左遷太守と不遜補佐 ―柳は青、花は赤―
佐竹梅子
左遷太守と不遜補佐・1
「おお! 見えてきた見えてきた! あれが都市の入口だな」
青年は目の上に人差し指の横腹をつけ、手の平で視線上に陰を作る。
そうすれば遠くが見えやすいとしたのは、いったい誰なのか。
「よっし!」
希望に満ち溢れた掛け声をして、肩にぶら下げた荷を持ち直す。
そうしてまた、目的地へ向けて歩を進めるのだった。
◆ ◆ ◆
いつ、どこのことかを知る者はいないが、あるところに
それを囲むのは七つの州と、その中で点点と散らばった都市。そして都市それぞれに付随する村落たち。その簡素な構成で、この国は成り立っている。
王は、主たる都市に『目』として太守を配備し、各々の統治によりその血管を機能させている。
なんとも平穏な体裁ではあるが、この国の王といえば、温厚そうに見えながらも、短気で底は身勝手だと専らの噂で、民よりも国よりも、たった一人の自分を愛しているやらいないやら――それ故のこの国政であるというのが民の中ではほぼほぼの共通認識であった。
それでも国が大きく乱れずに済んでいるのは、豊富な生産物と、水に恵まれた地形ゆえだろう。
そんな王に左遷されたとも気付かずに、新たに太守に就こうとしていた青年がいた。赤みがかった頭髪にふさわしく、名前を
金色に輝くその瞳はまるで猫のようで、齢十九にしてはどこか幼さを感じさせる。
硬い前髪は後ろへ撫でつけようにも葛巾へ収まることはなく、なんとか後ろ髪だけでも包んでいた時期はあったものの、今や適当に散髪をしてその剛毛を好き放題に晒して過ごしている。
纏う衣はぼろ布を継ぎ合わせた訓練着のままで、いわゆる官吏の官服を身に着けていない。
青年は、どう見ても太守に就くという風体では到底なかったが、その表情は希望と気概に満ちていた。そう、そもそも彼は国境の守備隊を望んで国へ仕えた身であり、もとは宿屋を営む平民の出である。
本来の太守といえば、王がその『目』と選び、生まれながらの血筋や教養などの才を持った、そこそこの家柄、地位、官職の絡まった者が賜るものだ。となれば自然と世襲を採る形となり、大幅な改変はそうそうに起こらない。ではなぜ、その資格の欠片も持たぬ赤伯がそのような大役についたのか――それは、遡ること半月前のことだった。
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