~カノンの目覚めの章~

第7話~現代で目覚めた日~

 現代の日本、一ノ瀬家。


 おまじないをした後、一ノ瀬美桜と名乗る少女と会話を交わし友達になる夢を見たカノン・グレイス・フローライト。


 彼女もまた見慣れない天井をぼんやり見ていた。


 意識が覚醒するにつれて昨日のおまじないや夢の出来事を思い出しており、自室のふっかふかのベッドとは異なる違和感を背中に感じ、ベッドはベッドだがカノンの部屋にあるような柔らかさとは違う事に夢ではないのだと認識する。


 違和感を確かめるために起き上がり周囲を確認すると美桜がかけていた眼鏡が勉強机の上に置かれている。


 手に取って目にかけてみると度が入っていない。


 カノンは疑問に思いつつもさらに部屋を見回すと、姿鏡があったので鏡の前に立ち自分を見てみる。


 姿鏡に写っていたのは、昨日夢で友達になった一ノ瀬美桜の姿があった。


「……。

美桜さん!?


なぜわたくしが昨日の夢に出てきた美桜さんの姿になっていますの!?

それに夢の中の美桜さん、眼鏡をかけていらしたのに、眼鏡をかけなくてもはっきり物が見えますわ。

美桜さんの事……夢の中でお化粧したら化けると思いましたが、このままでも十分ですわね。


そして部屋の中や外の様子、見慣れないものばかりね。

美桜さんの世界だとは思うのだけど……詳しく知る必要がありますわ。

その前に言語かしら。

言葉がわからなければ何も始められないわ」


 自分の姿や周りの風景に驚きつつも現状を把握しようとどうにか冷静さを保ち、美桜の部屋の中にも本棚がありそれなりに本が並んでいるのが目に入ったので何か言語やこの世界について知れるものがあるか探してみる。


 文字の読み書きについては美桜の部屋にあった本やノートで確かめられた。

 聞き取りや発言に関しては実際にしてみないとわからないので部屋から出てみることにした。


 見知らぬ場所なのでゆっくりと足を進める。

 ある場所からいい匂いがし、人の話し声が聞こえる。

 どうやらリビングからの匂いと、美桜の家族の声だ。


 その場所までおずおずと進み覗き込んで様子を見ていると、父親らしき人が朝食の準備をしながら声をかけてきた。


「そこにボーっと立ってどうしたんだ。

朝ご飯出来てるから早く着替えて済ませなさい。

今日は学校が休みだからってゆっくりし過ぎじゃないのか」


 カノンの耳にちゃんと理解ができる言葉が入ってきた。

 少し冷たく感じるその言葉は実家での出来事が頭をよぎる。


 だがそれを振り払いカノンが父らしき人の声掛けに、この世界の言葉で話せるか不安に思いつつも言葉を発しようとしたとき、カノンの第一声を遮るように兄らしき人が言葉を発する。


「父さん、こいつに話しかけるだけ無駄だよ。

俺みたいに授業聞いただけで勉強ができるわけじゃないんだから、どうせ必死に徹夜でもして身についているのかどうかもわかんない勉強をしてゆっくりしていたんだろ。

そこまでしないと勉強が身につかないなんて哀れだよな。

才能がなく努力しか能がないなんてなぁ」


 この世界に目が覚めたばかりのカノンでもわかるくらい嫌味な言い方だ。

 その言葉に頭にきたカノンは、この世界の言葉が話せるかどうかの不安は吹き飛び兄らしき人に歩み寄る。


「見たところ、美桜さんのお兄様のようですが、その言い方はいささか失礼ではなくて?

まるで努力する事が悪いような言い方ですわ。

それに妹に対する態度とは思えないくらい高慢ですのね。


ご自分は授業を聞いただけで勉強ができる風におっしゃいましたが、それは一種の才能で、何事にも努力は必要不可欠ですのよ。

努力をせず才能にばかり浸っていると…破滅しますわよ」


 最後を特に強調した冷静な物言いだ。

 カノン自身、努力せず、権力や才能だけに頼り、破滅した人を多く見てきた。


 その生い立ち故に自分はそうなるまいと努力をしてきたカノンだが、それを面と向かってバカにされたように感じたのもあるが、それだけではなく友達美桜がこの兄に日頃からこんな風に言われているのかと思うと言わずにはいられなかった。


 普段の内気な美桜とは違い、面と向かって堂々と反論してきた事でその場にいた家族皆が呆然とした。


 カノンはハッと我に返り「着替えてきます!」とその場から逃げるように部屋に戻った。


 部屋に戻りやってしまったと反省しつつ、身支度を整えながら考えや状況を整理する。


 美桜同様、言葉や文字の読み書きは長年身についているものなので難なくこなせるが技術や知識、考え、口調はカノンそのものだ。


 これからの事をいろいろ考え身支度を終えたカノンは、先ほどの出来事を思い出し、重い足取りで朝食を取るべく再びリビングに戻る。


 カノンが重い足取りでリビングにつくと、そこには朝食だけが用意されており誰もいなかった。

 先ほどの兄らしき人に言い過ぎたかなと思い、また顔を合わせたらどう接しようか考えていたのだが、姿が見当たらない事に幾分か安堵し、用意された朝食を食べ始めた。

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