第148話 ダンジョンらしき塔に入ってみる

全員がPOTをカバンにしまうのを確認して、エリアテレポートをした。

死霊の森のやまとビル……のあった場所に建つ謎の塔の前へ。



塔の前でヨッシーがおもむろにカバンからスマホを出して写真を撮り始めた。

ユースケの写真が羨ましかったようだ。

それを見たゴルダ以外の皆んなも撮り始めた。

もちろん俺も。

だってガウディみたいな建築物にお目にかかれる機会なんてなかなかないじゃないか。

やはり記念に撮っておかねば。

自撮りしたりお互い撮りあったり、塔の前に全員が並んでゴルダにスマホのボタンを押して貰ったり。


「おいっ」


スマホのカメラシャッターのボタンを押してくれたが、ゴルダの顔がめちゃくちゃ怖くなってた。


「あ、さーせん」

「すみません」

「お待たせしました」


皆、スマホを慌ててカバンにしまい込み、塔の入り口の前に集まった。

デカイ入り口だな。


「俺が扉を開ける。皆は少し下がっておけ」


俺たちはコクコクと頷き5人でかたまったまま後ろへ下がった。

見た感じ扉とその付近の壁にはインターホンのボタンや扉開閉のレバーなどは見当たらない。

鍵穴のようなモノもない。


重たそうな石の扉に近づいたゴルダが両手を前に突き出して扉を押していく。

うん、力技で行くしかないよな?


ゴルダが体重を両腕に乗せるように扉を押して行くと、ギギギという音を立てながら扉はすんなりと開いた。


鍵はかかっていなかったようだ。

ゴルダは開いた扉を押したままの状態で中を覗っていた。

どうやら扉から手を離すと扉は元の位置に戻りしまる仕掛けのようだ。

俺は周囲を見渡して大きな石を見つけて持ち上げた。


それを開いた扉の足元に置いた。

扉が閉まるのを阻止するためだ。

入った途端に扉が閉まり閉じ込められたらたまらない。

扉がデカかったので持ち上がるギリギリのサイズの石をいくつか運び、閉まらないように設置した。

とりあえず、人が通り抜け出来る隙間を作る事が出来た。


ゴルダは扉から手を離して中に入った。

俺たちも続いた。


中は、扉から真っ直ぐに石畳の通路が続いていた。

真っ暗ではないが、かなり薄暗かった。


「ホテルライト!」


俺は照明魔法を放った。

明るい照明ではなくオレンジ色の暗めの照明にしたのは、ほら、だって、ねぇ?

ダンジョンの雰囲気を壊したら悪いと思って。



「固定!」


とりあえず、扉中の天井に灯りを固定した。

通路を少し進むとすぐに壁にぶつかった。

その壁には数字とアルファベットが刻まれていた。


22F


「22……F? どう言う意味だ?」


ゴルダが呟いた。


「22F……?」

「え? あ、そうなんだ? 22Fなんだ?」

「なんだ。やっぱり、うちらのフロアだよな?」


働いていた時、ビルの非常階段の壁に大きく書かれていた『22F』。

ビルの階数を表示していた、つまり22階の事なんだけど。

やっぱここって俺らのいた22階のフロアって事か。

あまりにビルがオドロオドロしくなってたから、別物かと思った。


「どう言う事だ?」


ゴルダが訝しげに俺の顔を覗き込んだ。


「あぁ、22Fって俺らの世界で建物の22階の事なんだけど」


「22階? ここはまだ地上1階だろう?」


「うん、まぁそうだけど、俺らは元の世界で22階にいたんだ。それが、俺らのフロアだけこの世界に飛ばされて来たっていうか」


「ほおぉ」


「カオくん、もしかしてこの上に他のフロアもやって来たって事?」

「23階から上!」

「他の社員達も?」

「いや、どうだろ?建物の見た目が完全に変わっていたし…」


22Fの壁の天井にもオレンジライトを設置した。

行き止まりと思った壁はL字路で、右に狭い通路が進めるようになっていた。

そこでマップを確認してみたが、どうやらこの建物の内部は自分が進んだ所のみマップが作成されるようだった。


ゴルダの指示により最初に決めたフォーメーションになり、ゴルダを先頭に右の細い通路を進んでいった。

所々にオレンジライトを天井に設置した。

お化け屋敷のようにオドロオドロしい割には罠も無ければ魔物も出ない。

そのまま壁沿いに進んでいくと、『22F』の壁のところに戻ってきた。

どうやら入り口から一周したようだ。



「何も出ませんでしたね」

「魔物もお宝もなかったぞ」

「そうですね。割れそうな壺もなかったし」

「ダンジョンじゃないのか?」

「…階段なかった…上は飾りなのか…」


え……、この建物の上が全部飾りなのか?

飾りの部分長すぎね?

てか、この建物、見掛け倒し?

しかも地上一階は通路だけ…、意味わかんね。



「事務フロアも無くなってましたね」


ユースケ達はちょっと残念そうな顔をしていた。


「だな。部屋とか全く無かったな」

「くねったり曲がったりの一本道だけでしたね?」


俺はホッとしたような肩透かしをくったような複雑な気持ちだった。

再度マップを開くと自分達が今通った道がマップにしっかりと表示されていた。


あれ?

ここが南の非常階段とすると、マップで対角線上の北にあたる通路の行き止まりみたいなところに薄く何かが表示されている。


「キック、山さん、マップ見てもらえるか?」


ゲーム経験者でないヨッシーとユースケにはマップは表示されない。

もちろんこの世界のゴルダにも。


「おお、これ今歩いたとこかぁ」

「入った時はマップ出なかったから、この塔の中はマップが出ないのかと思ってました。通ったとこが記入される感じなのか…」


「で、北の端っこ。ええと、ここから対角線上のとこ何か出てるよな?」


「出てるねぇ、何だろ?」

「うっすらと…何か…ワナ?隠し部屋?」


「おい、説明しろ」


ゴルダが我慢できないようにせっついてきた。


「ああと、俺たち稀人は全員ではないけど、通った道を地図として見る事が出来る能力があるんだ。それで今通った場所で、ハッキリ出てないけど何かがありそうな印を見つけた」


「ほぉぉ」


俺たちはゴルダを先頭にまた同じ道を進んで行った。



北側に当たる通路の、壁全体が少し凹んだ場所に到着した。

マップだとここら辺か。

さっきは横目に通り過ぎたところだ。

パッと見にはただの壁に見える。

近づかないとわからないな、これ。


凹んだ部分の壁の前に立つとゴゴゴっという音と共に壁が左右に開いた。



「自動ドア?」

「地面を踏むと開くんか?」


ちょっと後ろに下がってみる。

ゴゴゴ。

閉じた。

また踏んでみる。

ゴゴゴっ。

開いた。


「ちょっとそのままでいろ」


ゴルダの指示で俺が踏んでいる状態でゴルダが中を覗き込んだ。


「奥に階段があるぞ」



階段!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る