赤髪の花婿・4

道すがら漣緋の事情について飲み込むが、大きな疑問が一つ残った。

漣緋が前任であれば、新補佐は太守を出迎えもせず、どこにいるのだろうか……。(あの不遜な補佐だった青明でさえ、門まで迎えに来ていたのに。などと言ったら、平手を食らうかもしれない)


太守館に到着すると、応接間の卓に揃って座る。


「じゃあ、今の、俺の補佐はどこにいるんです?」

「ふふ、補佐はただいま出迎えの支度をしておりますわ。ところで太守様、そちらの方は……?」


漣緋は不思議そうな顔をして、青明の顔を観察するように見やる。

その視線がなんとなく痛く感じられたが、平生を保って涼やかに答えた。


「ご挨拶遅れ、失礼いたしました。わたしは鈴青明と申します。赤伯さま……いえ、太守さまの前任地にて補佐をしておりました者です」


青明は立ち上がると、恭しく礼をする。長い髪が肩をすべり落ち、空を揺れた。


「あらまあ、そうでしたの。なぜ、前補佐の方がご一緒に? そちらにも新任の太守様がいらっしゃるのではなくて?」

「そ、れは……――」

「――お待たせいたしました」


答えようとしたその時、小鳥が歌うような美しい声が応接間に響き渡る。

戸を開いて立つのは、年頃の娘だった。茶具を乗せた盆を持つ彼女のかんばせは、まさに花のようだ。


「ああ、参りましたわ。ふふ、わたくしの一人娘……翠佳スイカです」

「この度、母より太守補佐の任を受け継がせていただきました」


下がり気味の眉はとても穏やかで、ややきつそうな母親とは違う雰囲気をまとう大層な美人……なかなかここまでの器量良しを探しても、見つからないだろう。

それだけでなく、花の匂いたつような美しい所作を身に付けている。この母親の、教育の賜物だろうか。


「娟翠佳と申します。太守様、末永くよろしくお願いいたします。あら……なんて、お綺麗な方……」


翠佳の視線は、またも青明を捉えている。


「で、ですからっ、太守さまは! こちらの赤伯さまです!」

「あらまあ、そうでしたのね。失礼いたしました」


訂正にも動じず、翠佳はおっとり答えると、茶の支度をはじめる。

袖から覗く白い腕がやけに眩しい。指先に付く爪は、まるで桜色の貝殻のように可憐だ。そこらの男ならきっと、翠佳のことをいくらでも眺めていられるに違いない。

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