◎第15話・居候の話
◎第15話・居候の話
そのすぐ後、とりあえず一仕事片付けたカイル一党は、いつものごとくギルドの貸し会議室に入った。
「で、今後どうするかだけど」
「いや、あの……」
レナスがおずおずと。
「なに?」
「あの……勇者様相手にあんな、いや、勇者じゃなくてもちょっとその、可哀想というか」
彼女は言葉を選ぶようにして自分の意見を言った。
しかし。
「なにが可哀想なんだい?」
「いやその、全体的に」
「大局的な話をするなら、勇者一党はそもそも、勇者の剣を手にできるだけの実力がなかったんじゃないかな。厳しい言い方だけど」
勇者パーティの結党からそれなりに時間が過ぎているのに、彼女らはその始まりたる勇者の剣の入手すら果たしていなかった。
それは当時ミレディらのもとに在籍していたカイルにも責任の一端はあるのかもしれない。しかしそれは証明のできないことである。
むしろ、剣の入手までにかかった時間が、勇者パーティが集団として力不足であることを物語るのではないか。
「とすれば、本来勇者の剣を手にできない集団が、僕たちのおかげでなんとか体裁を保つことができたんだ。僕たちは充分な手間賃を得る資格があった。そうじゃないかな」
「でも、思いっきり足元を見て吹っ掛けるのはえげつないような、気がする」
レナスが言うと、セシリアも同意する。
「私も、そういった頭が回るほうではないから、本来どうこう言えないが、しかしえげつない感じではあったな」
しかしアヤメは首を振る。
「いや、それは違いますぞご両人。カイル殿は最善の決断をなされた。あれ以上の落としどころを、それがしは思いつきませぬ」
「だけど、勇者に吹っ掛けるのは」
「金は取れるところから取る。勇者から取引的な信用を受けても、我々は長期的な取引をする商人ではありませぬゆえ、役に立たぬことです。そうだとすれば、商人的な信用など捨てても、思い切り高値で売り払うのが至極当然でありましょうぞ」
「そうだけどさあ」
レナスが困惑しているのを見て、カイルが仕切り直す。
「いまは次に何をするか考えよう。とはいっても、冒険者の使命、四大魔道具の入手が目標ってことになるんだろうけども」
「どの魔道具を最初に狙うか、といったところだな」
「セシリアさん、その通り。まあ、どの魔道具も僕たちは所在を押さえていないから、どう決めればいいのかってことだね」
しばらく沈黙していた一行だが、カイルは唐突に。
「意味があるかどうかは分からないけど、これまでの歴史上、最初に見つかった四大魔道具は『バリスタの星光』だっていうことが多いと聞いたなあ」
バリスタの星光。対になっている四大魔道具の一つと組み合わせると、引力と斥力を操ることができるという。
三人がカイルを見たあと、それぞれ思案する。
「もしかしたら、四大魔道具の配置がだいたいそうなるように決まっているのかもね」
「だとすれば、それが運命というものか」
「いずれにせよ、とりあえずはその、『バリスタの星光』を探すのが、どちらかといえば良策ですな。根拠は多少弱いですが、それはどの魔道具も同じでしょうぞ」
「うん、方針は決まったね。まずは王都で手がかりを探そう。とはいえ、直接、すぐに所在をつかめるとは思わない。ちょっとでも気になる情報があったら、みんなで話し合おう。手分けして情報収集だ、いいね?」
「了解!」
レナスが元気よく手を上げた。
だが、すぐには情報収集活動は始まらなかった。
「あいや、待たれよ、皆様方」
呼び止めたのはアヤメ。
「なんだい?」
「それがし、以前より思っておりましたのですが」
アヤメはいたって真面目に続ける。
「カイル殿だけ自宅で寝泊まりして、残り三人は宿に泊まるというのは、お金の無駄のように思えまする」
率直であろう一言。
「うん、僕もお金の心配はしていた。けど」
「男女で同じ屋根の下がまずいと」
「そう。たとえ何事もなかったとしても、誤解を招きかねない状況はいけないと思うんだ」
「しかしカイル殿」
アヤメは腕組みする。
「冒険中の野宿で、結局同じことになるのでは?」
「それは、まあ、確かに」
野営のときに、男女の寝床を厳密に切り分けることはできない。できたとしても、火急の出来事に対応しにくくなる。
「でももう一つ理由があるんだ。僕の家、狭いよ。四人で暮らせるような広さじゃない」
その言葉に、今度はセシリアが反論する。
「何事も工夫だな。寝るときは家主であるカイル殿以外、野営寝具で床で雑魚寝すれば、とりあえず寝床の空間は確保できる」
「僕だけ、固くて粗末とはいえ寝台で寝るのは申し訳ないよ」
「家主で頭首となれば、それでもよいのだ。土地税と家屋税を払っているのも、ほかならぬカイル殿だしな」
「それに、まとまって暮らしたほうが、宿代の節約だけでなく、何かと費用が小さくまとまって済むのではありませぬか。規模の利益といいましたかな」
だが、カイルは浮かぬ顔。
「むむむ……」
「料理や掃除も、四人で分担すれば捗るだろうな」
「左様。特に料理人系統の天性持ちのレナス殿が作ったご飯は、美味いと思いますぞ」
「ひゃ、ここで私の話?」
いきなり話を向けられたレナス。
「うぅん、確かにカイル君に料理を食べてもらいたい気は、するかも」
「おやレナス殿。それはカイル殿への結婚申し込みかな」
「……はっ! ちっ、ちが……!」
「なんだかんだいって、レナス殿も乗り気でござろう。ならば、ためらうことは何もないと存じますが、頭首カイル殿、いかがか」
どうやら三人の意思は固いようだ。
「まあ……宿代は僕も気にしていないといえば嘘になるし、そうだね、そうしようか」
「ご英断ですな」
「その代わり、僕の家の片づけとか、手伝ってもらうことになるよ。散らかっているからね」
「そのぐらいは居候として、やって当然であろう。何も異議はない」
「カイル君と同じ家で……エッヘッヘ」
レナスが気持ち悪い笑みを浮かべていたが、カイルは特に気にしなかった。
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