第58話 早朝ですが第二回やまと会議

日が昇り始めた頃


「あああああああ! 歯あ磨きたい!うがいだけとか気持ち悪いいいい」


「なんだっ?」


裏の井戸から中松さんの雄叫びが聞こえて目が覚めた。


頭をボリボリ掻きながら部屋から出ると、リビングではアリサがすでに朝食の準備をしているようだった。


「カオさん おはようございます」


「おはよ アリサ ふああああ」



アリサと挨拶を交わしながら裏のドアから外へでた。


「はよぉ 中松さん 早いね」


「呼び方!」


「あ、あぁ、すまん あっちゃん早いね もう起きたの?」


「口の中が気持ち悪くて目が覚めたー!」


ああ、歯磨きか。

こっちの世界の歯磨きはどうなってるんだ?

歯ブラシとか歯磨き粉とかあるのかな?

昔の戦後の日本みたいに指に塩つけて磨く……とかか?

いや、いつの時代だよ。


「フロア出るときランチバッグ持ってくればよかったあああ

バッグの中に歯磨きセット入ってたのにいい」


「みんな、身一つで脱出したの?」


「そーですよー 急かされたし混乱してたし!

あ!カオっち歯磨きセット持ってないです?

カオっち かのさんだし魔法使いだし!」


いや、ツッコミどころ満載発言だな。

カオっちって何だよ、っちってw

かのさんだしの意味わからんw

魔法使いでも歯ブラシは出せん……あ。


「いま、『あっ』って言った!

出せ!歯ブラシ出せ!」


あっちゃんが迫ってきた。


「あ、いや

ランチバッグって机に入ってるのか?」


「入ってる」


「ちょっと部屋戻ろうか 二階の中松…あっちゃんの部屋へ」


中松と言いかけてあっちゃんに睨まれた。

あっちゃんを連れて二階の彼女の部屋へ入った。

ベッド横の空いてるスペースに向かい、アイテムボックスからあっちゃんの机を出した。


「!!!!〜〜〜〜!神〜〜〜〜」


やまとの事務フロアから持ってきたあっちゃんの机にあっちゃんが飛びついた。

そして引き出しを開けて小さなバッグを取り出し、中から歯ブラシセットをつかみ出し頭上に掲げて喜んでいる。


うん。

お役に立ててよかった。

あっちゃんの机を持ってきてよかった。


さらに平たい引き出しを開けてスマホを取り出したり、一番大きな引き出しから通勤バッグを取り出して、

中をガチャガチャしながら感激していた。


かと思うと、歯ブラシセットを握りしめ、すごい勢いで部屋から出て行った。


呆気にとられぼぉっとしていたが、すぐ我に返り部屋から出た。

女性の部屋にひとりでいるのはね。


一階に降りてリビングを通り過ぎ自分の部屋に戻った。

もう少し寝よう。

と、ベッドに転がってウトウトしていたら、部屋をドンドンと叩かれた。


「第二回早朝やまと会議しますよーーーー!」


ハイテンションのあっちゃんに引きずられてリビングに連れていかれた。

そこには、ユイちゃん、ヨッシー、ユースケの3人が待ち構えていた。



「第二回やまと会議を始めます」


「ええ?何?こんな朝っぱらから?」


「情報は速やかに共有しないとです」


「そうだそうだ!で?俺の机は?」


「私の机も〜〜」


「僕のは…」


3人の期待に満ちた目……。


「悪い……あっちゃんとユイちゃんのだけ 他はない」


「何だとおおおお」


「私の〜〜」


喜ぶ女性陣と項垂れる男性陣。


「いや、机は自分とあっちゃんとユイちゃんのだけ持ってきた

他は持ってきてないんだわ」


「え〜と、ちなみに、壁沿いのロッカーとかは持ってきてます?」


織田さん…ユースケが多少の期待混じりに聞いてきた。


ん?どうだったかな?

と、アイテムボックスを覗いてみる。

あった。

職場の壁沿いにネームプレートのところにナンバーが振られたロッカーが並んでいた。

個人名のテプラが貼られたロッカーもあった。

俺は使わせて貰った事がないので、誰が使っているのか不明だったが、あっちゃんたちの場合も考えて一応収納してきたのだった。

ただ、ナンバープレートが個人名のは持ってきていない。


「ある……が、個人名のは持ってきてない

プレートのとこに番号が振られているやつだけ」


「5番、5番ありますか?」

「13番あるかああ?」


4本ワンセットのロッカーが4個。

1〜4、5〜8、13〜16、21〜24

お、ある。


「あるぞ〜

どこに出す?」


「とりあえず、ここで」


ロッカーは四つ繋がりなのだ。

5〜8番のロッカーと13〜16番のロッカーをそこに出した。

あっちゃん達が番号を言わないので聞いてみたら、ロッカーは男性と2係の総合職だけだそうだ。


織田さん、ユースケは5番のロッカーに張り付きポケットからロッカーのキーを出して差し込んでいた。

開いたロッカーの上部の棚に置いてあったポーチを取り出し、

ポーチの中の歯ブラシを確認して喜んでいる。


石原さん、ヨッシーは13番のロッカーの前で項垂れていた。


「ヨッシー?」


「鍵がねえ……机の引き出しだ 鍵」


ロッカーの足元にかがみ込んで項垂れていた。


「ヨッシー? 鍵壊していいならこじ開けるし予備の歯ブラシと歯磨き粉もあるよ?」


そう。

言い忘れていたが、アイテムボックスの中には個人的に職場の資料庫に持ち込んでいた歯ブラシや歯磨き粉の在庫がたくさんあったのだ。


「壊してくれ」


半泣きで頼まれたので、ロッカーの扉をベキっと開けた。

ステータスの職業にDKNがあったのでいけると思った。

DKN…土建じゃないぞ。ドラゴンナイトだ。

DKNはSTR(力)もそれなりだったからな。



ちなみに 女性陣の机はあっちゃんのアイテムボックスへ保管、

男性陣のロッカーは俺が収納、保管した。


この世界の家のセキュリティがイマイチだったから、

部屋に置いておいて盗まれるのを懸念して不便だが念には念をいれる事にした。

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