Scene8
結局、あれから他に有力な参加者候補は現れなかった。
「っっどうすんのよっ!!」
「落ち着け落ち着け。たった一人のための開催でも、何か意義があるかもしれないじゃないか」
恭一が指さした方向からさっきの少年が、母親と思しき女性と公園に向かって歩いてきていた。
「よう、来たか」
恭一が少年に声をかける。無言でうなずく少年。葵は母親の方に話しかけたが、雰囲気は悪かった。
「どうしてもこの子が来たいっていうから……本当に今日ここ何かイベントとかやってるんですか?」
母親が怪訝そうにあたりを見回す。
「はい!」
葵の元気な返事も、場の圧倒的な不自然さに溶けていく。日が暮れかかった公園に、この四人だけ。葵の父親は、まだ諦めずに街でチラシを配っていた。
そこから気まずい中30分ほど待つと、日もさらに落ちてきて、葵の父親も戻ってきた。
「あ、どうも〜〜」
参加者のあまりの少なさに少し表情は崩れたが、すぐにいつもの調子に戻って母親の方に話しかける。
大人が話している間に、恭一と葵はそっと公園を出た。もうすぐ星が見えはじめる。違和感のないようにするには、すぐに準備を始めないといけない。
「ねぇ! ちょっと恭一!」
そう思っていた矢先、葵の声につられて恭一がふと目線を下げると、そこにはあの少年がついてきていた。
「どわぁ!」
驚いてのけぞる恭一。
「どこいくの」
少年が目を細めて、二人をジロリと見た。
「今日ほんとにちゃんとみえるの。ほしょうしてくれなきゃこまるんだけど」
「お、おねえちゃんたちはちょっと別の用事があって……!」
慌てふためく葵を、恭一が手で制す。そして片膝をついて少年をまっすぐ見た。
「君、名前は?」
「たいせい」
「そうか、たいせい。俺達は天の川をもっと綺麗に見せるためにすこしやらなきゃいけないことがある。だから安心して公園に戻るんだ」
「ちょっと恭一! そんなことまでこの子に言って……」
「しんじていいの」
たいせいは、慌てる葵を一向に構っていない様子だった。
「どうしてそんなに見たい? 何か理由があるのか?」
たいせいは口をつぐんだ。
「あ、すまん。嫌なら言わなくて良い」
恭一は少し焦った様子で言い添えた。
「お母さん、びょうきなんだ。今はいっしょにいるけど、もうすぐまたにゅういんしてしゅじゅつ。それよりも前に見せてあげたくて。よく子どものころに見たきれいなあまのがわの話してたから」
よく耳を澄ますと、たいせいの母親が葵の父親とそんな話題で盛り上がっているのが聞こえてきた。
「そうか。わかった。今まで見たことないくらい綺麗な天の川を約束する。だからお母さんのところ戻りな。一緒にいてやるんだ」
たいせいはてとてとと戻っていった。
「さ、これでいよいよ失敗するわけにはいかなくなったぞ」
恭一は立ち上がった。
「その割には良い笑顔じゃない?」
そう言う葵も微笑んでいた。
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