第155話 25Fで肉拾い

山さん達が24Fの地図作成を終えた。

ゴルダが凹んだ壁の前に立つと壁が左右に開いた。

思った通りすぐ先に上への階段がある。

25Fだな。



「上へ行くが、大丈夫か?」


ゴルダは地図を作成し終えた山さん達に休憩が必要か聞いた。


「行けまーす」「はい…」「大丈夫です」


ナオリンは元気がいいな。

キックと山さんは多少疲れている感じだ。


「よし、階段を上がるぞ。出るとしたらゴブリンより強いやつが出るはずだ。皆、気を引き締めてくれ」


「おう」「わかった」「はい」「はーい!」

「次は何か落としてほしいわね」「だな」「ですね」



俺たちは階段を上がっていった。

壁に『25F』の文字。

25階…いや、地上4階か。


22F(地上1階) 何も出なかった安全地帯(たぶんだが)

23F(地上2階) スライム 攻撃しなければ襲ってこない

24F(地上3階) ゴブリン ドロップなし

25F(地上4階) 何が出るのか



ラルフ、ゴルダ、フィルを先頭にさっきと同じフォーメーションで進んで行く。



「あ、何かきます!」


ナオリンが前衛に向かって叫ぶ。

その声で前衛の3人が警戒の体勢になった。


キンッ!

金属の当たった音が聞こえた。

武器を持った敵か?


ガアァッ


何かが叫ぶ声?

前衛の邪魔にならないように少しだけ距離を取っていたので、ゴルダ達のいる場所が薄暗くてここからはよく見えない。


「ライト付けてくる!」


ダッシュで前に出て、

「明るいライト!固定!」

魔法を天井あたりに放ち、回れ右で素早く戻った。

スマン、俺はビビリだ。


今度はよく見える。

ラルフの足元に倒れている人っぽい何か。

それと、フィルが盾で押さえ込んでいる…人型魔物?

フィルよりも背はデカい、幅もデカい。

金属の鎧みたいのを着てるけど、顔が、顔が、ブタ?


………?

あ、小説によく出てきた顔が豚の人型魔物、オークか!

おれがやってたPCゲームは顔まで見えなかったからな。

うちのパソコンの解像度が悪かったせいもある。

解像度を良くすると動きがラグラグになるから下げてたもんなぁ。

オークはゴブリンと同じく初級エリアをウロウロしていた魔物で、特においしいドロップもなかったが、通りかかると襲ってくるので瞬殺してた。



ガアァァァ


魔物の雄叫びに我にかえりゴルダ達の方を見ると、フィルが盾で押さえていたやつはゴルダが切り倒したようで、地面へと倒れていった。さっきラルフの足元に転がっていた死体は消えていた。

見ていると地面が淡く光り、ゴルダが斬った魔物が吸い込まれていくところだった。



3人がこちらに戻ってきた。


「オークだ。オークが2体出た」


「この階はオークが出るのね」


ラルフが何か持っているのにいち早くゴルダが気がついた。


「何か落ちたのか?」


「これが…」


ラルフの手には大きな葉で包まれた何かがあった。

その葉を開いてみると、肉が入っていた。


「肉?」

「肉だと?」

「肉だ」

「……豚肉」


キック?

何で豚肉?

全員が肉を見つめて一瞬無言になった。


「オークを倒すと豚肉が出るんだ?」


ナオリン?

何でちょっと嬉しそう?


「オーク肉でしょ。オークだから」

「え、でも、オークが豚肉持っていてそれを落としたのかも」

「ああ確かに。オークを解体したわけじゃないから、オーク肉とは言えないか」


いやいやいや、オークが豚肉を常に持ってるっておかしいだろ?

いや…ありなのか?

オークの弁当が豚肉生肉でそれを常に腰にぶら下げている…ありか?

そんなわけあるかい!

自分にツッコんだ。


「たまたま豚肉を持っていたオークが死んで落としたのか」


リザイアさぁん?


「このフロアはオークか」

「オークは人よりデカく力も強い。その上武器を持っている。あまり広がらずに進んで行こう」

「そうね。前後から攻撃されると厳しいわ」

「ドロップってお肉だけなんですかね」

「どうだろう。もっと倒してみないと」

「同じ場所に止まってるとリポップで囲まれる可能性もあるな」

「そうだね。進んだ方がいいね」

「よし、進むぞ」

「あ、お肉預かります」


山さんがラルフから肉を預かり、アイテムボックスへ収納した。

「あ、うん。豚肉だ」

山さんはアイテム一覧に出た名称を確認していた。

本当に豚肉だったんだ。



その後はどんどんと進んでいった。


「次は左手、二つ目の角を!」

「曲がると3匹います!」


「十字路は突っ切ってください。その次の角を曲がって戻れるので!」


「行き止まりまで走って!」

「突き当たりT字で右へ行って!」

「右に1匹います」


山さんは道の指示を、敵の数はキックが示す。

いつの間にか役割分担ができていた。

ナオリンはリザイアと一緒に後方を警戒、俺は、俺は肉を拾って収納する係。


地面に落ちた肉を、持っていたスタッフ(杖)の先で触れて『収納』と心の中で言えば、肉はアイテムボックスに収納された。

いちいちしゃがんで肉を拾わなくてすむのは老体にはありがたい。



右上に目をやりマップを確認すると1/4程度を残して埋まってきていた。

しかし前衛はそろそろ疲れが溜まってきた頃ではないだろうか?

このフロアに来て1時間は戦い続けている。(俺は肉を拾い続けている)

どこかで休憩をしたい。

マップで良さそうな場所を探す。



「山さん、次の角を右に行くとY字路の左の道が少し先で行き止まりになってるだろ?みんなをそっちに誘導したい。前衛に伝えてもらえるか?」

「え?行き止まりの方でいいの?」

「うん。少し休憩を取ろう」



Y字路の突き当たりに到着した。


「はぁはぁはぁ…」

「ふぅ、キツイな」

「はぁはぁ ご苦労さん はぁ」


「前衛は突き当たりのところで休んでくれ」

「私たちが警戒に立ちます」

「うん。キックと山さんも休んで、マップだけ見ててもらえるか?

敵がこっちの通路に来そうだったら教えてくれ」


ボックスからパイプ椅子を三つ出して、ナオリンとリザイアにも座ってもらった。

俺は武器をスタッフからハンターボウに持ち替えた。

座ったまま攻撃できる。(はず…。座って弓矢なんて射った事ないけどな)

警戒しつつ俺たちも足を休めよう。



山さんがアイテムボックスに入れて持ってきた水や弁当を配った。

そういえば昼食ってなかったな。

スマホの時計を確認するともう午後4時を回っていた。

死霊の森はアンデッドタイム(そんなんあるか知らんが)に突入しているだろう。

今夜はこの塔で野宿か。


どうやらオークはこっちの通路には入ってこない。

俺たちがここにいる事に気がついていないのかもしれない。

大きな音を立てたり引いてこない限りは大丈夫なのかもな。



「ヤマカー、地図はどんな感じだ?」

「ええ、残りはあと1/4くらいでしょうか」

「ふむ。休憩後ひと踏ん張りするか」

「ゴルダ、今夜はどうする?」

「今ここで休憩しつつ描けるとこまで地図を描いてくれ。その後、残りの道を探りつつ上への入口を探す」


山さん、キック、ナオリンが慌ててボックスから地図作成セットを取り出してマップを描き始める。


「街に戻るのは一瞬で出来る」

「ああ、貰ったスクロールか」

「だが、明日またここまで戻るのは時間がかかりすぎる」

「そっかぁ。帰るのは簡単だけど来るのがねぇ…」

「戻って地図をキレイに完成させて、階段までの最短距離を突っ走れば、そんなに時間はかからないんじゃないか?」

「階段まで突っ走る?」

「だが、ゴブリンやオークはどうする?」

「そっかぁ、突っ走れるのは22、23だけか。24、25でそれをやるとモンパレを起こすか…」

「モンパレ?」

「モンスターパレード、トレインとも言う。魔物をゾロゾロ引き連れて走ってしまう事だ」

「うわぁ。それは怖すぎる」

「…でも、ある意味…うまいかも」

「え?」

「カオさんがいる場合…に限り…なんですけど、ここみたいな…通路にトレインしてきて…魔法で」

「ああ!なるほど。通路でファイアボールか」


そう言えばここで攻撃魔法は試してなかったな。

ゲームのオークはファイアボールでも瞬殺できたよな?

MPが勿体無いからいつも杖で殴ってたけど。


「試すか…。ゴルダ、この後進む時は前衛に入れてくれ。攻撃魔法を試して見たい」


「わかった。休憩のあとは階段までオークを倒しつつ行く。

そこで残りの地図を作成、階段の上で魔物を確認して、今夜どうするかはそこで決める」


「オッケー」「おう」「わかった」「はい」

「ええ」「うむ」「ん…」



現在マップ表示されている地図を紙に写し終えた3人が荷物を収納したのを見て、俺らも出発準備をした。

ここから先、俺は前衛に混ざる。


「俺の横に」


フィルから声をかけられて、盾を持っているフィルの横に付く。

それほど離れていない位置にいる山さんから道の指示がくる。


「まず左に進みましょう。十字路がいくつかありますがさっき通った道なので無視して直進してください」



この塔に入った時は「ダンジョンの雰囲気を壊してはいけない」と薄明かりの”ホテルライトを設置していたが、実際にゴブリンだのオークだのが出始めたらそんな事は言ってられない。

キッチリハッキリクッキリ見たい。

ダンジョンの通路がホラーゲームばりだと緊張感が半端なく疲労増し増しなのだ。

たとえ、肉しか拾ってなくても、だ。



「前方に…2匹いる」

「カオ、やるか?」


「お、おう ひゃる」


あ、噛んだ。

隣を歩いていたらフィルを見ると目を逸らした。

こっちを見ていたゴルダの目が、生暖かい。

恥ずかしさで緊張はふっとんだ。


ゴルダとラルフが左右に分かれて壁際に寄る。

俺の正面を開けてくれたようだ。

7〜8m先にオークが2体見える。


オークが腰の剣を抜いたのが見えた。

向こうもこちらに気がついたようだ。

ゆっくりとこっちに向かって歩き始めた。


この距離ならファイアボールが届くだろう。

杖を前方に突き出しながら、


「ファイアボオルっ!」


杖の先からバレーボールくらいの大きさの火の玉が飛んでいった。

手前のオークに当たった途端に炎が爆ぜ、すぐ後ろのオークも一緒に火だるまになった。


「当たった。狭い通路だと当たりやすいな」


ちょっとホッとした。

この世界に来たばかりの草原で魔法を初めて使った時はノーコンだったからな。

ダンジョンの方が魔法は使いやすいかも知れん。



2体のオークは丸焦げになっていた。

すぐ横に肉の包みがあったので拾った。

よかった。肉が丸こげにならなくて。

その後も山さんとキックの指示でどんどんと進んで行った。



「マップ……埋まった…たぶん」

「そうだね。この階は網羅し終わったかな」

「そうか。では上へ上がる隠し扉はわかるか?」


「あ、ここから近い」

「ホントだ。ここから左へ左へと進むとすぐです」



到着した。

凹んだ壁のすぐ下の床を踏むと壁が左右に開く。

ラルフ達に警戒をしてもらい、山さん達は残りの地図を完成させた。



「出来ました」

「…自分も」

「出来たー。ちょっと雑だけどいいや」


「さて、今夜どうするか。ここらで野宿か、街へ戻るか」

「結局この階はオークのみだったわね」

「ドロップも豚肉オンリーでしたね」

「この塔が何階まで続くのかわからない。一度街に戻るか」

「そうだな。ゴブリン、オークはカオの魔法で蹴散らせる事もわかった。一旦街に戻って、明日は最短経路を突っ走ろう」


「その前に」

「ああ、そうだ。その前に上の階、26Fの魔物を確認しよう」




階段を上がった先に、『26F』の表示があった。

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