第157話 26Fと27F

ゴルダや星影のメンバーが店舗で買ってきた弁当を食べ始めた。


先に食事を食べ終わっていたキックとナオリンはリビングに低いテーブルを置き、その上で地図のすり合わせをしていた。

そこに山さんも加わり、地図の清書をしているようだ。


「こんな…感じかな」

「基本の地図は一枚そのままで、階段までの最短コースを蛍光ペンで引いたの作りません?」

「そうだね、いいねそれ」


俺はゴルダ達と朝飯を食いながらリビングの会話に耳だけをむけていた。


「どれ、どんな感じだ?」


すごい速さで食い終わったゴルダがリビングの方へと移っていった。

ラルフとフィルも食べ終わりようだ。

リザイアはゆっくり味わって食べていた。


俺は食後のお茶をゆっくり飲みたい派なのだが、あっちの会話も気になったのでお茶を持ってリビングに移動した。


「そうだ、カオくん。コピー機とか持ってきてないですか?」

「ああ!コピー機あれば何枚も清書しなくてすみますね」


山さん、ナオリン、キックの3人が期待に満ちた顔を俺に向けたが、俺は頭をポリポリと掻いた。


「あぁ…コピー機は、持ってきた」


「おお!」

「やったぁ」


「だが、電源がないぞ? この家にはコンセントの差し込み口がないからな」


「ああぁ…」

「電気がない」

「カオさん…充電まほ」

「無い。そんな便利な魔法は無い」


「カオくん、発電機とか」

「無いです。さすがに職場に発電機は持ってきてないです」


申し訳ないとは思ったが、いくら俺が魔法使いだからと言って何でも生み出せるわけではない。

ジャージや歯ブラシお菓子など諸々の防災グッズは災害時の為に日々蓄えていた物だし、机やテーブルやトイレットペーパーは街に移る際に職場にあったアレコレをいただいてきた物だ。

どちらも『あった』物を持ってきただけで、魔法で『出した』わけではない。



「そっかぁ。コピー出来れば楽ちんだったんだけどね」

「動かないんじゃしょうがないですね」

「地道に描き写すしかないですね」


「コピー用紙は山ほどあるんだがな…」



ゴルダに“コピー機”について聞かれたので紙に転写する魔道具だと伝えた。


「魔道具と言ってもこっちの世界の魔力では動かないんだ」

「ふむ。それは残念だが、まぁ転写については人力で描き写せばよい」


「あ、これが基本の地図と、それとこっちが最短をマーカーした地図です」


地図の清書にはユースケ達も手伝ってくれたようだ。

俺が描いた物よりずっと素晴らしい仕上がりだった。

マーカーされた方の地図を見てみる。


1階(22F)は入り口からグニャグニャとくねった一本道で、魔物は出なかった。

上に上がる階段は右へ進むとすぐだ。


2階(23F)はそれなりに複雑な道でスライムがいる。

スライムは倒してもドロップは無い。


3階(24F)はゴブリンが出現した。

ゴブリンも何も落とさなかった。


4階(25F)はオークが出現した。ドロップは肉。


5階(26F)はノールンが出現した。ドロップは今のところ林檎。


どの地図も上へ上がる階段の場所までの最短ルートをマーカーしてある。

こうやって地図で確認して見ると意外とサクサク進めそうだ。

ゴルダやラルフ達も地図を覗き込んでいる。

ゴルダはいつもの三割り増し怖い顔で地図を睨んでいたが方針が決まったようで顔を上げた。



「今日も昨日と同じメンバーで探索をする。今日確認したいのは、道が固定された物かどうかだ」


「ん?どういう事ですか?」


「ダンジョンはモノによっては入るたびに通路が変わる事がある。特に塔型ダンジョンは罠として通路が入れ替わる事が多いと聞いた」


「うっわ、エゲツなぁ」

「それって地図があっても意味ないじゃん」


「洞窟型、地下型のダンジョンはそんな事は無いんだがな。塔型の攻略が難しいのはそれもあるらしい。まぁ、聞いた話だからどこまで本当かはわからん」


死霊の森のど真ん中に出来ただけでもアレなのに、毎回通路が変わるダンジョンとか、意地悪すぎないか?

せめて各階にテレポート出来ればいいのに、ブックも不可能だからなぁ。


「とりあえず今日は地図の確認だな。なので23Fはスライム無視だ。

24Fもゴブリンを無視で走り抜けるぞ」


「25はどうする?」


ラルフは25Fの地図を眺めながらゴルダに視線を移した。


「25Fは最短を走りながら出てきたオークは倒す。今日確認したいふたつ目だ。昨日はオークから肉が出た、25Fのドロップが肉のみなのか、それとオーク以外の魔物も出るのか、そのあたりを確認したい」


「なるほど。通路だけでなく魔物も変わるって事?」

「うむ。何しろ塔型ダンジョンは情報が少ない、入ってくる情報もどこまで信頼がおけるかわからん」


何か面倒くせえなぁ、この世界のダンジョン。

道が変わったりモンスターやドロップが変わったりとか。

いや、ゲームと思えば楽しいか?

いやいや、死んでもリセット出来ない命懸けゲームだからな。

やはりここは慎重に行きたい。


「で、地図が変わっていなかった場合だが、26Fは昨日と同じ体制で地図作りをしていく。そして27Fの確認、だ」


「そっか。通路が変わってたら地図作る意味ないもんね」

「そうですね」


山さん達がちょっと残念そうな顔をしていた。

今日の方針が決まったところでやまとダンジョン探索の準備を始めた。

それと、関係ない話だが、ゴルダ達は死霊の森ダンジョンと呼んでんいるが、俺達は何となく『やまとダンジョン』と呼んでいる。



ゴルダやラルフ達はすでに準備をした状態でうちの店に来ていたのですぐにでも出発出来る。

俺達は慌てて装備を身につけた。

POTやスクを昨日同様に皆んなに配り、シールドやらエンチャント魔法もかけてテレポートした。

今日はやまとダンジョンの入口までいっきに飛んだ。


マーカーされた地図は一枚はゴルダが持っており、正確性を確認しながら進むようだ。

と言っても今回はマーカーした最短距離の通路の確認のみだ。

もし、通路が変化しないダンジョンであったら、その後にギルド員が地図全域の確認作業にあたるそうだ。

ギルドの職員さんって本当に大変だな。




22Fは通路入ってすぐ右に進み階段のある壁に着いた。

昨日同様に魔物は出なかった。

上に上がる壁を開き23Fへ。


地図を見て進むゴルダを先頭に23Fをスイスイと進んで行く。

もちろんスライムは無視だ。


あっという間に階段に到着した。

階段を上がり24Fへ。

ここはゴブリンが出たフロアだが、足早に進むゴルダに着いて小走りで通路を進む。

時々出会うゴブリンはラルフがサクサクと切り捨てている。

さすがAランク冒険者だ。



5分ほどで25Fへの階段にたどり着いた。

やはり地図があると楽だな。

26Fに上がる。

ここはオークが出たフロア。


「ここも最短ルートを早足で進む。出会ったオークはドンドン倒してくれ」


ゴルダが俺らの方を見ていた。


「僕らも、ですか?」


山さんが少し緊張した顔になった。


「そうだ。だが無理ならやらなくていい」


「やり…「やれます!」「自分もやります!」」


ナオリンとキックが返事をした。

珍しい、いつも大人しいがキックはやる時はやる男だな。

あと、ナオリンはもちろんやる気満々だった。


「うん、僕も頑張ろう」


山さんも武者震いをしながらやる気を絞り出していた。

よっし!俺も!皆んなを応援しよう。

だって俺、後衛だし?


「みんな!ヒールは任せてくれ! あと肉拾いも!」


パーティは適材適所で頑張るのがベストだ!

俺が叫んだのを合図にゴルダが進み始めた。


結構な速度で進んで行く。

それなりにオークは出現しているが、ゴルダ、ラルフ、フィル、山さん、キック、ナオリンの前衛6人がしばき倒している。

俺の後ろにはリザイアがいて後方を警戒してくれる。

俺は落ちている肉を拾い続けた。

肉は見た感じ昨日と同じ大きな葉のような物に包まれている。

サイズも同じっぽい。

出現しているのも1種類のオークっぽい。


あっという間に階段へ到着した。


「皆んな、大丈夫か?」


「平気だ」

「おう」

「大丈夫です」

「最短ルートだとすぐ着いちゃいますね。もっとやりたい」


ナオリン、やる気ありすぎだろ。


「後方はヒマすぎよ」


リザイアさんは余裕がありすぎて退屈のようだ。

そりゃあAランク冒険者だもんな。

オーク程度は目じゃないのか。


「今のところ、地図も魔物もドロップも昨日と同じだな」

「罠がないって事?」

「うぅむ、どうだろうな。1日2日で決めつけるのも早い気もするが」


「とりあえず26Fに上がる」

「おう」

「わかった」

「はい」


「26Fは昨日同じく地図作成をメインとする」


「26はノールンだったな」


「そうだ。適当に進んで行くので同じ道に入りそうな時は声かけてくれ」


「わかりました」

「はあい」

「…はい」

「よぉっし、林檎拾いまくるぞ!」


先頭のゴルダが通路を進み始めた。




26Fを隈無く周りマップが埋まった。

ノールンはオークより硬く、体当たりや長い爪での攻撃で盾職が必須の魔物だった。

フィルが大活躍した。

かなりの接近戦になるため慣れていない俺達はビビりまくった。

だって平和な日本から来たんだもん、俺達。


このフロアはノールンしか出なかった。

しかしドロップは林檎以外にオレンジ、バナナ、レモンなどの果物が落ちた。

バナナは20本くらいがひと房になった立派なやつだ。

もちろんオレンジもレモンも高級青果店のやつ。

籠があったら入院のお見舞い籠が作れてしまう。


「メロンが出なかった」

「そうだねぇ、お見舞いのフルーツ籠は真ん中にメロンが必要だよね」

「…メロンは美味しい」


どうやらノールンがメロンを落とさなかった事にナオリン達は不満を隠せなかった。

が、俺はメロンが苦手なので気にならない。

メロンを食べると喉がイガイガするのだ。


そうしているうちに『27F』へ上がる階段前に着いた。

そこで山さん達がマップを紙に描き写す。


「描き終わりました」


山さんとキックはすでに描き終えていた。

ナオリンの声を合図にゴルダが階段を上がる。

続いて俺達、そして星影の面々が後ろから上がってきた。


『27F』、まずはどんな魔物が出るのかを確かめるため、ゴルダと星影、そして照明係として俺が少しだけ進む。

山さん達は階段近くで待機だ。


直角に右に折れている道を進むと魔物がいた。


「オウルベア…ね」


俺の後ろからリザイアが呟いた。

オウル…ベア、ベアと言うから熊の一種なんだろうが、首から上は鳥だ。

オウル、フクロウか?梟熊。

羽は無いみたいだが、足が凄い鉤爪だ。

体長は俺より頭ひとつ分くらいデカイ、ノールンと同じ2mくらいか。


あれ?『オウルベア』ってゲームでよく見た気がする。

いや、見た目は全く覚えていないけど、ハイナの森で料理の材料集めしてた時に狩ってた覚えがある。

10年以上前だからうろ覚えだが、そんなにレベルが高いモンスターじゃなかったよな?

まぁゲームだからサクサク狩れたが、実際目の前に自分よりデカくて嘴とか足の鉤爪とかがもの凄いバケモンがいたら腰抜かす。


なんて事を考えているうちにラルフが剣で倒していた。


「オウルベアは動きが速く、跳躍しての足爪攻撃が強いから先手必勝に限る」

「跳躍したら私が落とすわ」


俺の後ろでリザイアが弓を持ち上げて見せた。

オウルベアの死体が地面に吸い込まれる。

そこにポツンと小さな瓶が残されていた。

俺が拾おうとするとゴルダが先に拾い上げ、瓶の蓋を開けて中を確認していた。


「ポーションか何かか?」

「いや、これは、蜂蜜だな」


はい、キタアアアアアア。

ハチミツ来た。

さすが森のクマさん、いや、ここは森ではないがオウルベアは俺の期待に応えて食料系のドロップをくれた。


25Fが肉、26Fが果物、27Fがハチミツ!

何このラインナップ、俺のため?うちの店のため?

街では砂糖や蜂蜜の甘味系がバカ高だったが、店の食材が取れるダンジョン、ブラァボォォウ。


「ゴルダ、このフロアも回ろうぜ!」


「そうだな。地図のお陰でかなり良い速度で進めている。ここも地図を作成しよう。リザイア、飛んだやつは頼む」


「あ、じゃあ僕らはどうしましょうか」


「うむ、様子見で真ん中に固まって移動してくれ。地図作成がメインだ」


というわけで26Fと同じフォーメーションで27Fを進んで行く。

26Fと違うのはリザイアの弓が活躍している事だ。

そして俺は少しガッカリした。


オウルベアのドロップは蜂蜜だけではなかった。

オウルベアは毛皮も落とした。

熊の毛皮かぁ……。

蜂蜜をもっと落として欲しかった。


そうして『28F』への階段に着いた。

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