授けられし希少なギフトで冒険者として生きていく
夜野のきあ
第1話退屈な毎日と変化
ほぼ黒で一部が青という変わった髪色。そして左右の色が違うオッドアイの瞳を持って生まれたのが俺リオだ。産まれてきた赤ん坊が普通の子とは異色過ぎたため俺を産んだ母、家族である父や兄、姉は気味悪がった。
そして家族ではないと判断されかけたが三歳の時に教会で行われるギフトの授与を待ってからでもいいだろうと一旦その決定は先伸ばされた。
このギフトの授与式は貴族の子供なら誰でも授かって当たり前。もしも授かれなかったのなら貴族の子供では無いとの落胤が押される。
そしてリオが三歳の時、教会で行われた授与式でその当たり前が一つも与えられなかった。これが決定打となって俺は気味悪いだけでなく貴族の欠格品と下され居ないものとして扱われた。
生まれてから今まで両親たちの居る本館ではなく別館で生活を送っていたが、この決定によって俺が本館に移ることは無くなった。
両親達は気味の悪い俺が居る別館には決して近寄らない。そのため全く顔を合わせることはなかった。別館には俺の世話を任されている側仕えが居たが、その側仕えにも気味悪く見られ見下された。
俺の送る生活は到底貴族子息とは思えない毎日であった。
十歳位の頃、こんな生活を送り続けることを遂に自分の心が耐えきれなくなり逃げ出した。側仕えに気づかれないよう抜け出して外へ逃げた。だがどうせバレたところで心配する奴は一人もいない。
そして俺を探すこともしないだろう。なんなら厄介者の存在が居なくなって喜ぶだろうな。
誰か一人だけでいい、俺の事を心配してくれるそんな優しい人が欲しかった。そうすればまだ俺の心も耐えられた。
***
行き交う人々は貴族の家から街へ逃げ出してきた俺には気づかない。視界には入っても気に止めもせず横を通り過ぎていく。
ただ何も考えず、当てもなく彷徨う屍の如くボーッと歩き続けた。
ここは一体何処だ…?俺は街へ逃げてきた筈なんだが…
リオ気がつけば街ではなく森の中にいた。どれくらい時間が経ったのか日が暮れかかっていた。
ふと頬に何かが当たった気がして上を見上げれば清々しいほど晴れていたはずの空がどんよりと黒灰色に濁った雲で覆われていた。
これは大雨が降るだろうな…と思ったのと同時にポタポタから直ぐにザァーザァーへと変わった。
近くでピカッて光ったと思えば雷も発生しているようだ。俺の思った通り土砂降りの豪雨である。
辺りには誰もおらず俺一人だけのようだ。そりゃあそうだろうな。森の中には危険な魔物がうじゃうじゃ蔓延っているから絶対に入るなと親から子へ云われている。
そんな所へ進んで入ろうとする
漠然とあー俺って…死ぬのかもな…と思った。でもこんなクソみたいな人生ならいっその事死んだ方がマシなんじゃないか…そんな考えが頭をぐるぐると駆け回った。
そんな思考をしながらも身体が勝手に歩き続けていたのか、ふと目の前に意識を向ければ森の中で少しだけ開けた場所へと出た。
そこには一つだけポツンと物寂しい感じで古びた教会だったらしき建物の残骸があった。
こんな所に教会なんてあったのか…?
俺は疑問を感じてその場所へと近づいて行った。古びて苔も生え黒ずんでいるものの精巧に描かれた模様などは残っていた。その中でもかろうじて奇跡的に壊れずに残っている女神像を見つけた。
古びていて決して綺麗ではないのにその女神像からはハッキリとは分からず言葉には出来ない何かを俺は感じた。
まるで何かに導かれるように俺は女神像の前で膝をついて祈った。
”俺も人並みに幸せと思えるような人生を送りたい……多くは望まない、一つでいいからギフトを授かりたい”と
もしも周りに人が居たのなら”こんな古びた場所でこいつ馬鹿だ”や”頭が可笑しいんじゃないか”と俺を嘲笑っていたかもしれないがそれでもいい。
そんなの関係なく俺は願っただろう。
その場で数分ほど待ってみたが何も起こらなかった。やはり俺は神にも見放されてしまったのか…このまま何の変化もなく過ごしていけと。
諦めこの場所から離れようと立ち上がった時、突然目の前の女神像が淡く光りだし女性と思われる声が辺りに響いた。
「まずは神のミスで何も与えられなかった貴方に謝罪を。本当にごめんなさい…その神に代わって私にはただそれだけしか言えない。けれどこの場所を見つけた事に対する祝福としてこれからの貴方の人生が良くなる事を願い、この教会に残されし最後の力を使って貴方にギフトを授けます。ただ…成人を迎えるその日までは使えないのです。残念ながら私に出来ることはここまでのようです。もう行きなさい、ここは直に崩れて消えてしまう」
女神像の光も消えて正体の分からない女性の声は聞こえなくなった。
あれは女神様なのか…?最後に俺の気のせいでなければ”また会いましょう”と言っていたように聞こえた
これは夢か本当の現実なのか区別がハッキリせずリオはその場から動けずに暫し呆然としていたのだが、身体が何かに操られるかのように教会の外へと追い出された。
外へ出たのと同時に後ろから建物が崩れる音が聞こえた。直ぐに振り返ろうとしたのだがまるで”振り返らずに進みなさい”と言われているかの如く身体が硬直して後ろを向けなかった。
それと一緒にリオの思考も霧が掛かったように霞んで気がついた時には何も無かったかのように抜け出す前にいた自分の部屋のベッドの上で眠っていた。
あの森の中の教会から自分がどうやって帰ったのかは何も覚えていなかった。逆に無理に思い出そうとすれば頭が痛む。
別に知らなくていいと伝えてくるようだ。なら悩む必要も無いだろうと考え、俺は気にしないことにした。
屋敷や別館では俺が抜け出していた事などやはり誰も気づいておらず騒ぎになっていなかった。いつも通りの日常である。
教会の日から特に何かが変わることもなく俺の毎日は寝て起きてご飯を食べる。そしてする事がないので本を読むという退屈な日々であった。
少し変えたことはある。前は運動不足にならない程度の運動だけしていたのだが自分の身は自分で守れるようになろうと考え、隠れて体作りと体術の勉強を始めたことだろう。
そんな毎日は俺の成人と共に終わりを告げた。
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