!」

「あら、枕を投げるカノンよりはマシよ。しかも二度も。」

「な、何故その事を…。」

「うふふ、この間カノンの部屋での出来事が少し話題に出たの。」

「えぇ…。恥ずかし過ぎますわ。」


姉の言葉に顔を赤くし下を俯くカノンをよそに、ライラックは姉の質問に考えながら答える。


「そういえば、まだ答えていませんでしたね。令嬢なのに腕っぷしが強かったり…まっすぐで優しくて、一緒にいて居心地がいいんです。他にもあるんですが、語るには時間が足りません。」

「あらぁ~ご馳走様です。すごく愛されているのね。」


ライラックからの返事を聞いた姉は満足そうに満面の笑みを浮かべ紅茶をすすり、兄は自分の事のように得意げな表情で頷いている。


「やはり殿下は見る目がいいですなぁ。うん、うん。これを機にカノンの幼少の頃の話とかどうですか?可愛い思い出がいっぱいですよ。それこそ時間が足りないくらいに。」

「お!それはぜひお聞かせ願いたい。」

「お兄様まで何を言い出すんですの?!」


二人が恥ずかしがるカノンをそっちのけで話し始めた刹那、応接室のドアがノックされ、夕食の準備が出来たと執事のカクタスが声を掛けてきた。

三人はいつの間にか時が過ぎていた事に驚き話を切りあげ、食堂へ向かった。

ライラックや兄は語り足りなかったようで残念がる様子だが、カノンは安堵し、姉は楽しそうに三人の様子を眺めていた。



この日の夕食は父は視察で遅くなるとの事でカノンを含め四人での食事となった。

この時またしても兄とライラックはカノンの話で盛り上がり、誘拐の時の話や共闘した際の話などをしている。

カノンは楽しそうに話す二人の会話を止めるのを諦め黙々と食事を進め、姉は二人の会話に耳を傾け所々驚いた顔をしながらカノンに視線を向けていた。

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