◎第36話・異国情緒あふれる

◎第36話・異国情緒あふれる


 翌日。三つ目の四大魔道具をどう探すか、カイルらはいつもの貸し会議室で話し合う。

 だが。

「やっぱり王都で情報収集から始めざるを得ないと思うんだ。だって情報が一番集まるのは王都だもん。外国を除くと」

「人の多いところには情報も多いですからな。人が少ないところは色んなものが少のうございます」

「外国の大都市も情報は多いと思うが、なんの手がかりもなしに、いきなり移動して異国で聞き込みをするのも、違う気がするしな」

 いつもの方法に落ち着きそうだ。

 しかし。

「まあそれしか思いつかないのは確かだけど、工夫が足りない気がする」

「工夫とおっしゃいましてもな」

 カイルはこのルーチンワークをどうにかしたかった。

「四大魔道具は国内にあるとは限らない。実際、アルトリア帝都の例はそうだったよね。王都よりも、もっと国際色豊かなところに行って、異国の噂もつかめるのが理想ではあるね」

「しかし、それだと滞在費がかさみませぬか。金策が多かれ少なかれ必要になるのでは、と」

「そうなんだよね。そこで王都の中の『異国広場』で露店を巡るのはどうだろうか」

 異国広場とは、外国の行商たちが集まる広場である。中央露店街などよりは規模が小さいものの、近くに駐在外交官たちの公館があり、異邦の者たちが集まりやすい環境にある。

 なお言語の心配はない。この国周辺はかなり広範囲に言語の共通化が進んでおり、なまりや多少の方言はあるものの、話が通じないということはまずない。まして異国広場の行商となれば、商売をするこの国の言葉を覚えるのは必須事項といえる。

「異国広場かあ。でも、別の国に四大魔道具があるとも限らないんだよね」

「そうだね。国内の動向も探る必要がある。つまり手分けだね」

 カイルは腕を組む。

「とにかく四大魔道具はどこに潜んでいるか分からないからね。網の目は狭く深くとか絞り撃ちというより、なるべく広範囲に拡げる必要がある」

「なるほど。確かにいまの段階では、情報のありかを絞りようがないからな」

「左様。それがしも同意でござる」

 セシリアとアヤメが同意する。

「よし。広くくまなく情報集めということで方針は決まったね。じゃあ――」

「待ってほしい。カイル殿、勇者のことは」

 セシリアが遠慮がちに意見を発しようとする。

「勇者? ミレディたちはもう僕らとは関係ないじゃないか」

「それは、そうだが……」

「ああ、逆恨みのおそれとか?」

「ああ、まあ、それも……もう少しミレディ殿たちには、優しく接すべきではないか」

 どうやら彼女はミレディを可哀想に思っているようだ。カイルの見る限りでは。

 憐れみをもって接する必要はない、と、カイルは当初から一貫して考えていた。が、逆恨みでかかってこられてはたまらない。それは確かであった。

「むむ。そうだね、勇者が何か仕掛けてきたら厄介だからね。なにせ相手は勇者の看板を背負っている。嫌がらせに勝っても、下手に痛めつけるのは信望を失うことになりかねない」

「いや……もう相手からは仕掛けてこないと思う。仲間も減っているようだしな。そうではなくて、その」

「なんだ、歯切れが悪いなあ」

 言いつつも、カイルは彼女が言いたいことをすでに汲んでいた。

「まあいままでの接し方が強引だったのは確かだよ。それは反省する。もうちょっと血の気を抑えて接することにする。相手から突っかかってこなければだけど、まあ、その危険もないか」

「……どういうこと?」

「イマイチ話が見えませぬな」

 困惑するレナスとアヤメに、カイルは説明した。

「というわけで、勇者一党は崩れかかっているみたいだ」

「そんなことになっていたなんて」

 二人とも少なからず衝撃を受けたようだ。

「まあ、もう僕たちが交差する余地は多分ない。そっとして、ほっとけばいいよ」

「うーん……そうだね……」

「そうするしかないですな」

 とりあえずは納得する二人。

「よし。じゃあ早速情報収集の手分けについてだ。異国広場と、中央露店街、酒場街、あとは……」

 彼らは分担の詳細を決め始めた。

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