第120話 やまだ会議 え?やまだ?だれ?

村の開拓が順調に進んできたある日、木を切っていた俺の元にヨッシー達がやってきた。


「カオるーん、切り出しは順調かぁ」


「おう、順調だぞ。どうした?みんなで」


「久しぶりにやまと会議をしたいんだよね」


「開拓村の全体会議ではなくて、初期メンバーと山さん、キック、ナオリンで教会で会議しませんか?」


「そうだなぁ、しばらくやってないな」


「私達もいいの?参加して」


「初期メンバーと職業持ちってことで」


「それにしてもなんで“やまと会議”なんです?カオさんあたりはあの会社を一番嫌ってそうですけど」


キックって何気に聡いよな。

“嫌い”というより“苦手”な人が多かったからな、あの職場は。

一応、職場では顔にも態度にも出さないようにしていたのだが。



「あぁ、まぁ特に理由はない。何となく適当に始まった名前だよな?」

「じゃあ呼び名変える? カオ会議 カオるん会議 カオッチ会議」

「何で俺なんだよ」

「今は無きやまと商事株式会社会議」

「なげーわ」「長い」

「じゃ、部長の名前とって、山川会議とか山さん会議」

「僕の名もやめて」

「う〜む やま やま…やま…」

「やまだ会議!」

「いや、だれだよ それ」

「座布団持ってきてぇ」

「もう今まで通りでよくない?」

「だな」「ですね」「うん」


とみんなが納得したところであっちゃんに念話して、みんなを連れて教会に飛んだ。



「では、久しぶりの第48回やまと会議を始めます」


ヨッシーの音頭で会議が始まった。



「えー今回の議題ですが、テレポートについて、です」


「ん?」


「いやさ、今って開拓村から3日にいっぺん街までテレポートしてもらってるじゃん?カオるんに」


「そうですね、テレポートできるのカオさんだけなのでほぼほぼタクシー代わりに使っちゃってますね」


「でさ、思ったわけよ、他にテレポートできる手段ないかって」


「カオくんが使っているのは魔法使いだけが使える魔法なの?」


みんなが俺を見た。



「俺が使ってるあの魔法は“エリアテレポート”って言って、魔法使いのみが使える魔法だな」


キックが何かを思い出した。


「あ、でも、ゲームでは魔法使い以外も皆テレポートしてましたよね?」


「うん。ゲームでの移動手段はいくつかあったな」


皆の目が輝いた。


「まずひとつは現在使っているウィズの魔法“エリアテレポート“これは自分中心に近辺の人も一緒に移動できる。2つ目、同じくウィズの魔法で”テレポート“これは本人のみが移動する」


皆んなは興味津々で静かに俺の話を聞いていた。



「それから3つ目は”テレポートスクロール“これはスクロールを持っていればどんな種族でも移動可能だ。で、最後に4つ目、”テレポートリング“これもリングを所持していれば誰でも使用可能だ」



「キックが言ってたように、ウィズも含めてゲームではほとんどの人がスクロールか指輪の使用だ」


「そうだったのか」


キックは謎が解けたようにうなづいていた。

確かにレベル30だとまだ指輪など入手出来ないだろうし、街近辺の狩りになるのでスクロールも使わなかっただろう。

あ、帰還スクロールは各街の商店で売っていた。



「キックはレベル30って言ってたから指輪はまだ持っていないのかな。指輪はゲーム内で取引されていたが、結構高額だったので、金が貯まるまでは大体はスクロールだと思う」


「そのスクロールはどうやって手に入れてたの?」


ナオリンが素朴な疑問を口にした。


「ゲームだとどの街のショップでも購入可能だった。あとはモンスターからのドロップかな?この世界ではどうなんだろう。街で売ってるのかゴルダに聞いてみるか」


「カオくんはスクロールや指輪を持ってるの?」


「指輪を入手したらスクロールは使わないからなぁ。買わないし、ドロップしても倉庫の邪魔だから即売ってたな。売っても1枚1円だったけど あ、円じゃなくて1Gか。店で買う時は1枚10Gだが売ると1Gとか、ボッタクリw」


「スクロールって、脱走事件で渡されたスクロール?」


ナオリンが突然に思い出したようだ。



「え?何それ」


ヨッシーとユースケには初耳だった。

あの時、神殿に残ってもらっていたヨッシーらには渡していない。



「開拓村の脱走者を探す時に、いざという時に使えってカオさんから渡された…」


ナオリンが自分のアイテムボックスから帰還スクを取り出した。

キックも同じように取り出してまじまじと見ていた。


「これは、帰還スクロールですよね?……現物ってこんななのか…」


同ゲーム利用者だったキックにはわかったようだった。


「あ、すみません。借りパクするつもりじゃなかったんですけど色々ありすぎて忘れてました」


「あ、開くと街の門へ行っちゃうから気をつけてな。帰還スクロールは1番近い街の門へ瞬時に帰還出来るスクロール。ゲームでも危なくなったらそれ使って帰還って、みんなやってた」


「え、何それ? いいなぁ」


「あぁごめん、10枚しかなくて。で、1枚は試しに使った。この世界で本当に使えるかどうか試したんだ。残りは山さん、キック、ナオリンに渡してあと6枚か

開拓村で作業してるヨッシー、ユースケとユイちゃんにも1枚ずつ。本当は全員に渡したいんだけど…」



「リングは貸し出し可能ですか?」


「うぅむ、テレポートリングは貴重だから貸すのはスマン。ウィズは魔法が使えるけどMP温存のためリング必須なんだよね」


「そっかぁ」


「あ、でも、貸し出しは出来ないけど、使えるかどうかの実験はしておこうか?」


そう言って右手中指にしていた指輪をはずした。


「ん?人差し指の指輪は何?」


山さんも洞察力が高いなぁ。

テレポートリングの他に変身リングもはめてたのに気がつかれた。

あれだな、初めて会う人の結婚指輪とかにすぐ気がつくタイプだな。


「ああ、こっちは変身リング」


「ゲームでは常時使ってたけど、こっちで使ったら魔物と間違われて狩られそう」


「魔物に変身するの?」


「そう。ゲームでは、変身するとその魔物の特性が使えるようになったんだ。例えば、足が速くなるとか力が強くなるとか」


「へええ」「なるほどね」


テレポートリングを試すために皆んなで中庭へ移動した。


「で、テレポートリングな、まず同じゲームだったキックから使ってみて」


そう言ってキックに指輪を渡した。


「指輪したらステータス画面にテレポートボタンが出るので、そこ押して、で、まずはこの地点、教会中庭とかでブックマークしてみて。で、次に、あの薬草畑のとこまで行って同じように教会薬草とかでテキトーな名前で登録して」


キックが10メートル程先の薬草畑へ走っていった。

早いな。

ここはもうブックしたのか。

薬草畑の前に立つキックに向かって叫んだ。


「そこからぁ、テレポートって念じて教会中庭って念じればぁ」


そこまで説明したら薬草畑前にいたキックが消えて瞬時にこちらにテレポートした。

リングの貸し借りはオッケーのようだ。


「使えました」


普段静かで大人しいキックが興奮したように顔を紅潮させていた。

わかる。

俺もこの世界に来て初めてテレポした時はそんなだったよ。


「オケ。じゃ、指輪返して。指輪外してもブックマーク残る?」


「残りますね」


「なるほど。一度でも使えばオッケーなのか」


キックは同じゲームだったので使えたのかも知れない。

次は、別のゲーム経験者の山さんに試してもらおう。


「じゃ次、ゲームは違うけど剣士の山さん、どうかな」



いけた。

ゲームが異なってもアイテムは使用可能か。

ナオリン、あっちゃんもいけた。

ゲーム経験者は全員リングを使う事が出来た。



「次はゲーム未経験のヨッシー、どうかな」


「まかせろ!俺はやるぜ!」


お、いけた。

と言う事はユースケもいけるはず。


いけた。

リングをしていない状態でのブックマークも試してもらった。

一度でも使用していればその後のブックは可能のようだ。

とりあえず、機会があるたびにブックはしておくようにと伝えた。



ブックは出来たが問題はリングもスクもない、という事だ。

この世界で入手したいな。



テレポートでギルドへ行きゴルダに聞いてみた。

王都のアクセサリーを取り扱ってる店ならもしかしたら、という答えだった。

しかも法外な値段だそうだ。

スクロールの方もこの街では見た事はないそうだ。

あるいは王都の魔道具専門店なら、と言っていた。

…え?魔道具専門店? それはぜひ行ってみたい。


王都かぁ。

ちょっと買い物に、という距離ではないらしい。

馬車でもけっこうかかるらしい。

そのうち王都まで旅(馬車で)をして、着いてブックマークさえしてしまえばあとは楽に買い物に行ける。(金さえあればだが)



結局、リングの使い回しで紛失されるより、タクシー扱いされる方がよい、という話で今回の会議は終了した。



一度でもブックマークするとその後はリングもスクも無くてもブックマークは可能という事がわかっただけでも儲け物とするか。

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