第44話 閑話 部長の憂鬱③ 山川部長視点

樹海のような樹々の中を大行列でマラソンしている者達の最後尾に私と騎士殿2名が付いて走った。


だが、走り出してすぐに前がつかえた。


6係が密集して止まった先に目をやると、1係の最後尾あたりで10人ほど固まっていた。


「ちょっと押さないでよ」

「痛い痛い痛い!掴まないで!」

「だって!蜘蛛の巣!」

「ヤダ!デカイ蜘蛛いるじゃない」

「え?蜘蛛?キャー!」

「蜘蛛?嫌だ!」


騒いでいるところに行こうとした私を背後から抜かして、ひとりの騎士が彼女らのもとへ素早く移動した。


「騒がないでください

静かにして

騒ぐとマモノが寄ってくる

声を抑えて、モタモタせずに、出来るだけ早く進んでください

前を見失なわないように!」


騎士は音量を抑えた声で、しかし厳しく彼女らを叱った。

私も遅れて騎士のもとに行った。


「しっかり前の人に付いて行けば蜘蛛の巣には引っかからないですよ

横に広がらず、一列で、前の人に付いて走ってください

急いで!前を見失いますよ」


グズる彼女らの肩を押し出すようにして、ひとりずつ前へと進ませた。

続いて6係が1列で走り出し、最後尾に付いて私も走り出した。

私の背後からふたりの騎士の大きなため息が聞こえた。


いや、ホント、申し訳ない。



フロアを出て走り始めてから1時間が経つかという頃、騒がしかった罵詈雑言もハアハアといった息遣いに変わっていた。

薄暗い森の中で足場の悪い樹々の合間を蛇行しながら走る列のスピードはドンドン落ちていき、最後尾の6係と私達はほとんど歩いている感じだった。


前の者を見失わないように、ただひたすら歩き続けた。

3時間近く歩いただろうか?

突然樹々が途切れて、開けた草原に出た。



みな、倒れるように草の上に座り込んでいた。

樹海を無事抜けられホッとした私の膝も力が抜けたようになり、その場に座り込んだ。

私の後ろの騎士ふたりも、私の横にすわった。



「本当にもうダメかと思った」

「自分も死を覚悟しました」


騎士達の心の声が口からもれた瞬間だった。

うちの社員がご迷惑をおかけしてホントにホントに申し訳ない。



心の中でひたすらお詫びした。

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