第58話~判決の日~
カノンの父オリヴァーから事の真相を聞いてから三日後。
カノンの体の具合も特に何事もなく、腕の傷もかさぶたが出来始めている。
父のオリヴァーは先の事件の事で会議やらなんやらで王宮に行き来しており、家にいる事が少ない。
ライラックもカノンの安静を見張ると言っていたのだが、昨日の朝に自分の仕事やら手続きやらで王宮に戻っていった。
「なんだか慌ただしい日が続きましたがこんなにゆっくりな日は久々ですわね。
結局、殿下は二日の滞在でしたし。その間何度かお菓子を求められて、作って渡しては美味しそうに満面の笑みで召し上がっていました。
本当に何をお考えか分からない人ですわ。
お父様も会議で忙しそうですし、アザレアからの報告も特に問題ないようなので、今のうちに被害に合った女性達の為に何ができるか考えてまとめましょう。」
カノンがゆっくりしながら今後の政策を考えていると、部屋がノックされた。
「カノン様、失礼します。リリーです。」
「中へどうぞ。」
部屋をノックしたのは侍女のリリーで返事を聞き中に入ってきた。彼女は書類を手にしていた。
「カノン様、たった今旦那様が王宮から戻り、判決の日が決まったと書類を持ってこられました。書類によりますと、三日後のお昼13時開始と書かれており、記載にある各主要貴族及び以下記載の者は出席必須と書いております。カノン様のお名前もあります。
それと…カノン様に『発言及び一部主導権を与える。この二件に関しては公平の場でのみとし、それ以外の場では認めぬ。また、王が認めた場合のみとする。』と書いてあります。……どういうことでしょうか。」
「内容は把握しました。ありがとう、リリー。最後の注意文もわたくしがお父様にお願いした内容で心当たりがありますわ。お父様の所に行ってきます。」
書類の内容を聞いたカノンは部屋を出て、お礼を言うべく父の書斎に向かった。
判決当日。判決30分前。
美桜とオリヴァーは王宮に到着し、判決を下す王座の間に向かう。
王座の間には国王や王妃、殿下のライラックがすでに揃っており、各貴族の主要人物達はまだ少ない。
今のうちにとカノンは国王に挨拶に行く。
「陛下、ご挨拶申し上げます。フローライト家、カノン・グレイスでございます。
この度は主要人物ではないわたくしを招待していただきお心遣い痛み入ります。
そして、発言及び一部主導権をお与えくださり陛下のお心遣いに感謝申し上げます。」
「うむ。ただ…君は大変重要な主要人物の一人だ。それ故に参加を許したのだ。
君は無茶をするところがあるようだが、今日もほどほどに。」
カノンが挨拶を交わし、無茶の事をなぜ知っているのだろうと思ったがライラックかなと彼を見たら気まずい顔でそっぽを向かれた。
やはりと心の中で思っていたら、貴族達が続々と集まりはじめ皆が王座の前を空ける形で両脇に並び始める。
カノンは王にお辞儀をし下がり、父の隣に戻って判決の時を待つ。
捕縛されたリーデル子爵と万事の為に二人の騎士が付き添いで入ってきた。
王座の前まで来ると子爵は正座する形で座らされ、王が立ち上がる。
「これより、罪人。リーデル子爵への罪状を述べたうえでの判決を下す。
皆、心して聞き留めよ。」
王が開始の言葉を発し、罪状を読み上げていく。
罪を調べ証拠を揃え、王宮に報告したのはフローライト家だ。
他の貴族達は初耳だとか卑劣なだとかこそこそと非難をしている。
王が罪状を読み終え、判決を下す。
「これらの罪状により、今からリーデル家は子爵という階級を剥奪。
財産を差し押さえ、リーデル家が治めていた領民達に還元する。また、妻子等この件に関わらず知らなかった屋敷の者達は別の職を与え、心持ちを考慮した上で平民として生きていくよう
罪人リーデル、最後に発言を認める。何か妻や子、領民達に残す言葉はあるか。私が責任を持って伝えると約束しよう。」
王はせめて最後にと配慮した。
「なぜ…。爵位剥奪なのですか。なぜ…私がこのような監獄行きの罪人扱いなのですか…。どこに…なんの!証拠があるというのですか!」
王の配慮を無視し反省のしていないリーデルは座らされていたのを立ち上がって反発する。
「証拠なら揃っておる。目撃者も、被害にあった者達も声を上げている。もうそなたの言い分など何も通用せぬ。」
王は言い放ったが、反省も納得もしていないリーデルはさらに反発する。
「何の証拠というのですか!私はやっておりません!作られた証拠にすぎない!それに誘拐の首謀者と罪状にありましたが、私はそんな事知りません!お考え直しを!フローライト家の集めた証拠など信用に足りません!」
「何故、フローライト家が証拠を集めたと知っているのだ。たしかに証拠を集めたのはフローライト家だ。だが、王である私が秘密裏に依頼をした。それを知っているのは私とフローライト侯爵、罪人だけという事だ。
……そなた、自分から罪を認めたようだな。」
リーデルは興奮のあまり墓穴を掘った。
しまったと思ったときには遅く後はないと知り今度は開き直る。
「フローライト家が何だというんだ。出しゃばりで世間知らずの令嬢をもつ落ちこぼれ貴族だ。女が政治に関わるなど甚だしい。女は女らしく男の下で従えばいいんだ。男の下で泣いている方が可愛げがある。妻や娘もそれが可愛かったのだ。殿下も…もうフローライト家の令嬢を可愛がったのだろう?最近は仲が良いと噂になっている。あの変わり者の令嬢を可愛がれたら私のお気に入りの一部になっていただろうに。……王妃も…いい女で、さぞ満足したでしょうなぁ。」
性懲りもなく自白しフローライト家を非難し、あげくには王室まで非難した。
さすがの王やライラックが怒りリーデルの言葉に前に出ようとするが、カノンの言葉によって止められた。
「陛下、発言よろしいでしょうか。それと、一部主導権もここで頂きたいのです。
陛下、法に触れない拷問をお許しください。」
リーデルが王座の間に入ってきた時から不快だったが、王の配慮を無視し自分の妻子や王室の事を非難した為、今まで事の成り行きを見守っていたカノンの堪忍袋の緒が切れた。
カノンの法を犯さない拷問とは…と、疑問を抱かれたが承諾をもらいリーデルの目の前まで行き腕を組み仁王立ちするカノン。
「あなた…使用人だけでなく、ご自分の奥方や娘にまで手を出したのですか。」
「そうだ。楽しかったぞ。妻はお前のように気の強い女だった。日に日に怯え従うようになっていったのは快感だった。娘はそんな関係を見せていたから最初から従っていて可愛かったな。」
「……領民達の生活も考えず私腹を肥やし、女性達を曲がり腐った性欲の対象として扱っていたのですか。」
「ふんっ。領民など所詮私腹を肥やすための道具に過ぎない。お前も、もう少しで俺の楽しみの一部だったんだが、奴らが失敗したからなぁ。残念だよ、カノン。」
嘲笑い、全てを見下すどこまでも不快な男だ。
一発正拳を繰り出す予定だったカノンは、怒りのあまり言葉を放ちながら力いっぱい股間に蹴りを入れた。
「再起不能になればいいのですわ!この愚民!」
リーデルは痛みのあまり地面にうずくまり、のたうち回る。
そんな彼に最後に言葉を放つ。
「私利私欲の為に多くの者を傷つけたあげく、王妃様やわたくしを卑猥な目で見て敵に回した事、監獄の中で後悔なさい!」
それを見ていた男性陣は肝が冷えた。貴族の皆がカノンの行動に唖然とする。
そしてフローライト家を敵に回すといろんな意味で怖いと皆の心の内が一致した。
辺りが静まり返る中、カノンは場を騒がせた事を一言謝罪して軽くお辞儀をし、父のもとに戻る。
王がたじろぎながらリーデルを連れて行くよう指示を出し判決終了と解散の言葉を発する。
こうして一連の騒動は無事に幕を下ろした。
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