第110話 やまと会議に部長が参加

さて、ゴブリンの氾濫騒ぎは何とか終結した。


死体はマップには映らないので広範囲に渡り、足で移動してゴブリンの死体を発見しては持ち運ぶ繰り返す事となった。

150人からの冒険者が総出でやっても3日かかった。

そしてとにかく臭かった。

「早くしろ!モタモタするな!燃やせぇ!燃やせぇ!」と、ゴルダが怖かった。


街の東側に逃げて隠れていた街の人々は自分の家へ戻り、南東側のスラム付近に隠れた人らも元いた北西のスラムへと戻って行った。

街はまだザワついてはいたものの、少しずつ日常を取り戻しつつあった。



ギルドは今回のゴブリン氾濫の経緯を王都へ知らせる報告書作成に追われていたり、強制依頼で参加した冒険者への褒賞金の支払いでごった返していた。



俺達はまだ教会(神殿?)の中庭の地下にこもっていた。

というのも地上の教会に戻るはずが、子供達が思いの外、地下での生活を気に入ってしまい、もう少しだけ地下にいようという事になった。

司祭やシスター達だけ地上に戻った。



俺たちはというと、今はまだギルドが忙しくて通常業務を開始していないため、ギルドの仕事を受けれずにいた。

せっかくだからこの機会にいろいろ話をしようという事になった。


教会の地上の小部屋に俺カオ、ヨッシー、ユウスケ、あっちゃん、ユイちゃん、そして部長の6人が集まった。



「第30回、やまと会議を開催しまーす」


あっちゃんの一声で会議がスタートした。


「わーパチパチパチ」

「あれ?30回目だっけ?そんなにやったか?」

「いや、3回目以降はテキトーでは?」


あっちゃんは涼しい顔でみんなのヤジをスルーして続ける。


「今回から新たに山川部長がこの会議に参加される事になりましたー」


「あ、どうも、今ご紹介に与りました山川次郎です。不祥の身ではございますが今後ともよろしくお願いいたします」


「おおー」「パチパチパチパチ」

「よろしくお願いします〜」


部長がその場の雰囲気に乗って腰を曲げて頭を下げ挨拶をした。


「ゴタゴタ続きでゆっくり話せなかったけど、部長はステータスで職業持ちなんだよね」


「部長はよしてくれ」


部長の顔がちょっと陰る。


「もう、この世界にやまと商事は無いんだし、部長という役職も終了だ。神殿にいた社員が1ヶ月の期間で巣立ったら、僕は鹿野くんらの仲間に入れてもらおうって思ってた」


「んじゃ 山さんで。あと、俺は鹿野じゃなくて、カオでおねしゃす。みんな愛称で呼び合ってるから」


「中松あつ子、あっちゃんでーす」

「石原良信、ヨッシーで」

「織田祐介、ユースケです」

「大森ゆい、ユイです。そのまんまです」


「山川次郎、山さんでよろしく!」


何だろう、さすが大手企業の部長だっただけあって不思議な安心感がある。

皆んなの顔も綻んでいた。



「ステータスが職業持ちなのは、カオくんとあっちゃんだけ?」


「そそそ、あたしは騎士でカオっちが魔法使いだよね」



「鹿野く、カオくん大活躍だったね、ゴブリン退治」


「そういえば、山さんは剣士でしたよえね? あっちゃんの騎士と山さんの剣士ってどう違うんだ?」


ヨッシーが疑問に思ったようだ。

確かに“騎士”も“剣士”も似たようなイメージだよな。


「単にゲームの違いで呼び名が違うのかな」


「そういえば新田さんと菊田さんも職業持ちだったね」


「新田さんが拳士で菊田さんがダークエルフ」


「え?新田さん、山さんと同じ剣士?」


「いや、そっちの剣士じゃなくて、こぶしの方の拳士の方」


たしかに、口から発すると同じに聞こえるな。

ユイちゃんの疑問に答えると、みんな納得した顔になった。



「キックとは同じゲームで驚いた」


「でもいいよなぁ、職業持ち。アイテムボックスとか、マップとか使えてズルいよなー」

「羨ましいですね」



ステータスの話で盛り上がったが、会議の本題は今後についてだ。

ゴブリンの氾濫で棚上げになっていたが借家を乗っ取られた俺達の今後について話し合いたかった。



「そう、話を進めるけど、借家を土屋さんらに乗っ取られただろ?で、今後どうするかの話」


「土婆!カオっち土屋さんなんてさん付けしなくていいから!」


「うん。心の中では婆呼びしてる」


「お金も全部取られちゃったんですよー」


ユイちゃんが土屋の悪行を部長に言いつけた。



「お金取り返そうぜ」


「いや、言葉が通じないしもう関わりたく無い」


そう、俺としてはアイツらとこれ以上関わりたくない。



「でもこのまま教会でお世話になるとして、今ギルドでの仕事が出来ないから教会に食費が払えないよ」


「それなんだけど、少しの間ならなんとかなる。実はゲームの時のお金がこの世界でも使える事がわかった」


「あ、こないだシスターに渡したお金」


「そう、あれ。と言ってもこないだ渡したのだとすぐ足りなそうで、そのあと半分ほど渡しちゃったから残り12金貨」


「え!12金貨あれば家賃楽勝じゃないか」


「ああ。だけどギルドが再開して仕事で稼げるまでどのくらいかかるかわからないし、そもそもギルドが混乱してる状況で次の家を探してもらうのはきびしいな。しばらくここで厄介になるとしたら12金貨なんてあっという間になくなる」


「自分達入れると60人以上の食費ですか」


「そうだね、子供達を差し置いて自分達だけご飯食べるとか出来ないからなぁ」


みんなもウンウンとうなづいていた。



「とりあえず残りの金貨はシスターに渡そうと思うんだけど、みんなの意見はどう?」


「もちろん賛成」「賛成」「同じく」「賛成。そもそもカオさんのお金ですし」「賛成ー」


即賛成してくれた皆んなを見て嬉しくなった。

マウントを取るためにやたらと「反対」「反対」と言うようなやつがひとりもいない。

良いメンバーが集まったなぁ。


ふと気になったので聞いてみた。


「あっちゃんや山さんはゲームの時のお金ないん?」


「ないー。アイテムボックスを隅から隅までみたけど無い」


「僕もないなぁ。すぐやめちゃったからねぇ」


「みなさんすぐやめすぎですよ」


ユイちゃんの残念オーラが半端なかった。

あっちゃんと山さんがショボンとしていた。




「今後のおおまかな流れとして

1、ギルドの仕事が再開して次の家が見つかるまでここでお世話になる

2、次の家に落ち着いたら、当初の予定通り仕事をしながらお金を貯めて店を開く」


「店?」


会議初参加の山さんにとって店うんぬんは初耳だったようだ。



「まだ何も決まってないんだが、一生ギルドの仕事をしていくより自分達の店とかあった方がいいかなと」


山さんは、なるほどと納得をしたようだった。



「3、店が軌道にのり、ある程度収入に余裕ができたら、他の街や王都の情報を集め家族をさがす」


「そんな先まで考えていたのか」


山さんは驚いた顔をした。

しかし、一瞬考え込むような難しい顔をした後、重そうに口を開いた。



「カオくん、いや、皆んなにお願いがある。さっき部長はやめたと言ったが、ここにいる間に部長として最後の仕事をしたい」


山さんが俺たちに向かって頭を下げた。



「今回のゴブリン氾濫の陰で起こった大騒動、開拓村脱走事件の後始末。生き残った者たち、脱走せず村に残った者達、あと借家の土屋達、それぞれの身の振りをどうするのか各人にハッキリ決めてもらい、それで完全に部長を終了としたい」


驚いた。

今まであれだけ振り回されてきて、まだ部長としての責任を果たすつもりなのか。

いち派遣だった俺に“部長”の重さを知る事は出来ない。

俺たちが早々に距離をとったアイツらのケツをまだ拭いてあげるつもりなのか。

山さんがひとりの人間として生きていくためにどれだけアイツらが足枷になっているんだ。



「特に村に残った長谷川くんがあまりに不憫で」


俯いた山さんがボソリともらした。

ああ、そうか。

開拓村に行った副部長の長谷川さん。


「長谷川くんの、少しでも力になりたい。もちろんできる範囲でだ」


「そうですね。さすがに俺も気になってました」


「副部長、以前の見る影もないくらいやせ細ってましたね」


「長谷川さん…死にそうだった」


「もちろん俺らに異存はありません」

「うん」

「ですね」


ああ、やっぱり。

良い仲間だなぁ。


山さんの顔にも笑顔が戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る