エピソード5 固める


 この苦しみから逃れるには一体どうしたらいいのだろう。

 恋という感情は俺には苦すぎて、お手上げ状態だった。

 感情を伝えるほか、方法はきっとない。

 そんな、わかりきったことを思いながらぶらぶらとショッピングモールを歩いていると、瑞妃みずきがバレンタインの特設コーナーで買い物をしていた。


 彼女が右手に持つかごの網目から濃いめの青いものが見える。

 誰かにチョコをあげるのか?

 いったい誰に――。


 俺の胸には今まで味わったことのないような痛みが走って、その光景がチクチク刺さって、その場を背に向けて宛先もなく歩き進めた。

 嫌だったんだ。彼女がほかの人に告白をするんじゃないかって思って。とにかくむかついた。

 泣きたかったんだ。こんなに好きなのに、毎日〝おはよう〟って言ってるのに彼女の目に俺じゃない誰かが映っているなんて。とにかく辛かった!


 どうして、なんで、好きになってもらえないんだろう。

 どうしたら、何をしたら彼女の目に一瞬でも俺が映るんだろう。


 その答えが告白だった。

 彼女に好きって言うその瞬間だけはきっと俺を見てくれる。

 2人きりの状態で彼女に想いを伝えるんだって。


 決意を固めたずるい俺は、彼女のために一枚の紙きれを制服のポケットにつっこんだ――。

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