第56話~事件の真相~

カノンに疲れが出て眠りについてから翌日。

カノンが目を覚ましたのは日が高く昇り始めたお昼前。


「ん…。もう朝…ですの?」

「残念、もうお昼前だよ。」


カノンが独り言をつぶやいたと思ったのに言葉が返ってきたので一気に目が覚め飛び起きる。

声のした方を見るとライラックがベッドの横にいて頬杖をついていた。

「ど、どうしてここにいますのーーー!!??」

カノンは驚きのあまり大声を出し枕をライラックの顔面めがけて投げる。

それと同時に部屋をノックされ勢いよく扉が開かれた。

「カノン様!!どうされましたか!!??……殿下に…カノン様…えっと…失礼致しました。」

勢いよく入ってきたのは侍女のリリーだが、部屋の中の光景を見て何かに察し笑顔でゆっくり後ずさり部屋を出ていった。


「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。寝顔、可愛かったよ?」

顔面に当てられた枕を手に持ちカノンに枕を渡しながら話すライラック。

「驚きますわ!女性の部屋に勝手に入る殿方など聞いたことありません!それに、寝顔までも見るとは不貞極まりないです!」

渡された枕を抱きしめながらカノンは顔を赤くし反論する。

「本人の許可なしに部屋に入ったのは悪いと思っているけど、君がなかなか起きないからフローライト侯爵が心配してて僕が様子を見てくると言ったら部屋に入る許可をもらえたよ?」

ライラックの言葉に呆れるカノン。

「(目の前の方はお馬鹿さんなのかしら…。それとも天然でしているのかしら…。

お父様もお父様ですわ。年頃の娘の部屋に殿方を通すとは、まったく…。昨日の不覚にも感じた感情を返して頂きたいわ。)

はぁ…。事情はわかりましたわ。ご心配お掛けしました。ですが!今後わたくしの許可なしにこの部屋に入るのを禁止致します。守って頂けなかった場合、今後一切、殿下にはお菓子をお渡ししませんわ。」


「わかった……。君からのお菓子を食べられないのは寂しいから約束するよ。」

これくらいの言葉では動じないと思ったカノンだが、お菓子を条件に出したのが効き肩を落とすライラック。

その様子はまるで尻尾をさげしょんぼりしている犬のようだ。

カノンはなんだかその様子が可愛く見え、可笑しくなりクスクスと笑い出す。

「わかって頂いてありがとうございます。本当にお菓子が好きなのですね。わかってはいましたが、ここまでくるともう…ふふっ…笑いが…ふふ。」

「カノン嬢…。笑いを抑えているようだけど出てるよ…。」

カノンの突然の笑いに肩を落としていたライラックは驚き、笑いを必死にこらえているが抑えきれていなことに呆れ、好きなだけ笑ってと伝える。

だが、カノンを見るライラックの表情はすごく優しかった。


そんなやり取りをしていると、ライラックがカノンの父に言われたことを思い出す。

「そういえば、フローライト侯爵が身支度が終わったら書斎に来るように言ってたよ。」

「わかりましたわ。支度を済ませて向かいます。………あの、殿下…。身支度をしますのでお部屋から出てくださらないかしら…。」

カノンの父からの伝言を伝え、カノンが支度をしようというのに部屋から出ようとしないライラックにカノンはジト目で伝える。

「そうだった。ごめん、ごめん。」とライラックは反省しているのかいないのか軽快な足で出ていった。

「まったく…。殿下ったら、何をお考えなのかしら…。こんなにも振り回されるのは初めてですわ。」

カノンはライラックの出ていった扉を見つめどうして彼がこんなにも自分に構うのか考えるが、書斎に向かうべく身支度を整え始める為、今は考えないようにした。



身支度を終えたカノンと部屋の外で待っていたライラックはカノンの父オリヴァーの書斎に着きノックした。

中から返事をもらえたので部屋に入る。

「おはよう、カノン。と言ってももう昼前だが、具合の方はどうだい?身支度を終えたらすぐこの部屋に来るだろうと思って軽食を用意しているよ。食事はまだだろう?」

たしかにカノンは起きてすぐライラックとのやり取りの後、支度を終えてすぐに書斎に来た。

オリヴァーの予想通りだったのでカノンはオリヴァーに具合の様子とお礼を伝え、厚意に甘える事にした。

二人はオリヴァーから書類を渡され、ソファに座るよう案内された。


「まず、ここに来てもらったのは今回の事件の首謀者が判明した。もともと予想はできていたのだが、まさかこんなにも早く事を起こすとは思わず、カノンを危険な目に合わせてしまった。すまなかった…。」

「お父様の責任ではありません。わたくし…前に殿下に気を付けるように注意を受けていましたの。それなのに油断してしまいました。ですから今回の件はわたくしの責任です。」

「カノン…。ならばそういう事にしておこう…。では、さっそく本題に入ろう。王宮にはすでに報告しているが、殿下は侯爵家にいらしたのでここで聞いて頂きたい。」

オリヴァーは事件の事を予想していたのに予想よりも早く事が動いてしまったので娘を守れなかった事を謝るがカノンは注意を受けていたにもかかわらず油断した自分が悪いと主張する。

その主張を渋々呑み、書類を見ながら事件の本題に入る。



「今回の件の首謀者…王宮や殿下、皆の予想通り…リーデル子爵だ。


カノン、お前が捕らわれていた場所はリーデル子爵が治める街だった事や殿下や騎士、護衛達のおかげで早く見つける事が出来たのだ……。

調査報告によると卑劣さが尋常ではない…。


彼の家はもともとアザレアを治めており当時は侯爵家だったのだ。しかし先のアザレアの災害をきっかけに財が底を尽きアザレアの復興の目処めども付かず領地権を放棄した。アザレアを手放した事により領地は減少したが侯爵の地位などは守り他の領地のおかげで生活はどうにか出来ていた。

だが、アザレアを治めていた頃の収益はなかった。ゆえに雇用の制限、領民からの納税増額、王宮からの領土支援金の横領などあらゆる卑劣な手段を取った。だが当時は国に余裕はなく王宮も彼の家をどうにもできず、爵位を降格させるしか打つ手はなかった。それから時代が進みリーデル家の先々代が政策を立て直し落ち着きを取り戻していたのだが、先代が持病で急死し今の代に代わってからまた黒い噂が一部で流れ始めたのだ。」


オリヴァーは噂の真相を確かめるべくフローライト家から腕が立ち、思考の回転が速い男性用心棒のジェードと女性用心棒のシェルをリーデル家へ使用人として派遣し情報収集をしていたのだ。

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