第23話~異世界での初めてのお菓子~

アフタヌーンティーを終え、砂糖の実を目の前にどうにか簡単に割る方法を考える美桜。


「この大きさ…クルミの殻みたいです…。あ!くるみ割りのはさみとかないでしょうか。もし、なくても先ほどの庭師さんが使ってたハサミを参考にデッサンを書いて特注できるか聞いてみましょう!」


固いクルミの殻を割る方法をこの砂糖の実に応用できないかと考えた美桜はさっそく固い殻を割るためのハサミのデッサンを書きその紙と砂糖の実をもって午前中に庭で会った庭師を探しに部屋を出る。


庭に着き先ほどの庭師を見つけた美桜はハサミのデッサンを見せたがこの世界には美桜が思うハサミはないそうだ。「(それならやはり特注ですね)あ、あの!今その手にお持ちのハサミを貸していただけないでしょうか。」


美桜の言葉に疑問に思いつつも気を付けて触るようにと言われ貸してもらえた。

「(少し大きいハサミですが…。実を挟んで少しの力で…)」

カリッとひびが入る。


「やりました!!ひび割れ成功です!!これで中身が取り出せます!(なぜ誰もこの方法を試さなかったのか本当に疑問です。)」

「お嬢様…。そんな簡単にその実を割ってしまうとは。長年生きておりますがその方法があったなんて…。それにしてもその中の実を何に使うつもりなのですか?」


「お料理に使います!すっごくおいしくなるのですよ!」

そう満面の笑みで返事をした美桜に庭師は本当に料理に使うのかと怪訝そうな顔をした。それを美桜は気にせず砂糖の実が至る所に成っているのを見つけ数個取り借りていたハサミで割った。


「こんなものですかね!早く厨房に行きましょう!」美桜は借りていたハサミを返し砂糖の実を持って厨房に急ぐ。


厨房に着き夕食準備前の厨房を借りることができた。

美桜の様子が気になったリリーが厨房まで来たときハサミのデッサン用紙を見せ特注するようにお願いした。

侯爵家縁の鍛冶職人がいるとのことでそこへお願いしてくれるそうだ。


美桜は先ほどヒビを入れていた砂糖の実の中身をお皿に割り入れ中のざらざらした粉を人差し指でつまみ口に含む。

「甘いです!やっとこれで…。ですが、何を作りましょうか…そうです!せっかくですので!」


厨房にいた料理長にいくつか厨房の材料を使っていいか確認を取り承諾を得たので器具と材料をそろえ準備に取り掛かる。

料理長をはじめ他の料理人たちは今まで引きこもっていたご令嬢が何をするのかと興味津々に美桜の行動を見ている。


ボウルに卵を割り入れ、振るいにかけた小麦粉、牛乳、殻が混ざらないように振るいにかけた砂糖も入れる。

そしてふかふかになる粉を少々入れてさっくり生地を切るように混ぜていき粉っぽさがなくなり液体状だがもったりするまでになったらフライパンを弱火で温めバターを少量入れて熱で溶かす。


バターが溶けきったらおたま一杯分の生地をすくいフライパンに流し込む。

生地がふつふつと小さい穴が空き始めたらフライ返しで生地をひっくり返す。

こうして生地と火加減を見ながら両面に焼き色が付きフォークで生地を刺し中まで火が通ったのを確認出来たらお皿に移し乗せ少量に切ったバターを乗せてハチミツを少し垂らせば完成だ。


美桜が作ったのはお手軽なホットケーキだ。


美桜の料理する姿を見ていた料理長たちはお嬢様が料理を…と目を丸くしていた。

それよりも嗅いだことのないこのかぐわしい匂いに皆がごくりと喉を鳴らす。


「あ、あの……。お嬢様。そのお料理はいったい…。嗅いだことがなくすごくいい匂いで……。」一人が意を決して恐る恐る美桜に聞いてみる。

「これはホットケーキというお菓子です。甘くておいしいですよ?いっぱい作れるので食べてみますか?あったかいうちにどうぞ」そう皆に食べてみるように盛り付けたお皿とフォークを渡す。


皆が見守る中お皿とフォークを受け取った料理人の一人がフォークで一口大に切り分け口に運び入れ一度嚙んだところで「な、なんですか!このふわふわはーー!!?こんな食べ物があったなんて!!」と、もの凄く驚き数回噛んだところで口の中に広がる甘さにも驚く。


「こ、これは!今までに食べたことのない甘さ!!果物やハチミツとは違う甘さだ!!!生地だけでもおいしいが、このバターとハチミツの組み合わせがまたいい!!手が止まらん!!!」

そう感激しながらあっという間に完食してしまい「おかわりお願いします!!」とお皿を美桜に差し出す。


その食べっぷりに料理長や皆が自分達もと美桜にお願いする。

その言葉に嬉しくなり美桜は残っていた生地を全部焼き上げ同じようにバターとハチミツで盛り付け皆に渡す。

お皿を受け取った皆が実食する。


「すっげーー!こんなふわふわなもの初めてだ!!」「こんなに甘くて幸せな食べ物があったなんて…俺…生きててよかった」など大げさだと思うくらいの良い反応をしてくれた。それくらいこの世界にはお菓子という概念がなかったのだ。

美桜は自分が身につけた料理を初めて喜んでもらい少しだけ自信が持てるようになった。


ホットケーキの作り方や他にもお菓子の種類があることを伝えたかった美桜だが夕食の準備の時間がきたという事で今回はこれでお開きになった。

残念がる料理長達からまたぜひ来てほしいと懇願されたのでまた来る約束をした。

「(こんどは今日みたいな派手なドレスではなくてワンピースタイプの制服姿で来ましょう。)」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る