第114話 開拓希望者
土屋達が騒いでいるその部屋から出た部長は、キック、押尾さん、ナオリン、西野さん、立山さんの5人を連れて俺らがいる部屋に戻ってきた。
その後ろから借家にいた男性の渡辺、大山のふたりが小走りで山さんを追いかけて部屋に入ってきた。
「あの、部長、俺たちふたりは何処かに住むところを探して、街で働いていきます。だけど、部長と登録… フレンド登録をしてもらってもいいですか?」
渡辺さんは、土屋たちといた時よりも明るく前向きな口調になっていた。
「もう部長じゃないよ」
山さんにそう言われ断られたと思い、渡辺さんは一瞬ショボンとした顔になった。
「山さんでいいよ、もちろんフレンド登録もオッケーだ」
そういうと山さんの方から渡辺さんと大山さんにフレンド申請をしたようだ。
ふたりは嬉しそうに、承認を押しているのか空中で指先をクリクリしていた。
「あの、たまに近況を報告します」
「部下じゃなくて、その、友人として!」
ふたりはそう言って部屋を出て行った。
「さてと、ギルドが再開するまで時間もある事だし、開拓村の仕事をある程度計画しておくか」
「じゃあ、あっちの部屋へ移動しますか?」
「う〜ん、小川さん達に別の部屋に移動してもらった方がよくないか?」
「ああ、街希望組か。そうだな、こっちの話を聞いてラク出来るかもとか思って、また開拓村組に来られても困るな」
「うん、部屋を分けよう。あそこは広いし開拓村の元の住民もいるから、あそこで話そう。小川さん達はも少し小さい別室に行ってもらおう」
という事で、小川さん、中野さん、1係の7人、それと三好今日香の10人は別の小部屋へ案内されていった。
「ええと、今ここにいるのは今後開拓村で開拓を頑張るメンバーと思っていいのかな?」
「はい」「そうです」
声に出して返事をする人や顔を縦に振りうなづく人など、見回すとそこにいる全員が自分の意思をしっかりと表示していた。
今までずっと目をそらしてきたが、ようやくこの世界での自分を認識したようだった。
「僕は“部長職”を辞めたが、皆んなの仲間として、長谷川くんの体調が戻りリーダーに復帰するまで代行させてもらう」
皆んなが長谷川さんと山さんを交互に見ながらまたうんうんとう頷いていた。
「まず初めにお願いしたいのは、全員がお互いフレンド登録をしてほしい。あの日は混乱していたから手近の者としかしていなかったと思う。今回はキチンと漏れずに登録をするように」
「あの…部長とも…お願いしてもいいですか?」
「もちろんだよ。あと、僕の事は部長じゃなくて名前の山川で呼んでほしい。山川次郎だから山さんでもジロさんでもいいよ」
山さんは目尻に皺を寄せて優しそうに笑いながら言った。
皆んながバラバラと動き始めフレンド申請を始めたようだ。
俺たち借家追い出され組は壁の近くに立ち、黙ってみていた。
ガヤガヤとフレ登録をし合っていた集団からひとり、安田さんがこちらに小走りにやって来た。
安田さんは俺の前に止まると、ガバっと腰を90度に曲げて頭を下げた。
え?何?告白か?いや、安田さん結婚してたよな? 俺、不倫はちょっと…。
「ごめんなさい! そんで、ありがとうございました!」
「え?あぁ、うん」
びっくりしてオドオドとした返事を返してしまった。
「ええと、ありがとうはわかるけど、ごめんは何をごめなさい?」
「あの、あの…いっぱいあるんだけど、まず事務室に置き去りにしてごめんなさい。それから仕事でも、いつも助けてもらってたのに島に嫌がらせされてる時助けなくてごめんなさい。あと仕事の成果を横取りして…ごめんなさい!」
びっくりした。
そんな事を気にしていたのか。
「置き去りにしたのは島だし、あの状況で追いかけるのは無理だったので自分でフロアに籠ったんだよ?それから業務中の島の嫌がらせ、アレはもう島の趣味というか、あの手この手で繰り出してくる島の嫌がらせをどう切り抜けるかを、毎日こっちも楽しんでいたから気にしないで」
思い出すと笑えた。
あまりにくだらない嫌がらせが多かったので百戦百勝だったな。
「それと、成果の横取りって”伝票自動印刷システム“の事?あれは横取りではなくて、安田さんに相談して俺が組んだシステムを安田さんの名前で申請報告してもらっただけで、横取りされたわけじゃないぞ?俺の名前だと島が絶対に申請を許可しなかっただろうし、安田さんの申請で通してもらったおかげで仕事がラクになった」
「で、でも、6係の業務ほとんどが鹿野さんの作ったシステムや改善案なのに、全部社員達が自分の名前で本部に申請出してたし…」
「うん、知ってた。誰の名前で出しても仕事がラクになるのに変わり無いからな。それに、安田さんだけだよ?自分がそれで表彰された事を報告してくれたの」
「だって、自分が作ったわけじゃないのに表彰されて金一封も出て」
「うん、あの日コーヒーとシュークリームごちそうしてくれたよね、ありがとう」
「だって、本当は鹿野さんがもらうべきなのに…」
安田さんの目に涙が浮かび始めて焦った。
そんなに気にしてたのか。
「他の人は全員知らんふりだったよ。安田さんは正直な人なんだなって思ってた」
ここで念話が入った。
『おい、それ、どういう事だ?まさかと思うが6係の数々の表彰は全てカオくんのを島係長がパクったものか!』
山さん激オコ。
『ええ!だってアウォードとかも複数受賞してたよな?6係の人達』
『おかしいと思ってたんですよ。春川さんとか中野さんにシステムの内容を聞いてもキョトンとしてたから』
『うちらの名前を使わなかったのはカオっちと仲良くしてたから、バレると思ったな。島ぁ』
『いや本当にスマン、カオくん、申し訳ない。別に派遣の申請は禁止されてなかったのに、完全に島の謀略だな、アイツめ!』
皆んなが怒ってくれて嬉しかった。
ふと見ると何故か安田さんはまだ俺の前に突っ立っていたままだった。
他にも何かあるのか?
「それで、あの!フレンド登録してください!お願いします!あ、また頼ろうとかそんなんじゃなく…。本当はあの日も登録お願いしようと思ったけど鹿野さんすぐどっかに行っちゃって言えなくて」
「そっか。うん、オッケーだよ」
そう言って安田さんに申請を送った。
ふと見ると安田さんの後ろに大塚さんがいた。
その後ろに何故か列が出来ていた。
申請待ち?
ビックリしていると横であっちゃん達がニヤニヤと優しい笑顔をしていた。
あの日、この世界来た日、
あっちゃんとユイちゃん以外誰からも申請してもらえなかった俺だが、この世界に来て少しずつ仲間が増えていった。
自分を利用する人でなく、必要としてくれる人が少しずつ増えているのかな?
開拓村メンバーは俺たち街メンバーにも漏れなく登録申請をしたそうだ。
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